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15.楓、倫子に相談をする

遅くなりました。

「それで話が逸れちゃいましたけど、今日は空き教室の利用と同好会申請の件でお邪魔させていただいてます」

「は、はい。伺います。」

 楓の急な切り替えに倫子は、突っ伏していた上体を戻し多少あたふたしながらも応対する。


「凪にぃに、去年は囲碁/将棋同好会があったって聞きました。それで私も、空き教室を利用してギターの練習をしながら、同じようにバンドをやりたい生徒を集めて軽音楽同好会を作りたいって思ってます。入学して間もない一年が生意気言ってるって思われるかもしれませんが・・・」

「ううん。そんなことないよ。それじゃ、空き教室の利用申請の方から説明していくね」


 昨日兄の凪に教えてもらった内容に、倫子からいくつかの説明が付け加えられた。空き教室に関しては、生徒会ではなく職員室で管理しているとのこと。職員室にいる誰かしら先生の確認と許可のもとで、鍵貸出記録簿に学年と名前と利用目的を書いて空き教室の鍵を受け取ることができる。鍵の返却時間は17:00まで。ただし文化祭準備時など特別な理由がある場合に限り、利用時間延長の申請をすれば17:00以降も使用が認められる。

 次に、同好会は部活動に準ずるものであることより、部活動と同じく生徒会の傘下に位置されている。よって担当する顧問を一名置かなければならない。また申請時には活動の目的を掲げなければならない。申請の認否は月一で開催される生徒会主催の部長集会で決定する。活動時間は平日の17:00までとする。部員が同好会の活動に参加することはできるが、掛け持ちで籍を置くことはできない。活動の成果と同好会員の増加奈何で、部長集会で認められれば部に昇格することができる、と概括するとこんなところである。


「空き教室については吹奏楽部が個人練習やパート練習でよく使うから、いつも同じ教室を使えるとは限らないかな。毎日同じところで活動したいなら、やっぱり同好会として認められるのがイチバンだと思うよ」

 倫子が続ける。

「空き教室って常に使われていないわけじゃなくってね。雨が降ればいつもはグラウンドを使っている運動部が室内での筋力トレーニングに使ったりとか、タイミングによっては全ての空き教室が貸し出されちゃってる、なんてこともあるくらい」


 楓がメンバーを集めて同好会申請をし晴れて認められるとする。すると空き教室が一つ少なくなることになる。それは運動部や吹奏楽部の部員たちにとっては望まないことではなかろうか。楓は気がかりになり倫子に尋ねる。


「あのぅ、私が空き教室を使ったり同好会を申請したりすると、迷惑がられたりしますか?あと囲碁/将棋部同好会はどうやって申請が通ったんですか」

「迷惑かぁ。包み隠さずに言うとなくはないかな。楓さんが空き教室を借りるってことは、誰かがその部屋を借りられないってことだし。でも吹奏楽部のパート練習や屋内の運動部の練習音や声で、放課後の校内も結構騒がしいから。出す音の大きささえ気にかけてくれればギターの練習をしたり今後バンドを組んで演奏しても影響は少ないと思うよ。借りる部屋によっては、他の文化部の部室や教室に近いこともあるから注意が必要だね」

 コクコクと楓が頷く。

 楓が通う第一中学に、音楽スタジオのような防音設備を備えた部屋はない。かろうじて音楽室と視聴覚室、そして放送室に吸音壁が用いられているくらいだ。防音というよりは音の反射を抑制するためのものである。


「それで囲碁/将棋同好会なんだけど。前生徒会・・・あ、凪先輩の頃の生徒会が活動を始めた一昨年の冬頃から、運動部と文化部の部長にお願いして回ってね。結構すんなり通っちゃったんだ。新生徒会も新部長たちもみんな同級生だったし、同じ教室の人もいたから話が通りやすかったんだろうと思うよ」

 楓は中学に知り合いの先輩は少ない。小学校時代にミニバスをやっていた先輩くらいだ。しかも1〜2年ほど疎遠になっていた。伝手が思い浮かばず肩を落とす。


「私、上級生に知り合い少ないんです。囲碁/将棋同好会のように部長さんたちと同級生だったらお願いしやすいんですけど・・・」

「それなら大丈夫よ。凪先輩にお世話になったり助けてもらった部は多いの。今の部長たちで凪先輩を感謝していない人はいないと思うよ。・・・もちろん私も。この際だから使えるコネは最大限利用してみたら?そう何度も使えないけどね」

