ケイト・クロムとふういんされたしょうじょ
うふ-。設定まとめにくい。
真っ黒な闇の空間に一人の少年は立ちすくんでいた。その少年は震えた声でこう呟く。
「……殺された」
そうだ、俺はあの人形に殺された。石野郎を倒した後に、突如姿を現した目に生気がないあの不気味な人形にだ。そしてあの人形と握手したとき――あの感触はエリナそっくりだった。もしかして、アイツがあの人形に変身して――それはないか。
とりあえず俺は辺りを見渡す。真っ黒で何もない虚無な空間。そして、限りない黒がずっとここを埋め尽くしている。ここは何処なのだろう。俺の表情は絶望に染まっていく。
「何処だよ……何なんだよここは!」
俺は走る。走って走って――しばらく走った後、変わらない空間がここにあった。たどり着くことのない出口。出口なんてないのは分かっている。こんな場所に光がないのは、分かっている。何故か察した。そして、俺はその場に泣き崩れた。
「助けてくれよッ! 俺は悪いことなんてしてねぇだろ! こんな場所に居たくない、帰らせろッ!! 帰らせろッつってんだろっ!!」
孤独感という恐怖が俺を苦しめる。死後の世界はこんな場所なのか。
俺は泣き崩れていると、ポケットの中身が輝きだした。
俺は涙目でポケットの中を探る。
「【マジックストーン(小)】」
輝きだした正体は、石野郎を倒したときにドロップした、小さなアイテムだった。
「こんな物、何の役に立つんだよッ!」
俺は、思いっきり【マッジクストーン(小)】を投げつける。
――ッダン
誰かの足音のような、心地よい音を無音の空間に奏でて、ソレは儚く“消滅”する。
俺は無表情で、その瞬間を見つめていた。
そして、その無表情は驚愕へと変わった。
なぜならば、消滅したはずのソレの姿は何処にも無く、代わりに誰かが立っていたからだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は、大きな声で叫ぶ。これ以上の物があるかという程の大きな声だ。今まで生きてきた中で一番大きな声だろう。あっ、俺死んでたわ。
「……あのー、そんな驚くことなんて――ちょっと失礼じゃない?」
怒り気味でも分かる、とても可愛い美少女が立っていた。
身長は俺よりも小さく、小柄な子でミディアムの金髪は毎日しっかりと手入れされているように美しい。
可愛らしい顔立ちに、宝石のような美しい紅の目――その姿はやる気に満ちあふれていて、そして無邪気なようで、誰であれ暗かった気持ちを明るくしてくれそうだ。
「おお、これは完全にロリだな――って何で姿見えるんだ!?」
その美少女は、「初対面なのにまた失礼なこと言ってる……」などと細かいことで文句を言った後、その子は俺の質問に答える。
「このアイテムのお陰かな?」
その子は指に付けてある真ん中にハート型の宝石が付いている可愛らしい金の指輪を見せてくれた。
「おおっ……コレは?」
「【希望の指輪】っていうんだコレ。暗いところで、明るい光を照らしてくれるんだよ! 私、暗い所がとても苦手だから……そしたら、お母さんが私にコレをくれた……きっと大切な指輪なのにね。今でも少し悪いと思っているよ」
その子は、作り笑いをしてこう話してくれた。
初対面なのに、こんなに自分のことをこんなに話してくれて俺は少し嬉しかった。
「そっか……確かに大切な物を自分の子供に渡してしまうなんて、少し不思議かも知れないな」
「だよね……!」
と、その子も俺の意見に同意する。
不思議と明かりも暗くなっていたような気がした。
「でも――俺は親の気持ちも分かる」
「……えっ?」
不思議そうな顔をして、その子は俺を見つめる。
「俺が親だったら子供の手助けをしてやりたい。大切な子供の為だったら、いくら大切な物だとしても、それが子供の役に立てるのなら俺は――」
言葉が出なかった。言葉がまとまらなかった。
何故だ? 何故最後まで伝えれないんだ?
俺は言葉がつかえてしまい口籠もってしまう。
俺は、必死に言葉を探る。肝心な言葉が出てこない。
だが、きっと親はこう思っている。
「――子供の役に立ちたいんだ」
…………沈黙が走る。
俺は、変なことでも言ってしまったかも知れないと冷や汗をかく。
確かに俺は変なことを言ってしまったかも知れない。
親になったことも無いくせに、勝手に親の心情を考えて、根拠の無い言葉を並べて――
その子の支えになれるはずが無かった。
「……ぷっ」
「え?」
「同じ事二回言ってるじゃん」
「あっ」
必死に言葉を探したのに、同じ事を言ってしまったようだ。
俺は謝ろうとしたが、その子はそれを遮る。
「……何で謝るの? 私はこんな見ず知らずなのに真剣に親の気持ちになって考えてくれて――私を本気で励まそうとしてくれて、凄く嬉しかった――ありがとう!」
その子は涙を拭って、そう答えた。
「……俺は、自分の意見を言っただけだけどな」
俺は、照れ隠しをしてこう答えた。
まさか、こんなにも嬉しいと思ってくれるなんて予想外だったな。
その子はただ、ニッコリと笑っていた。
うん、やっぱり笑っている姿の方がよっぽど良いな。
すると、思い出したかのようにその子は話し始めた。
「あっ、ごめんねっ。私の名前を言ってなかったね。私はフィオナ・リラン。フィオナって呼んで」
「俺はケイト・クロムだ。ケイトで良い」
すると、フィオナは可愛らしい小さな手で握手を求めてきた。
しかし、握手というのは抵抗があった。
抵抗ができたと言った方が、正しいな。
だが、そんなトラウマに支配されては駄目だ。
出会いの握手は基本。不思議すぎる出会いだったけど――
俺は小さな手を強く握り返した。
「……しかし、どうしてこんな所に――いや、どうしてマジックストーンに閉じ込められたんだ?」
「女神様に封印させられちゃったの。実は、ちょっと前、女神様と一緒に働いていたんだ。スゴいでしょ! でも、私が気に入らないのか、いきなり能力を何かの石に封じ込められちゃった。だから今は何も出来ないんだ……その翌日、私もその石の中に封じ込められちゃったんだ」
「何でフィオナを封じ込めることを……?」
「分からない。いきなりだよ――せっかく良い仕事に就けたと思ったのに、駄目だったみたい」
なるほど、でも女神の元で働いていたのならフィオナの能力は高かったようだな。どういう仕事をしていたのかは分からないが。まあ、基本結界を張ったりする仕事だろう。
しかし、自分が封印されていたことより他の人の心配をしていたって事は――フィオナたん天使過ぎるだろ!?
