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ケイト・クロムは死んでしまった!!

ちょいと闇堕ちします。

 エリナが向かった森は『アガンパレス』からそう遠くない『神秘の森』という所だ。


 何故『神秘』なのか? それはこの森を神秘という言葉で表すのに相応しいほど、美しいからだ。

 美しい朝日が木々の間から漏れる。地面が朝日のお陰で所々、輝いている。


「相変わらず、美しいな。ここは」


 実は俺が勇者になる前に、修行のつもりで一度行ったことはある。

 当時、魔物自体は弱かったが今となっては苦戦するかも知れない。


 だからいち早くエリナを見つけ出さないとな。

 奥まで進んでいたら大変だ。


 『神秘の森』は誰かが管理しているかのようにしっかりと整備されていた。

 恐らく、この森の管理人が清掃の担当なのだろうか。それとも、この森を守る妖精やら精霊やらが居るのだろうか。


 俺にはこの森についてあまりよく分かってないが、美しいのは確かだった。


 木々の間から照らしている光は辺りの景色を輝かせていった。

 しかし、全く石とか枝やらの障害物がない。

 やはり明らかに何者かの手が掛かっているな……


 コツン!


「いて」


 足に何かが当たった。


 なんだ? 石が当たったような感覚だったが。

 しかも大きめの。


「やはり、完璧に整備するのは難しいよな」


 俺は独り言を漏らすと、


「ギュー」


「おい、今腹の音みたいなのが……」


「ギュー!」


 俺はふと、地面を見る。そこには不思議な石があった。


「ギュー!」


「うお!? 何だコイツ」


 石に顔が付いていて、丸い頭のてっぺんには小さな穴が開いている。俺でも見たことがない魔物だ。


 スルーしても良いがせっかくだ。自分の実力をここで確かめよう。

 剣も盾も持ち合わせていないが、それでも戦いたい衝動が俺を支配する。


「転生前も転生後も変わらないな俺はッ!!」


「ギュー!」


 また騒ぎ出したかと思うと頭のてっぺんの穴が大きく開いた。

 そして、小さな石粒を大量に転がしてきた。


「こんな物が攻撃か? 思っていたやつより大したこと――」


 ギュイーーン……


「え?」


 石粒が真っ赤に光り出したかと思うと、大きな音を立てて爆発を起こした。

 爆風で森がザワザワとざわめく。


「うおっ!?」


 大量の石粒の爆発により、木々が破壊させられるかという程の多くの破片や衝撃波が一斉に飛んできた。

 もろに喰らったら致命傷になりかねない。


 俺はせめて近くの木まで避難しようと急いで近づきそれらを防いだ。


「ちょっと――マズいかもな」


 俺は、バックステップで石野郎との距離をとる。

 かなり石野郎が小さくなるまで距離をとったが――


「グハッ!?」


 どうやら爆風は侮ってはいけないようだ。

 少し距離をとっても、少し時間が経っても、腹にパンチを喰らったような圧力は受ける。

 俺の身体は宙に浮かび、思いっきり地面に叩きつけられた。


「グッ――こんなの化け物だろ……」


 遠くをジッと見つめると、木々はびくともせずどっしりと構えていた。


「ここの木頑丈すぎるだろ!? この森自体に空間魔法でも掛けてあるのか?」


 まさかの木は無傷だったとは。相当強い誰かが管理しているとみて間違いなさそうだ。

 ――しかし、こんな雑魚っぽい敵の攻撃がこんなに強いなんてな。


「今はここらの木よりも弱いなんてな」


 だがこの技は便利だな。爆発を起こせる技か……いつか使ってみたい。

 こんなに威力があるなんてびっくりだもんな。

 俺は苦笑した後、ギッと石野郎を強く睨む。


 絶対――攻略法はある。


「ギュー!」


 石野郎は奥で挑発している。いいぜ、挑発に乗ってやる。


 俺は、猛ダッシュで石野郎に近づく。

 その時、ソイツは不敵な笑みを浮かべていた。調子に乗りやがって……


 俺は石野郎のすぐ近くに立つと、


「来いよ石野郎」


