ケイト・クロムとてんせいのいみ
敵側なりの正義がある。
「……しかし、フィオナと居ると楽しいな」
俺が思いついたようにこう言うと、フィオナは顔を少し赤らめて驚いた。
「……ええっ!? いきなりカッコイイ台詞言い出してどうしたのっ!? ケイトらしくないよ」
「数分俺といただけで俺らしさが分かるなんて凄いな――って、じゃあ俺はカッコ良く無いのかよ!?」
「うんっ」
「――率直に言うなよっ!! せめてオブラートに包めこのロリ!!」
「冗談、冗談♪」
フェリスは可愛らしい笑みを浮かべた。封印で姿が変わったとかいう嘘話といい、完全に俺のことからかっているな。子供っぽいというか無邪気って感じが出ている。
「しかし――どうやってこの空間から出るか」
再度辺りをを見回すが、俺達が立っているところ以外は漆黒の闇がずっと続いている。改めて不気味な場所だ。ずっといると鬱になりそうだから早く出たいのだが。精神を操るスキルが無い為、少しの明かりだけでは心細く感じる。
「う~ん、ここがどういう場所か分かればなぁ。私の封印を解いたケイトでも、この場所が分からないんでしょ?」
「すまん。変な人形に殺されて、その後ここにいたことしか分からん」
フィオナは手を頭に当て、考え込む仕草でウーンと唸っていた。何か心当たりでもあるのだろうか。
しばらく経った後、フィオナはひらめいた表情でキラキラした瞳を俺に向けてきた。
この表情から察するにフィオナがなにか分かったのだろう。俺は期待を込めてフィオナにこう言った。
「ん、何か分かったのか?」
フィオナはどや顔でグッジョブをした。何か分かったようだ。フィオナはコレといった時に役に立つようだ。これで、もしかしたら脱出の方法が――
「分からないことが分かった!」
駄目だコイツ使えねえ。
漆黒の空間を二人でさまよっているとフィオナが俺の腕を突きながら、ニヤニヤし始めて突然こんな事を言い出した。
「ねえ、これってカップルみたいだよね? 男女二人仲良く歩くなんて」
俺は重い足取りで歩きながらこう呟く。
「えっ!? ……あの~フィオナさん。いきなりこんなこと言うと心臓に悪いから辞めてくれませんかね」
フィオナは意地の悪い笑みを浮かべた後、転生前の顔はどうだったのかを聞いてくる。
正直、今の顔で満足しているから転生前の姿など俺にとって今更どうでも良い。
「まあ――世界トップクラス並みにイケメンだったからな」
俺は冗談めかしてこんな事を言うと、フィオナはなるほどヒキガエル並みにイケメンっと、と勝手に解釈して納得している。
「ヒキガエル並みのイケメンって何だよ……イケメンどころかブサイクになるだろコレは」
俺はすかさず突っ込みを入れる。ヒキガエル並みのイケメンって……仮にヒキガエルの中でもイケメンとかあったとしても傍からみたらみんなブサイクだわ。
そして何故カエルの中でヒキガエルを選んだのか。この際どうでも良いが。
「あははっ……てあれ!? この先に光があるよ!!」
フィオナは嬉しそうに大きな声を出した。
「おいおい、俺だって流石にこんな嘘分かる……ってガチかよ!?」
そう。俺達の目の前には【希望の指輪】が照らす微少の光とは比べものに無らないほど輝いている大きな球体を見つけた。それは、永遠に消えないのではないかと思うほどの強い光を放っていた。
「すげぇ……光の目印だ。こんなに目印になっていたのに何で俺達は気付かなかったんだ?」
「なんでだろう……空間魔法で近くに行かないと見えないようになっているのかな。それともこの光の球体だけを一定時間、隠蔽させる何かがあったのかな」
フィオナはふと、その物体に触れてみる。
すると、フィオナが触れた瞬間。その球体がもっと輝きだしたかと思うと、荒々しい音と共に、神々しい光の渦が俺達を襲った。
「うわっ――何だよこの光は!? 眩しすぎる……」
あまりにも強烈で鮮烈な光で、俺が目を閉じようとした瞬間。荒々しい音の中。神々しい光の中。小さな、ほんの小さなフィオナの声が聞こえたような気がした。
しばらくして、荒々しい音と神々しい光の渦が消え去った。
何とか俺の身体は無事のようだ。
