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 「かんぱーい!」


 アイーシャの号令と共に酒を酌み交わす一行。

 アレティアへと帰ってきた後に無事報酬の受け取りを済ませた一行は、【風見鶏の羽】にて宴会をしていた。

 テーブルの上には様々な料理が所狭しと並んでおり、見た目にも華やかである。


 「やー、グレイウルフが群れを成して襲ってきた時は肝が冷えたわよ」


 既に蜂蜜酒をたらふく飲んでいるアイーシャはへべれけ状態である。

 ヤマトは料理と酒に夢中である。火酒が恋しかったのか樽ごと3本ほど購入しており、ガバガバと直にタンブラーで酌みつつ飲んでいる。

 サラは微笑みを絶やさず凄い速度で料理を口に運んでいる。


 「うふふ、その前に炎の壁で被害を押さえたアイーシャ様も見事でしたわ」

 「そう? それなら嬉しいわ」

 「ええ。射線も切れませんでしたから、しっかりと狙う事が出来ましたもの」


 酒も入っているせいか嫌なことや苦しかったこと等は既に忘れている。

 そんな楽しげに騒ぐアイーシャ達に声をかける人物がいた。


 「おう! ヤマトじゃあねーか!!」


 豪快に声をかけてきたのはドワーフであった。背は低いが、筋骨隆々としており、がっしりとした体型をしている。茶色い髭が胸元まで伸びており、好々爺然とした印象がある。更に彼を特徴づける物として鎚を背中に背負っていた。