 俺は人差指を自分に向けヒョイヒョイと振って挑発をした。挑発には挑発だ。


「ギュー!」


 俺の挑発に乗ったのか、石野郎というあだ名が気に入らないのか、黒い顔を若干赤くして、頭のてっぺんの穴を広げてきた。


 やはり攻撃パターンは同じ。恐らくこの技しか無いのだろう。

 小さな石粒をコロコロ転がしてきた。


「挑発に乗ったか」


 もうすぐだ。 石粒が真っ赤に光り始めるハズ――


 ギュイーーン……


「よし! 来た!」


 石野郎はどうやら自分の勝利を確信していたのか、一人で鳴いて喜んでいる。油断している今が死を招くと言うことを知らずに――


 俺は、急いで爆発寸前の石粒を拾い集める。

 気が狂ったわけじゃない。


「チャンスは今しかないんだ!」


「ギュー?」


「カウンターストーン!」


 俺は、拾い集めた石粒を石野郎の頭のてっぺんに放り投げる。

 それらは見事、てっぺんの穴の中に入っていった。


「自分で招いた爆発物は自分で処理しろよ?」


「ギュウゥゥゥゥゥ!」


 石野郎の身体が真っ赤に光り始めたと思うと、爆発物と共に、勢いよく爆発した。

 その瞬間、ポケットが青白く光り出し――


「うわっ、破片が」


 ポケットの中身を確認しようと思ったが、石野郎の破片が一斉に飛び散る。俺は近くの木の裏側に回って破片を防いだ。

 そして、俺の作戦勝ちだということが嬉しく、その喜びをガッツポーズで表した。


 少しでも失敗していたらきっと死んでいたからな。

 しばらくして豪勢な音は鳴り止んだ。


「収まったか……?」


 俺は木から顔を警戒しながら出す。


 石野郎が居たところには、子供バージョンのような石野郎らしきものがいた。

 小さくなって復活した可能性がある。


「マトリョーシカかな?」


 俺は恐る恐るそれに近づき、石野郎らしき物を拾った。


 【マジックストーン(小)】を入手しました。


「アイテムかよ!?」


 どうやら魔物からドロップしたアイテムのようだ。ということは、マジックストーンの中や大を落とす、俺が倒した奴より強い魔物がいるのだろう。世界は広い。


「そういえば、冒険者カードはどうなったんだ?」


 俺はポケットの中を探り、冒険者カードを取り出す。


 種族  人間

 レベル  2

 職業  冒険者


 体力 70→86

 筋力 62→69

 防御 31+3→46+3

 魔力 91→97

 魔防御 72→80

 俊敏性 30→35

 知力 32→41


 武器

 防具 【革の服】


 スキル


 おっ、全体的に少し上がったな。

 特に体力が他の奴より大きく上がっているのは大きい。


 しかし今は気になることがあった。今回の魔物の件だ。


「こんな魔物見たことないんだよな……」


 『神秘の森』は簡単に攻略できる場所のはずだ。

 それなのに、何故ここまでの威力を出せる魔物がいたのだろうか。


「もしかして……何かの“異変”か?」


 次の瞬間、森の奥で目に光を失った人形らしき者がこちらに近づいてきた。背筋に怖気が走る――まるで生気がないような恐ろしい化け物だ。ソイツは俺に着実と近づいてくる。俺の心の中に着実に踏み入れてくる。


 俺は死というものを真っ先に感じた。あまりの恐怖に足がすくみ――でも顔は何故かこの状況でも平然を装いたがっているようだ。


「何だ……コレ」


 その不気味な人形らしき者が口を開く。







『ヌシニマイハタナア』


「は?」


 刹那、俺は全身に駆け巡る痛みを感じて嗚咽する。だが、声を出す代わりに真っ赤な血の塊を吐き出した。あまりにも、猛烈の辛さと痛みで震える全身を俺は押さえようとする。だが、ケイトの意思に反して身体はますます、崩れていった。いつの間にか身体からはゴボゴボと大量の血が流れ出ていた。全部自分の血かと思えないほどに。おいおい、コレじゃあ血祭りパーティーじゃないか。勇者も駄目だわエリナは逃げるわ今殺されそうだわって――俺の楽しいスローライフは来ないのかよ。俺は苦笑を浮かべたと同時に意識がグッと遠のいた。