しかし、安心もつかの間。俺はフィオナの姿が無いことに気付いた。あるのは、黒で埋め尽くされた漆黒の空間。そして、ついさっき俺達を襲った光の球体。
「フィオナがいないだと……」
俺は再度、光の球体を見る。それは変わらない様子で永遠に消えないのではないかと思うほどの強い光を放っている。変わらない光景だった。
「フィオナはこれに吸い込まれたのか?」
俺はその球体にゆっくりと右手を近づける。身体が震えた。きっと触れてしまえばあの光の渦を体験する事になるだろう。荒々しい音が、神々しい光が――俺はあの光景があまりにも強烈で鮮烈だった。何故なら、あの女神が俺を転生させたときに放った光と同じなのだから。
「やってやるぞ……勝負だ、女神ルミネス!!」
俺は光の球体に手を触れた。
刹那――再び荒々しい音と光の渦が俺の目の前で――
「ううっ……」
俺は目が覚めると明るい森の中にいた。美しい朝日が木々の間から漏れる。地面がその朝日のお陰で所々輝いていた。その光景は少し前に見覚えがあるものだった。
「もしかしてここは――」
俺は身体を起こそうとする。しかし、身体は俺の意に反して自由に動けなかった。まるで何かに縛られたような――
「おめでとっ、ケイト」
瞬間、近くで声がした。その声は聞き覚えのあるアイツの声だ。
「お前は……どういうことだよッ!!」
――そこには、エリナが立っていた。
綺麗にまとめられた美しい桃色の髪。純粋でしっかりと真実を貫いていそうな冷酷な目。ニコニコ喜んでいるその姿はまるで悪魔の子だった。少し俺より背が低く、それでも不思議と何かしらのオーラを醸し出していた。
「どういうことって……? 私が貴方の苦しんでいる姿を見たかっただけなの。だから私が創った虚無の空間に送り出した。死後の世界と勘違いした? まあ空腹も感じないからね、あそこは。死後の世界に近い物でしょ」
エリナは冷たい口調で俺に言い返した。アイツはもうエリナじゃ無い。何か別の生き物に生まれ変わったようだ。俺はエリナの急変した態度にとどまっていると――
「しかし、こんな短時間で脱出の出口を見つけるなんて想定外ね。もっと私を楽しませてよっ」
「…………え」
「だーかーら、独りでずっと出口を苦しみながら、もがきながら、狂いながら、死にたくても死ねないあの空間でもっと彷徨ってろって言ってんの」
俺は、エリナの恐ろしい威圧感に押されそうになった。だが、ここで黙ってはいけない。俺はエリナに聞きたいことを尋ねる。
「目的が……あんだろ」
「はぁ?」
俺は怒りを押し殺して言う。
「あんな空間に俺を送り出すと言うことは何か目的があるに決まっている。目的なしに、こんなことするメリットが無いだろ。苦しんでいる姿を見たかっただけ? ふざけてんじゃねぇぞ……!!」
エリナは一瞬驚いたような様子だったが、すぐに元の冷酷な表情に戻り、こう言った。
「ふふっ、適当に言ったら納得すると思ったけど、ここまでケイトも馬鹿じゃないよね」
「さっき倒した魔物で知力が上がったからな」
俺は冗談交じりにそういう。まず、この滞った場の空気を少しでも溶かせれば、一気に情報を得られる気がしたからだ。俺もなかなか考えた。敵との対話は心理戦も重要らしいからな。
「ふふっ、なにそれ」
よし、引っかかった……!! そのまま一気に情報を吐かせてや――
「グハァッ!!」
俺の腹部に、あまりにも強力な力で臓器が潰されるほどの痛みが電撃のように走った。あまりのも辛さで俺は何度も咳き込んでしまった。
「はぁ……はあっ、ゲホッゲホッ!!」
「テメェ調子乗ってんじゃねぇぞ」
目の前ではエリナが怒りに満ちあふれた顔で、上から俺をゴミを見るような目で見下していた。
エリナは俺に蹴りを入れたらしい。
「目的? ああ言ってやるよ。私の目的はなァ、「勇者の素質」を消すためだよ」
「ゲホッ……勇者の――素質?」
「ああ、テメェの中にはまだ「勇者の素質」が眠っていることが分かっている。ソレを解放してしまったらテメェが転生する前の力よりも大幅に強くなる。偉大なるルミネス様はそれを阻止する為に転生させたんだよ」
「おい、ちょっと待て……じゃあお前は一体何者なんだよ」
