1.父と娘のお買い物
初投稿。初作品です。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
「楓、パパちょっと欲しい本探してるから。楓も漫画本でも見ておいで。30分位したら戻るから、あそこのベンチがあるところに集合ね」
現在少女は父親と、本やらCDやら家電やらをを取り扱っているリサイクルショップに来ている。
左藤楓、12歳。
小学校を卒業した翌日、そのお祝いを兼ね、念願であったスマートフォンを買ってもらうために、父親の颯太と街に繰り出していた。風はまだ冷たく快晴とまではいかないが、ショッピングをするには十分な天候である。
今日は朝10時ちょっと前に、父が運転するスポーツセダンで自宅を出発し、まずは携帯電話ショップへ。週末ということもあり店内は賑わっていた。
購入する物は決まっていたため、整理番号を受け取って店内に展示されているスマホを見ながら時間を潰す。番号を呼ばれてからはスムーズに進み、その場で受け取ることができた。
老舗キャリアの家族割りで契約した林檎フォンは、楓の家族と色違いのお揃いである。老舗キャリアの場合、12歳以上であれば回線契約を結ぶことはできるが、林檎IDは13歳未満は推奨していないため中々ややこしい。
楓は今年の秋にならないと誕生日が来ない。保護者である颯太が娘である楓に貸し与えるという形式をとり、颯太が自分の物とは別に作成したIDとPASSを管理する形をとることで13歳問題をクリアしつつ、無差別なアプリのダウンロードも抑制している。そのため、新たにアプリをインストールしたい場合には保護者である颯太にお願いをしなければならない。
楓が13歳の誕生日になればこの縛りも緩和されるかもしれないが、こればかりは利用料金を支払っている保護者の匙加減にかかっている。
携帯電話がビジネスマンだけのツールでなくなり学生にまで浸透してより、わずか20年弱の間にものすごい進化を遂げている。正しく使えば、仕事にもプライベートにも恩恵をもたらす。
もしも使い方を誤れば、諸刃の剣ともなってしまう。安易なつぶやきや不適切な投稿により炎上したり、相手に撮られてしまった/送ってしまった写真で人生が崩壊することさえある。
ポケベル〜PHS〜携帯電話〜、win95〜win98〜xpという通信/インターネットの黎明期を経験し、幾度となくブラクラをはじめ、海外サイトの受動的攻撃性があるポップアップ広告を踏まされそうになった颯太ならば、それらの経験より対応/対策/耐性が自ずと身についてきた。
今の時代、中学入学とともにその半数が携帯/スマートフォンを所持することが当たり前となった現代では、段階を踏んだ知識/体験の蓄積は難しい。スマートフォンを所持したその時にプライバシーの垣根も判らぬまま情報の海に放り出されてしまうのだ。
しかしそんなお父さんお母さんの心配を払拭してくれる機能やアプリが存在してくれていることで、やっと物事の分別がつき始めた中学生にもスマートフォンを持たせることができる。
楓の住んでいる街は日本海側に面し、海と平野と山に囲まれている人口10万人弱の地方都市だ。
今でこそどのキャリアも基地局アンテナが増えサービスエリアが拡大されたが、4〜5年前までは新興キャリアの基地局アンテナは首都圏や大都市に比べると少なかった。
そのため海岸線や山岳部のみならず、主要幹線道路を少し離れただけでも新興キャリアの携帯電話のアンテナが立たなくなったものだ。
だからなのか、新興キャリアのサービスエリアが広がり通話料がお得になった現在でも、昔から携帯が繋がりやすかった老舗キャリアから他社に移る踏ん切りのつかない層は一定数存在する。颯太もその一人だ。
当時父親の颯太が大学に入学して初めて持った携帯電話など、二つ折りでもなくカメラ機能もメールアドレスもなく、通話以外にはショートメッセージを送ることができるだけの代物であった。
しかし当時はそれだけで十分であった。必要な時にリアルタイムで連絡ができたりメッセージを残せるので、待ち合わせの時などは大いに捗るようになった。
颯太が子供の時なんて、親しい友達の家の電話番号くらいなら5軒以上暗記していたし、中学時代は小遣いで買ったCASI◯のデータバンクWATCHに友人の連作先を登録してたものだ。
それが今や、妻や家族の電話番号さえ覚えることができないでいる。便利な物に頼りすぎるがために、以前は出来ていたことが出来なくなってしまった。これは颯太に限ったことではないだろう。
また、外出先から自宅などに連絡を入れたり、ポケベルを持っている友人にメッセージを送るために、テレフォンカードも財布に3枚以上は入れていた。今ではめっきり見なくなった公衆電話も、当時は地方都市と言えど市街地ならば数百メートルおき設置されているほどだった。
そんな颯太のテレカコレクションの中でも、当時人気だった広◯涼子の非売品D◯CoMoテレカは、彼の宝物であった。このテレカだけは一度も穴が開くことなく財布のパスホルダーの中に納まり、会計の度に財布を開くと彼女の笑顔があった。きっと彼が他キャリアに変えられない理由の一つではないだろうか。
ふと颯太が昔のこと等を思い出し、感慨にふけながら車を運転している横の助手席には、早速無料通話アプリをダウンロードしている楓がいる。
「車の中でスマホいじってると、酔っちゃうよ。ほどほどにね」
「うん、気をつける。今、アプリを入れてるの。初めてはパパとがいいな!」
颯太の言葉に、うつむいて画面を操作していた楓は顔を上げ素直に応じた。
嬉しいことを言ってくれる娘の言葉に父は口元を緩ませる。
4月から中学生。思春期に差し掛かっている娘に、まだ反抗期は来ていないようだ。