 そして最後に俺は何故かこんな言葉をつづる。

「【ジャットブラックリザレクション】」と。


「うっ……ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 その途端。怒りが――欲望が――漆黒が――どす黒い何かがが俺を支配する。俺を苦しめた人形らしき者への怒りか。強かった俺を平凡に転生させた女神への怒りか。こんなに無力で情けない自分への怒りか。それとも、


 ――この、薄汚い哀れな世界への怒りか。


 壊れかけた肉体が少しずつ再生する。俺を苦しめていた痛みが徐々の引いていく。

 俺の意識が――覚醒する。


「女神もエリナもテメェも全部くだらねぇな」


 俺は苦笑を崩さずにそう呟いた。

 そうだ、何故俺がこんな目に遭わなければいけない? 女神の勝手な都合で転生。しかも、弱体化させられて、面倒くさい女に付き回されて、挙げ句の果てにこんな奴に殺されそうで――


 お前ら全員許さねぇ。


 途端に「ぷつり」と何かが切れる音がした。その音が戦闘開始の合図だ。


 肉体は完全に復活し、俺は人形らしき者との間合いを一瞬で埋める。そして、拳を人形に向けた。すると、人形らしき者は不気味に笑い、俺に向かって刃のような腕を振り下ろした。


「チッ! 糞がっ!」


 俺は攻撃を中断してそれをバックステップでかわした。


 ――しかし、かわしきることは出来なかった。俺の腕が引きちぎられそうな痛みを感じる。


「ウガァ!」


 俺はその痛みを無視して無我夢中で人形らしき者を殴りまくる。だが、人形らしき者は微動だにしない。 自分にはそれしか出来ないのだ。無力な俺では、こんな世界では、怒りをこれでしか表現出来ない。憎い、憎い、憎い。この世界が憎くてたまらない。


 もっと――力があれば……お前を倒せるのに。

 今、この時が――勇者であればこんな目に遭わなかったのに。

 どうして、いつも俺だけなんだよッ!!


 俺は殴り続けながらこう叫んだ。

 

「憎いんだよ――この世界がっ!!」


 すると、人形らしき者は俺に黒くモヤがかっている手を差し伸べる。


「……? どういう事だ」


 すっと差し出された右手に俺は動揺したが、すぐ構えをとる。

 が、アイツはなにもしてこない。ずっと手を差し伸べている。意味が分からない。何が目的なのか。


 弄ばれている気がして、俺の「動揺」は「怒り」へと変わる。


「ふざけやがって!」


 俺は思いっきり蹴りを入れる。だが、さっきのような攻撃は、一切してくる様子がない。ずっと、俺に手を差し伸べている。不気味な無表情で。何をしたいのかサッパリ読めない。だからこそ、好奇心がわいてしまった。何をしでかすか分からない不気味な人形の手を、俺は握り返してしまった。


 ……ムニュ。


『ラナウヨサ』


 人形は張り裂けそうな口でこう綴った。

 その途端――俺は張り裂けそうな痛みを全身に喰らい、断末魔を上げようにも、声の代わりに血しか出せず、自分の儚さと無力を感じながら、脈拍はゆっくりとなり、でも、それでいても、何処かで感じたような手の感触を感じ取ろうとし、やがて――ケイト・クロムの生命の活動は中止した。

作者「その――なんだ。さっきの技は何だ?ジャットなんとかって奴」

ケイト「怒りが、憎しみが俺を支配し最強のスキルになったんだろう。でもこういう場合でしか使えそうじゃ無いな」

作者「お前も中二病になったな」

ケイト「違うわい!! 勝手に言葉が浮かんだだけで――あと、もう一つ、言いたいことがある」

作者「……何だ?」

ケイト「よかったら評価やブックマークなどをして頂けると嬉しいです」

作者「うん知ってた」

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