第一首 0話
――私は、もう疲れた。
男の声がした。
――もう、疲れたのだ・・・。
暗い森の中を首の無い漆黒の鎧を纏った者が、同じく首の無い馬に跨り進んでいく。
右手に手綱を、そして左手に生首を抱えている。
その顔は女性のような顔立ちだが白く、まるで死人のように見える。
鎧からは煙のようなものがゆらめき、馬の首から上も同じくゆらめいている。
――私は、これ以上彼らにあのような仕打ちをしたくなど、無いのだ・・・。
男の声は抱えられた首から発せられたものだった。
首無し馬はゆっくりと森の中を歩いていく。
――本当は、もっとわかりあい、愛し合いたいのだ。
彼の脳裏に浮かび、聞こえてくるのは彼を見て怯える人々、そして彼らの悲鳴。
――しかし、このような体ではそれは叶わぬ願い。
――何故、私はこのような者に生まれてしまったのか。
いつしか彼らは森を抜け、海へとたどり着いていた。
首を抱えた鎧は馬から降り、水面に写る自分を見ている。
そして顔を上げ、遠くを眺めた。
――この世界で私はもう、数百年過ごしてきた。
――だが、誰一人として私に優しくしてくれる者などいなかった。
――そういう存在なのだから、致し方ないことだ。
悲しく、寂しげな表情をして彼はただ、遠くを眺めていた。
何かを察したのか、首無し馬が彼に寄り添った。
――ああ、お前だけは優しいな。ありがとう。
彼は馬の体を撫で、決意した表情で語った。
――決めたよ。私はもう、終わりにする。
彼らがこの場を去ろうとしたその時
バシャァンッ!
突然、海の方から音が聞こえた。