第一首 2話
女はあまりのできごとにしばし混乱した。
いきなり化け物に襲われたあげく、それを救ったのもまた化け物だったのだ。無理もない。
そして女は恐る恐る口を開き
「あ…あの、あなたはあの【デュラハン】なのですか?」
と、彼に問いかけた。
「いかにも、私はデュラハンの者。名はローレンスと申します。こっちは…」
ローレンスの丁寧な口調と裏腹に右手は頬をつねっていた。
それを聞き女性は困ったような、怯えたような顔をしてさらに問いかける。
「…では、やはり私に最期を告げに来たのですか…?」
女は少し、震えていた。これから自分がどうなるかを知ってるかのように。
それを聞いたローレンスは首をかしげ、ああっ!と一瞬何かを思い出したかのような顔をして
「いえ、私はもう役目を放棄した身…。そのようなことはいたしません。ご安心を。」
そう言って優しげな笑みを見せた。しかし、頬をつねられたままのためその笑みは少し、いびつだった。
それを聞いて女は
「そう、ですか…。てっきり、私の死を告げに来たのかと思っておりました…。」とほっとした表情で言った。
「…デュラハンは貴女方人間にとっては『死を予言する者』。そう思われても仕方のないことです。」
ローレンスは苦笑した。その表情は少し、寂しげだった。
「ローレンス様は不思議な方ですね。デュラハンなのに話してみると全然怖くありませんもの。」
「まあ、デュラハンにも色々いるということです。」
ふふ、と女は少し微笑み
「あの、今更ですが…助けてくださって本当にありがとうございました。」と深く頭を下げ礼を言った。
「いえ、か弱き女性を助けるのは紳士の務め。よろしければお名前を伺っても?」
ぎゅう ローレンスの頬をつねる右手に力が込められた。
女はそれを少し気にしながら
「…私はメアリーといいます。この先にある村の者です。」と名乗った。
「おお、この先に村があるのか。ならば今日はその近くで夜を明かすとするか。」
「寝床をお探しだったのですか?でしたら私の家へ来ませんか?」
「ほん…!」喋ろうとしたローレンスの頬をつねっている右手にさらに力がこめられる。
ローレンスはハッ!としてンンッと咳払いをし
「私はデュラハン。村に姿を見せれば悪戯に混乱を招きます。そのお気持ちだけありがたくいただきましょう。」
メアリーは「あ、すみません…」と申し訳なさそうな顔で謝った。
「でしたら、村の外れに私の家の納屋がございますのでそちらを使ってはいかがでしょう?」
「それは…ありがたいお話ですがご家族の方が使用するのでは?」
「両親は既に他界して、今は私一人なので大丈夫です。」
「…それは失礼した。」
「いえ、お気になさらないでください。もう何年も前のことなので。」
「では彼氏などは?」
「え!?そんな、私には全然いません!」
唐突な質問に戸惑い少し頬を赤らめながらメアリーは答える。
「なんと、こんな美しいのにもったいない!村の男は何をしているのだ!なんでしたら私が…!」
ドゴッ!
言い終える前にローレンスの頭が抱えてくれていた体に蹴られ近くの茂みに飛んでいった。
それを蹴った体が拾いに行き、戻ってきた。何とも妙な光景だ。
そんなこともありながらローレンスはメアリーの言葉に甘え、彼女の納屋を借りることにした。