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2.父と娘のファッション事情

 お昼は颯太オススメのイタ飯屋さんでチーズグラタンパスタを食べ、さらにイタ飯屋さんから歩いてすぐの甘味所で白玉餡蜜を平らげた。

 これは颯太と、その妻であり楓の母である風花(ふうか)が、一緒に働いていた職場時代によく行ったデートコースの一つであった。


 4年制大学を卒業した颯太が、服飾の卸し関係の会社に入社した時、新人の教育係にあたったのが風花だ。

 2年制の服飾専門学校を卒業し就職した風花は、颯太と同い年ながら2年先輩。


 風花の方が颯太より社会人としてキャリアがあり主任でもあったが、意気投合し付き合うまでにさほど時間はかからなかった。

 颯太の入社一年後、風花は颯太との結婚を期に寿退社して、今では簡単な内職をしながら専業主婦をやっている。


 その風花が今はいない。

 と言っても死別したわけでもなければ、離婚をしたわけでもない。


 以前から、ママ友達と日帰り温泉旅行に行くことが決まっていたため、本日のお買い物には残念ながら不参加なのだ。

 つけ加えると颯太と風花には、楓より三つ年上の長男・(なぎ)もいるが、彼も今回の買い物には不参加であった。


 おかげで颯太は大好きな娘と2人きりのデートを満喫することができているのであるが。

 颯太が注文した白玉抹茶アイスを物欲しそうに見ていた楓に、あーんで食べさせるまでした。最近では妻にさえしないのに。


「ふぅ、美味しかった。ご馳走様でした、パパ!」


「凪も一緒に来ればよかったのにな。あいつ家で料理なんてしてるとこ見たこと無いし、パンかカップ麺でも食べてるのかな。」


「カップ麺よりもパパが連れてってくれたお店の方が絶対美味しいのに。でも凪にぃは絶賛引きこもり中だからね。今日もやることがあるって言ってたし。」


 兄が引きこもっている、と発した楓の言葉には微塵も深刻さが感じられない。


「じゃ、次は服でも見に行く?ママからは楓のために、軍資金たくさんもらって来だんだ。可愛い服を選んであげてねって」

 すでに兄の話題は終了してしまって、話題は昼食後の予定に移っている。


 颯太の勤めている会社は服の卸しを生業としているので、そこで働く社員にも社割りが適応し、業者への卸値より安く買える。

 しかし最近では、颯太の目利きで選び、風花が見ても楓に似合いそうだと思う服を買ってきても、その半分は数えるほどしか袖を通してもらってない。

 そこで楓本人に好きな選んでもらおうという、ファッションへの自己主張が強くなってきた娘への母心である。


「うへぇ。あんまひらひらしたのとか、スカートって好きくないんだよね」

「あははっ、パパもママも楓に可愛い洋服を着てもらいたいんだけどね」

「私は、パパみたいなゆったりしたのが好きだよ」


 娘にそう言われ颯太は、ハンドルを握りながら自分の服装をチェックしてみる。インナーにヴィンテージレプリカ・パーカー、その上からカスタムMA-1を羽織っている。足元はV◯NS。そしてボトムは高校時代にに購入した501XXジーンズ。長年愛用していたせいでジーンズのヒゲの部分の縦生地やお尻の生地が破れているが、風花にお願いして裏から生地をあてリペアしてあるので良い風合いが出ている。


 ここしばらく細身のシルエットが主流になりつつあるが、女性のファッションとは異なり、大きく流行やデザインが変わらないメンズファッションは、状態の悪化や体型の変化に伴って着られなくならない限り、毎年[定番]として着回すことが容易だのだ。


 ちなみに、インナーをチェックのシャツに変えブーツでも履いたらアメカジ風に、ボトムをハーフパンツに履き替えたらスケーター風に、足元を三本線のスニーカーに履き替えたら楓が生まれる前に流行った裏原宿系風ファッションに変わる。アラフォー男が頑張りすぎである。


 対して楓の服装に目を向けると、白いインナーシャツの上からゆったり目で網目が大きなピンクと黒のボーダーニットに袖を通している。ボトムはショートパンツだが、ニットの着丈が長くお尻の下まで覆っていて、またその着丈からはみ出したインナーシャツの身ごろによってショートパンツの大部分が隠れ、一見すると『えっ?履いてない?』と見間違えてしまいそうな組み合わせだ。足元は黒のエンジニアブーツで、若干高めのヒール高になっていて長身に見せている。


 楓もまた、颯太とは別の意味で頑張り過ぎていた。

 思春期に少女から大人に変わる、背伸びをしたくなるお年頃なのだ。


 春一番が吹いたとはいえ、まだ3月の後半。

 平地では雪はすっかり溶けたが、ここから見える山々は雪化粧をしたままである。

 徐々に気温は高くなっているものの、日本海から吹き付ける風もまだ冷たい。

 寒がりで、実はジーンズの下にヒー○テックを着込んでいるおっさんの颯太は、そんな生足ショートパンツの楓を見ているだけで、自身が凍えてしまいそうに感じながら答える。


 「どういたしまして。学生時代からファッションや好きな音楽とか変わってないんだよ。物持ちがいいんだ。あ、音楽は雑食で色々聞いてたけどね。んー、じゃあ洋服は今度またパパと隣の市に行って選ぼうか。今日はとりあえず中学で履くローファーとスクールカーディガンを買っちゃおう」


 ちゃっかり、娘との次回のデートの約束を取りつけた颯太であった。

女主人公としながら、楓の中学入学前までは颯太の出番が続きます。

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