ケイト・クロムはおさななじみとさいかいした!!
なんだ……この威圧感。
男はギッと、俺を睨んでいた。ガッチリと鉄装備で構えていて、どこにも隙が無さそうだ。担いである大剣が更に男の威圧感を増している。身長も俺より遙かに高いが年齢は意外と若いようだ。
「ああ、はい……そうです」
自然と敬語になってしまった。年齢は相手の方が多分、上だと思うが……この威圧感で睨まれたら自然と敬語になってもおかしくない。
「そうか。では手伝ってほしいことがある」
男は真剣な眼差しで俺を見ていた。そんなかしこまる要件なのだろうか。まさか、手合わせして欲しいとか? 今の俺だと、絶対に負ける自信がある。オーラが違うもん。うん。
まずは失礼の無いように……
「わ、分かりました……ところでお名前は何とおっしゃるのですか?」
「ゼクス・マセルドだ」
名前からしてヤバそうな雰囲気を醸し出しすぎ。周りの冒険者の賑やかな声も緊張でズシリと、重たい空気になってきているぞ。
「俺はケイト・クロムと言います」
「そうか。よろしく」
ゼクスさんは、凄くごっつい右手を差し出してきた。確かに頼り甲斐はありそうだが、人間なのか、コイツ?
とりあえず骨折覚悟で握り返すしかないようだ。
――行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
ムニュ……
――ん? どうなっている、柔らかいぞこの手?
俺は恐る恐るもう一度握ってみる。
ムニュ……
「え?」
俺は怖くなってゆっくりと顔を上げる。
すると、そこには美少女が立っていた。
「うわっ!」
俺は即座に手を離し、床に尻もちをついてしまった。
なんだコレ? どういうことだよ? 何なんだよコレ!?
「あはっ、面白いよ」
何事かサッパリ分からない。
「【変身】を見抜けないなんてケイトらしくないよっ」
「へん……しん?」
「エリナだよ、ケイト。私のこと分からない?」
俺は美少女を見つめる。確かにエリナだ、間違いない。
【変身】スキルも持っているしな。
エリナの姿を見ると、俺は不思議と安心感というか幸福感に包まれる。
それと同時に懐かしさも蘇ってくる。
綺麗にまとめられたしなやかで美しい桃色の髪。
純粋でしっかりと真実を見通しているような目。
ニコニコして喜んでいる姿は、まるで天使のようだ。可愛い。
少し俺より背が低く、まるで妹みたいだ。転生してから背が前より伸びたからか。
俺とエリナは幼馴染みで、俺が勇者に昇格する前から仲が良かった。しかし、俺が勇者に昇格してから会う機会が全く無くなった。久しぶりに可愛い顔を見れて嬉しいぞ。
いやお父さんかよ俺。
ん? 少し冷静になれケイト君。おかしいだろこの状況。俺は疑問を二つ抱えた。
一つ、俺はルミナス様に姿を変えられている。それが何故分かるのか。『鑑定』スキルでも無いと分からないはずだ。
二つ、俺が勇者に昇格した時の別れ際に、「私もルミナス様の下で働けるように頑張って強くなるから待ってて!」と『イングラム』に向かって修行していたはず。それが何故ここにいるのか。
単刀直入に聞く。
「何故、俺と分かったんだ? 姿は変わってるのに」
「ケイトとずっと居たんだよ……? 姿が変わっても分かるよ、えへへ」
エリナは恥ずかしながらも優しく微笑んだ。可愛い。
「なんだよそれ」
俺も笑った。
女の勘という奴か。どうやら姿は変わっても雰囲気で分かるらしいな。『鑑定』じゃなくて『勘定』らしい。
――って。そんな寒いギャグはいいんだ。
「じゃあ……なんでここに居るんだ?」
俺は話題を切り替える。聞きたいことはまだある。
「『イングラム』へ行く道中の敵が強かったの、それで引き返しちゃった」
それで引き返し、このギルドで簡単な討伐依頼をこなして強くなろうとしたらしい。
まあ、『イングラム』の道中は初心者には手強い魔物もいるからな。
それが正解だろう。
「まあ、生きていて良かった……。それでレベルは? どの位上がって……」
「3です」
「ん? もう一回言ってくれ」
俺は首を傾げる。何でこんなに低いんだ?