俺はこの優しさを感心しながら、もしかしたらと質問をぶつける。
「もしかして――女神様ってルミネス様のことか……?」
フィオナは、驚いた様子で何で知ってるの!? と聞いてくる。
まさかのビンゴだ。同僚の仲間だったとは――
「俺も働いていたんだ……アイツの元で。勇者だったけど、転生させられてしまった」
「――勇者だったの!?」
フィオナは驚いた様子で俺を見る。そこまで、勇者っぽく無いのかよ俺は。
まあ転生で姿変えられているし、無理も無いな。
しかし、きっと何か意図がある行動だ。
――あの女神は、俺を転生させてフィオナと能力を封じ込めた。しかもフィオナの場合、能力と個体に分けて、あの【マジックストーン(小)】に封印した。恐らくそれは、封印が解かれても、失った能力を戻されないようにする為だ。しかし女神の元で働いて辞めるのならば、そのまま辞めてさせてくれても良いのに、わざわざ能力を無くすような事をした。
何故能力を無くす? ルミネスは何を企んでいる? 石野郎にマジックストーンを持たせたのは何故? どうして俺は“転生”でフィオナは“封印”なんだ? フィオナも転生で冒険者からやらせれば良いのに……絶対裏があるだろあの女神。
いや待てよ――フィオナが封印されたマジックストーンは、あの女神が持っていたもので、つまりアイツの所有物だ。自分の所有物を、魔物に持たせるのは“基本”不可能だ。魔物が拒むからな。しかし、『石野郎はあの女神の所有物をドロップアイテム』とした。それを表すのはつまり――
――石野郎はルミナスが創った……?
それなれば今まで見たことが無い魔物だということも辻褄が合う。そうすれば、マジックストーンを魔物に預けることが出来るし、創った本人の下僕になるからな。
「――まあな。自分で言うのも何だが、俺は生まれたときから基本何でも出来るガキだったんだ。俺の両親は「勇者」の素質があるんじゃ無いかって。あまり勇者って言う荷が重い職業に就きたくなかったが……勇者限定の女神の元で簡単な仕事が出来るという求人広告を見つけたんだ。まんまと騙されたよ。ブラック会社もブラック会社。まるで、イカ墨に黒ごまを混ぜたようなブラックだぜ。どんだけ労働させるんだよアイツは!? こんなにしなくても『アガンパレス』は今日も一日平和です。状態だボケッ!! しかも転生で弱くさせられた……なんだこのテンプレを逆手にとったようなクソ女神は!! せっかくの素質も能力も金ですらパーだよ!! グーにパーでグーp……」
「……ちょっと待って!!」
フィオナはいきなり声を張り上げた。溜まっていたとはいえ流石に言い過ぎたか。
「ごめん……流石に言い過ぎた」
フィオナは真剣な眼差しで俺の手を取り、首を横に振る。そして――
「ケイト。違うの、この先を言ったらケイトが謎の力によって消えてしまいそうなんだ」
……? 何を言っているんだコイツは。謎の力って、まさか魔術師か。人を消す魔法なんて――こんな恐ろしいものがあったとは。
「魔術師とかじゃないから。後、この話やめよう? そろそろ本編に行こう? いろいろメタすぎるよっ」
「メタいって何だ? 本編って何だ?」
「鈍感すぎる男の子は嫌われます」
「……? とりあえず話を戻すか」
あれ、さっきフィオナが俺の心読まなかったか?
「しかし、俺とフィオナで能力の奪い方が違うな。でも、きっと能力を失わせるという目的はあっているハズ……まあ、直接女神に問い詰めるしか無いな」
「能力を失わせる……何でそんな事をするのかな」
フィオナは考え込む。俺もフィオナも被害者だ。そんなことをした目的を聞き出し、転生前の力や姿を取り返してやる。俺は心に強く決めた。
「そういえば、フィオナは女神に封印させられたんだよな? ということは俺と違って姿は封印前と変わらないって事だよな」
「…………そうかもね」
「え……そうかもねって」
フィオナは【希望の指輪】で照らされた僅かな光の中で微笑み、こう言葉を放った。
「うん、変わってないよ」
「じゃあ、このくだりは何だよ!?」
フィオナ「ねえ。なんでケイトはここに居るの?」
ケイト「変な人形に殺されたんだよ……」
フィオナ「そうか……まあ詳しいことは後の展開で!!」
ケイト「いくらここだからってメタ過ぎるのはよくないぞ」
フィオナ「メタメタメタメタメタ」
ケイト「ええ……よかったら評価やブックマークなどをして頂けると嬉しいです」