ケイト・クロムとほんとうのなかま
「とにかく、コレじゃあ埒が明かない」
俺は呆れてそう言う。このままではお互いの意見がずっと食い違うだろう。
「――とりあえず、束縛を解いてくれないか。折角地上に出たのに……ずっと寝ている体勢は辛いだろ」
「ん、いいわ」
エリナはそう言うと、パチンと指を鳴らした。その瞬間に俺の身体は自由となる。
やはり、こういう事が出来るとなると、本当のレベルは相当高いのかも知れない。
「意外と聞き分けがいいんだな」
「……何様のつもり?」
そうだ。エリナはツンデレ説あるぞ。何故なら、俺をあの漆黒の空間に封印する時だって出口がどういう訳か存在した。俺ごと封印するのなら何故出口を用意する?
「とりあえず――ここは勝負で決めるしかないわ。もちろん、お互い平等なルールで戦うわよ」
「はぁ? 結局お前も戦争を起こそうとしているじゃねぇか。その勝負をして何になるんだよ」
「これはお互いの埒が明かないから戦って――」
エリナは怒り気味に言う。俺はエリナの言葉を遮断する。
「……仮に俺が勝ったとして――それでお前は何をするんだ?」
「貴方の言うことを何でも聞くわ。でも、私が勝ったら今度こそ封印してやる……」
「封印つったて、出口が普通にあるじゃねぇか」
「あのね、フィオナとかいう関係ない子も一緒に巻き込む気は無いの。だから仕方なく出口を手配した。それなのに、出口を出現させている最中、一緒に貴方も戻ってきたのよ」
なるほど、じゃあ俺は間一髪でここに来れたという訳なのか。
「お前にも善の心があるんだな」
俺をフィオナごと永遠に封印すれば、俺がこの場所に立つことも無かっただろうに。俺がここに来る可能性もありながらも、フィオナを助けるとは……エリナは根っからの悪ではないようだ。
俺は苦笑しながら、こう言った。
……あれ? 何か引っかかるぞ。フィオナは女神によって封印させられたはず。ソレなのに、何故女神の幹部であるエリナはソイツを知らないんだ?
「おい、女神ルミネスは、フィオナをマジックストーンで――」
俺は言いかけて辞めることにした。よく考えてみろ、エリナがフィオナの詳細について知ってしまったら、フィオナも狙われるかもしれない。そんなこと、あってはならない。仮にソレを話して俺が助かったとしても……俺は人や自分の裏切りが許せない。だから、俺を裏切ったエリナはここで思い知らせてやる。
「善の心が無ければ戦争なんてどうでも良いに決まってるでしょ。それに貴方の意見も私の意見も筋は通っている。だから話し合いをしようとしたけど――時間の無駄だったわ」
「話し合いという名の拷問じゃないか」
そもそも話し合い以前に俺を封印したくせに、良くそんなことがいえたもんだ。
「それは、この世界を戦争から救おうと提案しているのに貴方が反発するからでしょう」
「だからそれは――話し合いとは言えねぇんだよ」
俺はエリナに向けて強い口調で言う。
「なんだ? 意見に反論をすると拷問するのか。自分がやったことがただの話し合いと判断する非常識人のお前にやっぱり仕事は任せられないわ。それともあれか? 自分の非を認めたくないが上に『負け』と知っていても『時間の無駄』という言葉で筋を通そうとしてんのか? 笑わせてくれんな。そんなの――お前の話は全く筋が通ってないぜ? 全くもって筋が通ってないお前と、どちらかが正しいかという戦いをするなんてそれこそ『時間の無駄』だろ」
「私が負けだと……? 時間の無駄だと……? 調子に乗るなァ!!」
おっと本性を現したようだ。エリナはブツブツと魔法を詠唱していた。ヤバそうな魔法だ、俺を本気で潰しに来ている。
「我が体内に疼く怒りの炎よ。世の理を破壊する一つの炎となり、憎きこの世に終焉を放ちたまえ。【エターナルカラプスフレイム】」
おいおい、完全に呪文詠唱が悪じゃ無いか。訂正、やっぱりエリナは根っからの悪だった。多分。
エリナは自身の手を広げ、大きな魔方陣を一瞬で作り出した。すると、その魔方陣から、森を全て燃え尽くすほどの大きな炎が勢いよく俺に向かって飛び出してきた。
