表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

『優しくて残酷なこの世界に』

今回は主人公が別です。話が少し戻ります。

 時は少し遡る――








「あぁ……。うう~っ」


 ここは何処だろう、暖かな日差しが皮膚に直接伝わってきた。目を閉じてていてもこの場所が明るいという事が伝わってきている。そして、心地の良いリズムで鳥がさえずりを歌っているのが伝わってきている。


「ほら、早く目を覚まして」


 ……誰の声だろうか。耳に強く声が響く。


「――何ですかぁ……」


 私は眠たい目を一生懸命に開ける。

 目を開けた直後、目の前の少女を見て一瞬で目を覚ました。


 慈悲という、優しさという。それらの感情が全く見えない。無慈悲で冷酷な少女が私を見下していた。だが、口元は少し緩ましていた。目は全く笑っていない。その姿はまるで生気のない人形だ。桃色の髪が終焉を支配するような独特なオーラを纏っていた。


「貴方は――誰なの」


「…………私はエリナ・ジェネシー。この度は私の目的とは無関係な貴方を巻き込んだようで申し訳ないわ」


「意味が分からない……どういうことですか」


 すると目の前の少女は悲しそうな表情で私に言葉の意味を告げた。


「貴方は何者かに封印された身ですよね。せっかく封印が解かれたというのに、その解かれた最初の場所が私が創りし出した闇の空間で。とてもショックだったと思います。このたびは申し訳ございま――」


「――待って」


 私は深々と謝っている少女、エリナさんの言葉を遮った。


「……あの――貴方が何故、私が封印されていた事を知っているのかは良く分かりませんが――それよりも、私の封印を解いてくれた人が居たから、今の私が居るんです。そんなきっかけを作ってくれた貴方が、何故謝る必要があるんですか?」


 流石にそれは間違っている。ケイトのお陰で私が助かっているのだ。エリナさんが居なければ、きっと私はここに立っていないだろう。そのきっかけを作ってくれたエリナさんが、謝る意味など無い。むしろ、感謝している。


「――確かにそうですね。アイツはその子の封印を解いた。私がきっかけを作った……か」


 エリナさんは不気味な笑みで独り言を呟いていた。何だろう。とても危険なオーラを醸し出している。感謝しているけれど、本当に良い人なのだろうか時々分からなくなる。


「それで話は戻りますが、何故貴方が私が封印されていることを知っているのですか。貴方の目的は何ですか。エリナさん」


 正直、エリナさんの目的も、エリナさんの今まで話している発言の意味も、ハッキリ分からない。今ここで聞きたいことをすぐ言わなければ……永遠に後悔をする気がする。


「ああ、私が創りだした空間ですから、その空間は私の支配下です。管理することも干渉することも簡単にできます。なので今回の件とは無関係な貴方のために、出口を用意したのです」


「あの……私の封印を解いてくれたあの人は――」


 薄々思っていた嫌な予感は的中した。


「ええ。我々の目的の邪魔者なので出口を消し、再度永遠に封印します」


 エリナさんが躊躇の欠片も無く、不気味な笑みを浮かべてそう言った。

 ずっと封印されて辛かった私に救いの手を差し伸べてくれた、優しくて、面白くて、楽しそうで――希望を与えてくれた大切な存在が、永遠に封印させると聞いて私は許したくない。


 いくら私の封印を解いてくれたきっかけを作ってくれた恩人であっても、私の封印を解いてくれた大切な人を、私は見捨てない。そんな事は私自身が許さない。


 私はエリナさんの意見に強く反対をする。


「ふふっ、この正義感に溢れた貴方の威圧。やはりタダじゃ許してくれなさそうね」


「……?? 何を言って……」


 そして私は目を見開いた。何故なら、エリナさんの手元には、私の大切な希望の指輪が握られていたのだから。


「確かに貴方の意見も分からなくは無いのですが……我々にも戦争を止める目的があるのですよ。もし、貴方が反抗するのならば、貴方の大切な指輪を一瞬で灰にして差し上げますよ?」


「あっ……」


 私は威圧を無意識の間に中断していた。そして、私はその場に力なく突っ立っていた。


「ふふっ、もし反抗を辞めるのなら、何もせず貴方の足でその場から立ち去りなさい。コレは返しますからっ」


 気持ちが揺らぐ。反抗せず逃げようか――そしたらエリナさんは私の大切な指輪を返してくれる……。

 ――でも、今は指輪より大切なものがある。


「でも、私はあの人を――ケイトを見捨てたりなんか出来ないっ!!」


 気付いたら私はがむしゃらに走っていた。もちろん、エリナさんの元にだ。涙をボロボロと流しながら。それを拭う暇なんてない。フィオナ・リランは今ここでケイトを助けると決心した。