「私か? 私の名はエリナ・ジェネシー。ルミネス様に仕える十の幹部の一人よ」
「やはり……あの女神は、裏があったんだな。俺の勇者の素質を消すために……最初から転生させようとしたんだ。サボっていたとかは全く関係ない――他の勇者達も、その素質を消すためだけに転生させられたのか。お前の行動も全て――演技と言うことか」
そんな事を呟いていると、エリナは怒り狂った顔でこう言い放った。
「おい、ルミネス様は戦争を阻止するためにこういう事をなさっているんだぞ。しかも誰の犠牲も生まずになっ!! 普通の能力とは違う、なかなか消しにくい、素質を消そうとしてな。莫大な力を持つ素質は――「勇者」の素質は戦争を起こさせる危険な物なんだよォ!!」
エリナは今にも泣き出しそうだった。
「よくわかんねぇけど……女神の転生で消えるはずだった俺の「勇者の素質」は、完全に消せなかった。だから、こうしてお前が派遣された訳だな。「勇者の素質」を完全に消すために」
「ああ、あの人形も私が変身した物だ。これでお前に残っている素質の一つを見つけたよ。【ジャットブラックリザレクション】だ。あの空間に閉じ込めれば、「勇者の素質」と共にお前が封印できたんだよ――これだけが私に出来る精一杯の事なんだよ!!」
エリナも戦争をやめたがっているのだ。みんなそうだ。そうに決まっている。
でも……それならば、誰もが良く、誰もが幸せな世界ができあがってしまう。
「多分……お前に仕事は勤まらない」
「な……」
エリナは驚愕の表情を浮かべている。いいぜ、その真実を教えてやる。
「お前らが望んでいる平和はやってこない。誰かが幸せになるって言うのはな、その裏で誰かが「不幸」になるって事なんだよ。完全に幸せな世界はやってこない。確かにお前達の言いたいことはよく分かる。戦争は何も生まない。どちらかが勝ったら、どちらかが負ける。だが結局、勝った方も負けた方も多くの家族が奪われてしまう。こんなモノがあってはならない。自分の利益や都合のためだけに、お互いをお互いにずっと傷つけ合うなんて事は絶対にあってはならない」
「だったらどうして……!?」
「お前らの戦争をやめさせるという理由で勇者共はおとなしく、折角の素質を手放すと思うか? 普通はせっかくある大事な素質を変な団体が戦争をやめさせるため素質を消すとか言ったら勇者共は反抗するに決まってるだろう? それこそ戦争になっちまうじゃねぇか」
「何が言いたいの……」
エリナは何かを言いたそうに俯いて小さい声で言葉を発した。
「だから、お前らのやり方で「勇者の素質」を持つ奴らが全員消えたとして、お前らは良くても勇者は許さないと思うぞ。これでお前らが幸せになったとして、素質を奪われた勇者も幸せなのか? それこそ「不幸」だろう。だから、結局誰もが良く、幸せな世界はできっこねえんだよ。お前らがやろうとしているのはみんなが幸せになる行為じゃない。“自分たちが幸せな立場になるための策略”だ」
「……昔、「勇者の素質」があるせいで戦争が起こったのに、そういう歴史がここにはあるのにっ――それでも自分の強さのため、「勇者の素質」を奪われたくないのっ!? 自分の強さの為だったら戦争を起こして、犠牲を出しても良い、そんな卑劣な人たちなの勇者は!?」
「それでも今はこうして平和じゃねぇか!? それは、俺達、勇者が戦争を起こさないように――」
「違うッ!! 私達が行動していなければ、きっと戦争はすぐに起きていたはずよ!!」
「結局――今も争っているじゃねぇか」
俺は怒りに満ちた顔でこう告げた。
エリナ「これからも必ず戦争が起こるわ……」
ケイト「だからといって……石野郎みたいな手下を創ってまで――」
エリナ「石野郎って何やろう?」
ケイト「さらっとダジャレ混ぜんな。って”--じゃあ【マジックストーン】は?
エリナ「ふぇ? 何ソレ」
ケイト「……まさか、別の奴が創ったというのか――じゃあ女神は石野郎を――」
エリナ「あの~、ソレについては次回お話しするので……」
ケイト「おっと、メタくなってきたぞ……じゃあ、次回真相が分かると……多分」
エリナ「まあ、そういうことだねっ、ブックマークやポイントを入れてくれると嬉しいです!!」