「3です」
さすがにそれはないだろ。
「いやいや! 俺が女神様の元で働いている時間結構長かったぞ? なんでこんな低いんだよ」
エリナと居ると次々と疑問が浮かぶ。少し、混乱してきた。
「えーと、俺と別れる前のレベルは?」
俺は、ゴクリと唾を飲む。
もう嫌な予感しかしないのですが。
「……え? 1に決まってるじゃん。最初は二人ともレベルは1だったよ?」
進歩遅すぎだろコイツは。
そして何故か、俺の最初のレベルは1ということさえ忘れていたのだが。
それぐらい驚いてしまったらしい。
「どういう事だよ? クエストは受けたよな?」
「うん。薬草の採取とか、家事や、建物の修理とか」
「討伐クエストじゃないんかい!」
「ひゃっ! い……いやっ」
エリナは声のトーンを上げて驚いた様子だった。涙目で戸惑いの表情を浮かべている。
そんな怖かったか? ああ、目つきが鋭くなったもんな。
多少は、威圧感が出ていたかもしれない。俺は「プッ」と、苦笑する。
「な……なに一人で笑っているの? 気持ち悪いよぅ……」
震えながらエリナは答える。
地味に傷つくので辞めて貰えますか?
よし、今度は優しい表情で――
「頑張って強くなるって言っただろう? なんで採取や修理のクエストしか受けてないんだ?」
エリナは目に涙を浮かべ、
「だって……怖かったんだよ? ケイトが居なくて。自分だけで、魔物を倒さなきゃいけない。分かっていたんだけど、急に恐ろしくなって……足がすくんで……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
え? 泣いちゃったよこの子。そんなに魔物の討伐が怖いのか……
でも最初の内はそれでも頑張ったからレベル3まで行ったのだろう。よくよく考えると凄いことだ。
「……そうだよな。大変だったな」
俺は泣いているエリナの頭に手を添えようとした。
――バッ!
その時だった――
エリナは俺の背中に手を回して抱きしめた。
「え……」
こんな大胆なスキンシップをするなんて――エリナ、やりおるな。
「もう――置いてかないで」
「――ッ!?」
……そうか、ずっと一緒だったもんな。
それなのに、エリナを置いて旅立ってしまった。
エリナの気持ちも分からずに――
なんで俺はこんな仕事をしていたんだ。エリナはずっと独りぼっちだったというのに。金なんて、一緒に戦っていければ十分入るだろう。本当に大切な物を俺は――見失っていた。
「ごめんな」
俺はエリナを思いっきり、ギュッと抱き返した。
「これから一緒に強くなろう」
「うん、ありがとう……でも、もっと自分の力で魔物を倒さなきゃ――」
「だから無理して見栄を張ろうとするな。困ったときはいつでも俺を頼ってもいいんだぞ」
俺は笑顔を作った。まあ、今は能力を奪われたけど。それでも、頑張って俺に追いつこうとしているエリナのそばに居てやりたい。
「ケイ……ト」
――すると、ギルドの中から歓声が響く。
「アツいねー! お二人さんが羨ましいぜ!」
「いいものが見れたな」
「せめて外でやってくれよ……オラ、ムラムラすっぞ!」
「カッッコイイぜ! 兄ちゃん!」
しまった、ここはギルドの中だった!
やべぇ……恥ずかしい。取り返しがつかないぞコレ。
そしてエリナは泣き止んだ直後ニヤニヤしていた。
ニヤける方じゃないからな、ニヤけられる方なんだよお前は。
「と……とりあえずここをでるぞ……!」
冒険者カードは登録したんだ。一度、退散だ。
「えっ……あ、うん!」
俺はエリナを引き連れてギルドの外へと出た。
少し走った後、俺はエリナの方に身体をクルッと向き直し、こう言葉を発した。
「いやぁ、ケイトの男っぽいところかっこよかったよっ」
「しかし……場所を考えてくれよ」
「だって……せっかく会えたから今すぐ言いたいもん」
エリナは恥ずかしそうに笑っていた。
「言っておくが……俺たち付き合ってないからな」
そうだ、付き合ってもないただの幼馴染みにハグをするほどアイツは軽い女だったか? 何か策が――
「ひどい……付き合ってないとハグは出来ないの!? こんなに好きなのに……」
言わなくても良いことを言ってしまったかも知れない。エリナは顔を赤らめて「プイッ」と、そっぽの方を向いた。可愛い。
「私の気持ちも知らないで……もういい!」
エリナはスタスタ奥の森へと進んでしまった。
あんな反抗的だったけ?
女というのは難しい。
そういえばエリナは俺に好きと言ったのは今回で初めてだよな。
もしかしたら、俺への本気の愛の告白だったかもしれん。
なんて青春なんだ……この世界最高! もう大好き!
「おい、ちょっと待て!」
俺はニヤニヤしながらエリナを追いかけた。
街の奴らには俺がストーカーに見えていたかも知れない。
「やっぱり……転生して良かったかもな」
俺は走りながらこんなことを呟いた。
“その時”の俺、ケイト・クロムは幸せな気持ちだけしか残っていない。
ケイト「なあ、何であの時あんなことで逃げたんだ?」
エリナ「森の奥に逃げたのは実は理由があるんだよケイト君!!」
ケイト「何だその理由は!?」
エリナ「画面下部から評価やブックマークなどをして頂けると嬉しいです」
ケイト「いや無視かい!!」