 伝家の宝刀も抜きまくっていればその価値が下がってしまう。ここぞという時に使用するからこそ最大の効果を発揮するのである。


 凪、生徒会時代に庶務として多くの部と連携を取っていた。庶務とあるが、会社でいうところの総務のような役割も果たし、生徒会と部活動そして先生との橋渡しをするなど精力的に活動をしていた。また部下として生徒会に入った倫子や海津などへのフォローも行き届き、彼女らの口コミで下級生の評判も上々であった。

 現在、インドアな軽音楽部への入部を予定しつつ、家に帰ってきたらアニメ三昧の兄からは想像ができないが、楓の上級生からの評判はすこぶる良いものらしい。


「凪にぃの名前を出してお願いするのは気が引けますけど、申請の許可をもらう可能性を少しでも上げようとするとやるしかないですね」

「うん、それとね。これは私からの提案なんだけど、帰りのホームルームと掃除が終わったあとに、30分だけ生徒会のお手伝いをしてみない?凪先輩みたいに上級生と関わるお仕事をすることで、楓さんと部活動の人たちと良い関係ができると思うよ。先生たちの印象も良くなるし、ちょっとイヤラシイことを言っちゃうと高校入試の時に評価の対象にもなることもあるよ。・・・ただ生徒会活動に時間を割く分、楓さんのギター練習の時間を割いてしまうことにはなるんだけど」


 部活動において部長をやり部員を率いたりレギュラーで良い成績を残したり休まず続けたり、また生徒会活動を真剣に取り組み成果を残すなどした場合、これらの学業評価以外の評価も内申点に加算される。

 兄の凪も野球部でレギュラーを務めながら、生徒会活動も行なっていた。学校行事が目前に迫っている時などは部活動への参加が遅れたこともあったが、野球部の部員や顧問に理解を得られた。また試合が近づいたときなどは短い昼休みを有効活用して生徒会の仕事を前倒しするなどして両立することができた。当然勉強も怠ってはいなかったので、早々に進学校への校長推薦を得られ、推薦入試対策に一本化することができたのだ。


 楓が通う第一中学は、掃除終了が15:30分。以降は部活動の時間だ。文化部の多くは17:00まで。顧問によっては空が薄暗くなりボールを追えなくなる時間まで練習を続けている運動部もある。

 活動が30分遅れると、空き教室が借りられなくなる日もあるかもしれない。活動時間も減ってしまう。しかし悩むまでもなく楓の回答は早かった。


「ぜひやらせてください。同好会申請をするためにはメンバーを集めなくちゃですし。やっぱり部長さんたちとの距離を縮めておきたいですし。・・・それに凪にぃもやってた生徒会だし」

 昔から、遊びも趣味も凪の後ろを追っていた楓。やはり兄が経験していることは自分もやってみたいようである。ブラコン?今更である。しかし兄の恋路を邪魔するほど病んではいない。凪の幸せは楓の幸せなのだ。


「ありがとう。楓さんが生徒会の運営を手伝ってくれるなら本当に助かるよ。今の生徒会役員は全員部活動にも参加しているから、限られた活動時間だと仕事の進捗が良くなくってね」

 倫子は少し恥ずかしそうにはにかんで見せた。


「最後に。晴れてメンバーが揃って同好会の申請を正式にするまでに、活動の目的とあと目標みたいなものがあれば考えておいてね。何かのコンクールやバンドの大会に出る、とか文化祭でステージに立つとか街のイベントに参加するとか。さっきも説明したけど、部長集会で同好会の設立を納得してもらわなければいけないから。それじゃ、早速明日の今くらいの時間に生徒会室で待ってるよ。一緒に第一中学(イッコー)生活を充実したものにしていこうね」

 話の腰を折る訳ではないが、倫子もこれから生徒会の事務処理をして部活動にも行かなければならないのだ。楓は、自分の相談に貴重な時間を割いてくれた倫子に感謝すると生徒会室を後にする。


 空き教室利用のための相談と、同好会設立の相談をしに倫子を訪ねた楓。なぜか生徒会の手伝いをすることになってしまった。役職はまだない。9月初旬に生徒会選挙の立候補者と選挙期日が告知され、9月後半に学内投票が行われ当選するまでは。それまでは倫子のサポートなどを務めることになる。


 中学生になってからそれなりに楽しい学校生活ではあったが、クラスの友達たちと目的なくダラダラ街で遊んでいるときなど、すぐに家に帰ってギターを弾きたいとまで最近では感じるようになっていた。

 知らず知らずのうちに、学生生活に刺激と張りを求めていた楓。倫子が与えてくれた道標は自分の進む足元を照らしてくれる光のようだ、と楓は思う。退屈な毎日がにわかに輝きだした瞬間であった。

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