「自然破壊も平気でするようなお前は兵器だな。なんつって」
こんな時にダジャレをかます。結局ルールはどうなったんだ。我も忘れて、ルールも忘れたか。
俺は魔法防御の結界を作る力も炎を凍らせる程の魔力も全てあの女神によって失われている。だからと言って、こんなダジャレで炎を凍らせれる訳もない。そう、俺は死ぬしか無いのだ。俺は、本当に無力だ。
森が、一面に赤く染まった。ここに神秘さも微塵に感じられない。ところどころに炎の粒が森を舞っている。余りにもの温度で視界がグッと揺らぐ。
――揺らぐ瞬間、世界を焼き尽くす程の業火が、俺の目の前まで差し迫ってきた。
「ああ、俺死ぬんだな」
理不尽だ。『勇者の素質』を持っているだけで、こんな羽目になるなんて。本当にこの世界は理不尽だ。誰かが戦争を起こしたから被害がその時と言うわけでも無い。結局、その戦争が原因で今、殺されそうになっている俺がいる。そして、それが正義だと言っている奴もいる。
「ま、指導する女神がこんなんだからな」
仕方ない、のか。多くの人が幸せになるのに、少しの犠牲は仕方ないで済ませられるのだろうか。
いや、そんなことは無い。少しの犠牲が仕方ない世界なのだったら、俺は生まれる世界を間違えたと思ってしまう。
俺はそんなことを思いながら、灼熱の炎の餌食となってしまった。
「……あいつ、ちゃんと逃げてれば良いのだが」
灼熱の炎に焼き尽くされている中、俺はそんなことを呟いた。
フィオナ……不思議な子だった。封印が解かれた今でも、能力は失い、今の俺のような状態なのだろう。俺のようにこんな目に遭わずに、必死で生きていて欲しい。【希望の指輪】の、あの時みたいに、他人のことをしっかり思いやれて、優しくて、元気で、必死で――幸せに生きて欲しい。俺は心の底からこんな事を思ってしまった。
「……あれ、なんで泣いてんだよ」
俺は灼熱の炎の中、思いっきり泣いていた。目から涙が溢れんばかりに流れ出ていた。悲しかった、辛かった、助けが欲しかった、励ましてくれる仲間が欲しかった。フィオナの存在が、どん底の俺を救ってくれた、俺を励ましてくれた。アイツは俺の救いなんだ。だが、フィオナの中では俺の存在はちっぽけな物なのかも知れない。それでも、それでもフィオナは、俺を――悲しくて辛かったこの俺を、救ってくれたんだ。
フィオナ、お前はどう思うんだろうな。お前の悩みをただ聞いただけの、それ以上でもそれ以下でも無い俺という存在があっけなく死んでいたら。でもな、フィオナ。お前がどう思おうと、お前がどう言っても、俺は、お前という存在が――
「なに主人公気取りで、勝手に一人で閉めようとしているのっ?」
「えっ」
俺の目の前にはフィオナがいた。紛れもない、フィオナという存在がここにはあった。
「…………お前、何でここに」
「ケイトがカッコイイなんてケイトらしくないからね」
フィオナが、俺の方を向きニッコリと微笑んだ。
「――いろいろ聞きたいことがある。だけど、事情は後で聞くよ。だが、一つだけ、たった一つだけだが俺がお前に今いえることがある」
フィオナは何も言わず、優しい笑みで俺の方を見続けていた。
俺は、フィオナに伝えなければ言えないことがある。他でもない、今じゃなきゃ駄目なんだ。
俺も、フィオナの方をしっかりと向いた。
……なんか、見つめ合う感じで恥ずかしいな。
俺もフィオナも炎によって赤く染まっている。炎の粒が俺達の周りを舞っていた。俺は見つめ合う形に少し苦笑して、俺はしっかりとこの言葉を綴った。灼熱の炎の中、俺は――
「――だから素直に言うなよっ!! せめてオブラードに包めこのロリ!!」
ケイト「フィオナたん、なんで来たんだよ」
フィオナ「いいことを教えてやろう、ここでのネタバレは控えようか」
ケイト「あっ、これもネタバレなのね。というか、この物語のネタバレを聞きたくないほどの熱烈な読者が存在するのだろうか」
フィオナ「やめてっ!! ネガティブになるのは辞めてっ!!」
ケイト「お、おう」
フィオナ「ブックマークや評価して貰えると嬉しいですっ」
ケイト「可愛いよフィオナt……」