第一首 3話
薄暗い森の中、ローレンス達はメアリー家の納屋のある村外れへ向かっていた。
「旅をしてらっしゃるのですか?」
少し打ち解けたのか、メアリーはローレンスの話を興味深く聞いていた。
「ええ、まあ自分探しの旅…というとこですか。」
「自分探し、ですか。私は…生まれてこの方村から出たことがないので少し羨ましく思います。」
「…この世界は広い、私も今まで様々な種族や国を見てきたがまだまだ知らないことも多い。」
「ローレンス様でもですか?」
「うむ。」
「…私も、旅に出てみたかったな…」メアリーはポツリと小さく呟いた。
** ** ** ** ** ** ** **
彼らの世界には先刻のサイクロプスのような凶暴な種族もおり、並の人間では旅をするのは困難であった。
恐らくメアリーもそれをわかっているから旅に出ようなどとは思えなかったのだろう。
今でこそ村や国は魔物が入れないようにする結界を高尚な法術師に頼んだり、
国の屈強な騎士達が駐在しているが昔はそれこそ、特に人間達はただ蹂躙されるがままだった。
その歴史を変えたのは最古の魔女達であったり、様々な者達であったのだが
その話はまた別の機会に。
** ** ** ** ** ** ** **
ローレンスらがメアリー家の納屋に到着した頃にはすっかり日が暮れ、月も雲に隠れ、辺りは夜に覆われていた。
案内された納屋はそれなりの年月が経ってる割りに小奇麗であった。
どうやらメアリーがまめに手入れを行っているらしい。
「本当に良いのですか?メアリー嬢」
「ええ、最近は倉庫程度にしか使っておりませんので。命の恩人をここに泊まらせるのもどうかとも思いますが」
「お気になさらなくて結構、ありがたく泊まらせていただこう。」
ローレンスは置かれていた机に頭を乗せ、体は壁にもたれつつ座り込んだ。
「何か、必要なものがあれば持ってきますが。」
「いやいや、こうして寝泊りできる場所を提供していただけるだけありがたい。」
「あ、だがもしよければ水を一杯いただけないだろうか?」
「お水、だけですか?良ければ何か食べるものもありますが。」
「いや、水だけで十分です。お気遣い感謝する。」
「わかりました。では少々お待ちください。」
納屋をあとにしたメアリーがしばらくすると水の入った小さめの水瓶を持って戻ってきた。
水瓶には取っ手が付いている。
「これで足りれば良いのですが…」
「十分です、ありがたくいただこう。」
「村人が起きだす前にはここを発つつもりなのでこれ以上迷惑はかけないだろう。」
「そんな、迷惑だなんて。旅のご無事を祈っております。」
胸の前で手を合わせ祈りを捧げる姿に思わず飛び込もうとした首が右手に鷲掴みにされる。
祈りを終えると
「水瓶は置いたままで結構ですので。では、私はこれで。」
と言い残し、メアリーは足早に村へと戻っていった。
「…良い、娘であったな。」
ポツリ、とローレンスは呟いた。