 目の前だ。目の前にエリナさんがいる。今の私には強い能力やスキルも何一つ無い。それでも、そんな状況でも――守りたい人がいるんだ。


 もう迷わない。私は、私にとってかけがえのないあの人は――


「ふふっ、そんな攻撃なんて――効かないんだよッ!!」


 エリナさんは自分を中心に大きな円を描くように動かし、紅い剣で対抗してきた。生み出された剣技は、まるで剣自身が踊っているような動きで私を捉えた。美しい、ほとんど無駄の無い凄まじい技術だ。


「はやっ――」


 途端、私はその場に崩れ落ちた。稲妻のように走る激しい痛みや苦しみで頭がおかしくなりそうだった。

 私は剣で切られた腹部を見るとそこには止まる気配の無い大量の血が永遠と流れでいた。


「ごめんね、本当にごめんね」


 エリナさんは軽く私に詫びた。でも、詫びている様子は一切無かった。

 こういうのに慣れているのだろうか。容赦が無い、無謀な私にこんな威力を放ったのだから?


 エリナさんが紅い剣は指で先端をそぉっと撫でていた。もちろん、指には多量の血が流れ出ている。そしてソレを私の身体に優しく撫でるようにかけてきた。


「……ぐぎゃあッ!?」


「ふふっ、苦しいですよね。大丈夫ねすぐ楽になります。リラックスリラックス」


「――私に何を……」


 エリナさんは私を見下すような形で唇を緩めた。そして、指先から下を血で垂らしながらこう言った。

 その言葉は恐ろしく、悍ましく、最悪なものだった。


「貴方を私の仲間――いわば奴隷にするのよ」


「そんなッ!!」


「そうね、奴隷になったらケイトがもっと苦しめるように一緒に考えましょうか。ここからでも干渉出来るけど――やる事に制限があるしなぁ。一度解放させて、奴隷の貴方を使った苦しめ方にしましょうか。そしてルミネス様の目的を果たしましょう。やはり、仲間だと思っていた人に二回も裏切られると、相当辛いでしょうね……。その絶望に満ちた顔を拝むの、とても楽しみだわ。貴方もそう思うでしょう。我が奴隷、フィオナ・リラン」


「ルミネス様って……」


「きっと悲しむだろうなぁ、もしかしたら私達の未知なる「勇者の素質」を解放するかも知れない。怒りで我を失った姿――楽しみすぎるッ!! まあ「勇者の素質」を無くすのが目的だけれどぉ~、いくら解放したって転生されて弱体化したのだから、勝ち目はないだろうけれど」


「やめて……」


「最初に私がケイトを炎で潰そうとするから、貴方はその炎からアイツをかばって欲しいの。大丈夫よ、貴方には火属性の耐性魔法をかけておくから。そしてアイツは心を完全にお前に許す。ソレと同時にお前の裏切り―――最高のシチュエーションだと思わない?」


 血で濡れた彼女の言葉はより一層自分の恐怖を際だてた。死ぬ以上に恐ろしい、何度でもするから辞めて欲しい、助けて欲しい。私は心中の中で必死に助けの言葉を綴った。


 するとエリナさんは私の必死の抵抗に気付いたのか、私に冷酷な表情を浮かべた。


「まだ抵抗できる力だけはあるようね。逆らわなければ、邪魔をしなければ、こんな風にならなかったのに。貴方自身の判断を憎むことね」


 ――もう、私の懸命な願い事は儚く散ったようだ。


 何故なら、もう私は――







「私はエリナ様に忠誠を誓う奴隷となりました。先ほどのご無礼、どうかお許し下さい」


 エリナ様に心を奪われる奴隷と化したからだ。


「ケイトが心を許した少女、フィオナ・リラン。私の攻撃を防ごうとする優しさや、強さや、勇敢さを持っていた。そんな魅力的な彼女にケイトは完全に心を許す。だが、結局彼女の優しさも、強さも、勇敢さも全部偽物なのよ。そう、世界は優しくも残酷だわ」


 森の風が強く靡いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