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『裏切りへの裏切り』

フィオナは俺へ何も言わず、ただ微笑を残してエリナの方を向いた。


「貴方は誰だか分かりませんが――ケイトに攻撃するっていうことは覚悟は出来ているのですよね?」


 強い口調で、フィオナはエリナに向かって問いただした。


「ああ、あの時で出会った――確か名前は、フィオナ・リラン……。だったはずね」


 エリナはフィオナに対し、威圧的な表情を崩さずにこう言った。だが、フィオナも負けじと炎の中を突き進んでいた。その勇敢な姿は「勇者」そのものだった。


「フィオナ!? 大丈夫なのか!!」


 俺は大声で叫ぶ。エリナから放出される炎を容易く振り払って突き進んでいた。少しずつ、確実にエリナから出される炎の威力が弱まっていく。炎はとっくに俺の元へ届いてなかった。だが最初は俺にも炎は喰らっていた。こうして平然と生きているのも「勇者の素質」の力が作用しているからかも知れない。


 そしてフィオナは俺の問いに何も答えず、ただただ無言でエリナの炎を突破していっている。エリナからは焦りと葛藤の表情が表に出てきていた。そしてフィオナからは、何かとても強い意志のようなものを感じた。


「嘘よ……。やめて、来ないでッ!!」


 エリナは声を強く上げる。震えて動けない様子だった。

 何かおかしい。本当にアイツは動けないのか? 本当にアイツは恐怖を感じているのか

? こんなに強いエリナが、フィオナの一振りで本当に死んでしまうのか。


「いや、違う」


 フィオナは腰元のナイフを取り出すと、それを大きく振り上げた。エリナは何も動じず、ただただフィオナのナイフを見つめている様子だった。


 自分の身体が動かない、フィオナを助けなければ――絶対にアイツは返り討ちになる。あの恐ろしい力を俺はずっと見てきたんだ。きっとアイツには裏がある。俺の仲間は――フィオナはとんでもない結末を迎えてしまう。


 俺は逡巡していた身体を精一杯に動かす。

 そして、俺は自分への怒りと悔しさを混ぜて大声で叫ぶ。


「――だったら、俺が行かなくてどうするんだよっ!!」


 俺は惰弱だ。俺は卑怯だ。俺は貧弱だ。俺は劣情だ。自分が助かる方へと、自分が楽しい方へと、自分が楽になる方へとすぐ流されてしまう。ああ、俺はそういう人間だ。きっとそれは、今も今後も変わらない。だから俺はフィオナを助けて、今も今後も、「この選択は間違っていなかった」って笑えるようなルートを選ぶっ!! 


「――こんな怖い表情しないでよ、あの時みたいに一緒に笑おうぜ、フィオナ!!」


 俺はフィオナの所へ走って、走って、全力で走り続けた。そう、あの暗闇で過ごした日々、俺にとっての大切な希望を、失うわけにはいかない。


 フィオナが俺の方を振り返ると、俺はフィオナに向かって、手を差し伸べた。振り向いたフィオナの目には光が無かった。ただただ、何の表情もなしに俺の姿を見つめていた。


「笑えよ、フィオナ。俺はお前には笑っていて欲しい。俺が絶望の闇にとらわれていたときにお前は俺に手を差し伸べてくれた。俺に希望を与えてくれたんだ。お前には大した事じゃ無いかも知れないけれど、俺は嬉しかったよ、だからさ、次は俺がお前を救いたいんだ、お前に笑顔で生きていて欲しいんだ。俺はお前を信じたい、だからお前も俺を信じてくれ。そして――この手を取ってくれないか」


「……私は――貴方を裏切ろうとしたんだよ、それなのに、駄目だよ……ケイト」


「裏切ろうとしたとかって――実際お前が俺にとった行動は裏切りじゃなくて救いだったじゃないか。それは思ったかどうかが重要じゃ無くて、結局は取った行動だろう? それに裏切ろうとしたとか率直に言うのな。素直なのは良いけれど少しケイトくんは悲しくなっちゃたな~」


「ごめん……ね」


「なーんてな、俺はお前に助けられて嬉しかったぜ。だから俺はお前を助けようとした。また貸した借りを返そうと頑張ったんだぜ? 本当に、お前のお陰だよ、フィオナ。ありがとう」


 俺はフィオナに「笑顔」でお礼をした。その瞬間――森に風が小さく吹いた。

 フィオナは俺の顔をしっかりと見つめていた。やがて、風がフィオナの髪を靡かせると同時にフィオナの目には光が芽生え、優しい笑顔を浮かべて、ボロボロと涙を流していた。


「……本当、ずるい人だねっ。ケイトは――なんでこんなに、私に優しくしてくれるんだろう」


 フィオナは握っていたナイフをポトリと落とすと、俺に顔を埋めてしまった。

 そしてフィオナは顔を埋めていたまま、俺にゆっくりと言葉を綴った。


「希望をくれてありがとう。励ましてくれてありがとう。優しくしてくれて――私は今、こんなに幸せですっ!!」


 フィオナはしゃくり上げながら、それでも俺にしっかりと言葉を綴った。


「――今、幸せなら顔を上げようぜ。そして、フィオナの最高に可愛い笑顔を俺に見せてくれ!!」


「…………うんっ!!」


 フィオナは埋めていた顔を上げ、俺にとびきりの笑顔で笑ってくれた。恐怖と幸せがこんがらがって、泣きながら、それでも幸せそうに笑うフィオナの笑顔は、俺にとっての希望は、きっと永遠に忘れないだろう。


「―――なんで、洗脳が解けたんだ……完全に奴隷になったんじゃ……そんなことが――」


 エリナは何故か急におどおどとしていた。俺は恐怖で這いつくばるエリナの元へゆっくりと近づいた。エリナは、やめてやめてやめてと、土に向かい連呼していた。


「お前の策略は、いまだ良く分かっていないが――エリナ、お前の負けだ」


 エリナは恐怖で満ちた顔を崩さずに俺に弱々しい声で俺に言った。


「やめて……助けて――死にたくない。御願いだから、何でもしますからッ!! 私を――私を見逃して下さいッ!!」


 実に醜かった。見ていられない。俺の幼馴染みがこんなにも強く、それなのにこんなにも酷い人間だったとは、真底俺はがっかりする。だが、もう今更サラサラだ。罪は償って貰う。


「悪いな、エリナ。お前は俺を敵として永遠に封印しようとした。ついさっき、俺を殺すほどの灼熱の炎を上げていたじゃないか。それなりの覚悟を受けてもらうぜ」


 立場逆転、完全勝利。俺は確信している、完全にこの勝負に勝ったということを。


「御願いだからっ、殺すのだけは辞めてッ!!」


 俺はエリナ微笑んで、フィオナの方を向いた。フィオナは黙って俺の方を見ている。


「フィオナ、ナイフを貸してくれ」


 フィオナはとびっきりの笑顔でナイフを渡す。この状況で笑顔でナイフを渡すとか、完全にフィオナさんはサイコパスポディションなんですけど……。


「おう、ありがとう」


「辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて辞めて――」


 エリナは気が狂ったようにずっと同じ言葉を繰り返していた。だが、やると決めた以上、辞めることは出来ない。


 俺はエリナの目にしっかりとナイフを見せつける。これで終わりだ、これで解決だ。もうソレしか無い。覚悟を決めろ、ケイト!!


 震えた手でナイフを持っている自分の手を握り締めた。そして俺は一旦落ち着こうと、深呼吸をして――

 不思議な感覚だ。怒りでも悲しみでも無い。喜びでも哀れでもない。恐怖なのだろうか。俺も、ちゃんと自分の感情の整理が出来ていないようだ。全く、本当俺はクールで良い面をしたがるぜ、こんちくしょう。

 

「よし、いくか」








 俺はそのナイフでエリナを刺さず、「自分」を刺した。

 森の風はいつの間にか、止まっていた。

エリナ「凄いわ~。愛の力凄いわ~」

ケイト「何だ? 嫉妬か?」

エリナ「ちゃっ……ちゃうわい!! ただ、少しだけうらやましいな~なんて」

ケイト「俺と対立しなければ良かったのに」

エリナ「いやお前と付き合いたいなんて言ってないから」

ケイト「あっ、それ言っちゃう? 地味に気付くこと平気で言っちゃう?」

エリナ「言っちゃうんだよなそれが」

ケイト「ブックマークや評価を御願いします!!」

エリナ「地味に強制になってんぞおい」

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