 「む、どわあふか」


 ヤマトも頷き、声をかける。

 このドワーフこそ、ヤマトと酒を酌み交わし、飲み比べた人物である。それが縁で知り合いになったのだ。


 「がっはっは! そりゃ種族の名前だな! 俺ァバルガスだ!」

 「まァ何でも良か。良けりゃァ飲むど」

 「おう!! それじゃ、お言葉に甘えっかね!」


 どかり、と椅子に腰を落とすバルガスにアイーシャは緊張の面持ちで声をかける。


 「バルガス……? バルガスってもしかして【炎の鎚】の団長……【破城鎚】!?」

 「なんでぇ。嬢ちゃん、俺を知ってんのかい」

 「そりゃレムリアで探索者やってれば誰でも知ってるわよ。有名なのよ?」

 「そういうもんかァ? 特に何かやってる訳じゃあねーんだがなァ……」


 頭をボリボリと掻くバルガス。


 「アイーシャ様、このお方は?」


 疑問符を浮べるサラに、アイーシャは苦笑して答える。


 「彼はね、アレティアのクランでも最大最強を誇る4大クランのうちのひとつ。【破城鎚】の頭目をやってる人よ。レベルは七ツ星。かなりの高ランクよ」

 「止めてくれ、ケツが痒くならァ」


 バルガスはそっぽを向いて胸元まで長く伸ばした自慢の髭を撫でる。


 「凄いお方なのですね~」

 「そうね。ちなみに彼本人もかなり強いわね。一度一緒に仕事をした事があるけど、凄かったわ」

 「おっ? なんでェ、嬢ちゃん水くせえな。そン時に会ったンなら声かけてくりゃア良いじゃねえか」

 「会ったと言ってもすれ違っただけよ。1年前の西部大規模調査の時ね」

 「ほぉ……そん時か。ありゃあなかなか歯応えあったもんなァ!」


 可笑しいのかわっはっはと大口を開けて笑う。ちなみにその間でも樽から酒を酌み、水のようにガバガバ煽っている。

 無論、ヤマトも同じペースで飲み続けており、周りの客はちらちらとアイーシャ達の席を見ている様であった。


 「まあ死線だらけだったけれどお陰さまでかなり勉強になったわね。稼げたし」

 「まあ、この家業は稼いでナンボだかんなァ」

 「違いないわね」


 バルガスの言葉に苦笑するアイーシャである。


 「で、ただじゃあ無いんでしょう? 平凡な探索者に何か頼み事でもあるのかしら? アレティア支部の斡旋統括さん?」


 そうアイーシャが問いかけるとバルガスは苦笑した。


 「なんでェ、お見通しかよ。まー手間が省けて良いやなァ……」


 バルガスは手元にある火酒を煽って空にした後、一言告げる。


 「お前さん、【アヴァロン】って聞いたことあるか?」


 バルガスの言葉でアイーシャの顔から笑みが消えた。



 「その言葉、どこで聞いたの? 詳しく聞かせてくれないかしら」

 「何かあるみてェだな。つっても俺も良く知らねェんだがよ」


 一拍、ゆっくり息を吐く。


 「組合に依頼が来たのはアヴァロンつっても、【アヴァロンの赤い実】についての捜索でよ。率直に言やァ俺ァ、お前さん達にその依頼を任せようかと思ってんだ」

 「何ですって……?」


 バルガスの言葉はなおも続く。依頼の内容とはアヴァロンの実についての捜索である。

 アイーシャは内心で強い喜びを感じていた。彼女の旅の目的は【アヴァロン】が関係のするものである故だ。

 アイーシャは生き別れた父を探している。父はアイーシャが幼少のころに家を出て行方知れずになったのだ。

 その父が残したものが紛れもない【アヴァロン】という言葉であった。

 旅の目的が、欠片とはいえ目の前に転がっているのだ。直ぐにでも飛びつきたい。

 だが彼女の予感がきな臭い物を感じとっているのだ。美味い話には裏があるものである。

 今までアイーシャが受けたアヴァロンが関係する仕事は全てが外れであった。

 更にはは何度も騙され、いいように使われた。

 命の危険を感じたことは何度もあったし、奴隷として売られそうになったこともある。

 故に探索者として培ってきた経験が、アヴァロンに関しては歯止めをかけていた。


 「何ぞ。そのあばろん(・・・・)ちゅうんは」

 「ヤマト様、アヴァロンというものはこの世界の何処かにあるといわれる伝説の都の事でございます」


 ヤマトの疑問にサラが丁寧に答えていく。

 【アヴァロン】とは伝説の都の名前である。

 【アヴァロン】はこの世界の何処かにあるという神秘の島にあるらしい。

 そこには様々なものが集うという伝説があり、中でも一際目を引くのが【アヴァロンの赤い実】の伝説である。

 曰く、その実はアヴァロンでのみ手に入れる事が出来る。

 曰く、その実をひとつかじれば無限の知恵を得ることが出来る。

 曰く、その実をふたつかじれば無限の力を得ることが出来る。

 曰く、その実をみっつかじれば無限の命を得ることが出来る。

 というものだ。

 かつてはその実を求めて多くの探索者、貴族、王がアヴァロンを目指したという。

 しかし誰一人としてアヴァロンの実を手に入れる事は出来なかった。


 「御伽噺の題材にも良くされておりますわね。私も旦那様に良く聞かせていただきましたわ」

 「ほォ……。わっぜ島じゃのォ。こん世ば本当(ほんのこっつ)面白か」


 サラの言葉にヤマトは感心していた。


 「【アヴァロンの赤い実】はあたしも探しては見たけれど、どれもハズレよ。手がかりにすらならなかった」

 「話は最後まで聞けや。その赤い実を手に入れた人物がいる、と言ったらどうする?」

 「嘘でしょ……?」


 疑いの目を向けるアイーシャに、バルガスは首を振った後、言葉を続ける。


 「嘘じゃあねェらしい。まァそれを手にしたのがどこぞの領主なんだがよ、その実のお陰で本人が不治の病から復活したみてェだからな」


 バルガスが酒を酌み、煽る。


 「で、依頼主もその領主だ。先のグレイウルフから、領地内の村を守ってくれた力を見込んでよ、お前さん達に頼みてェんだとよ」


 更にもう一杯を飲み干して、アイーシャへ向き直る。


 「すまねェがこちとら依頼あっての探索者よ。めんどくせェが無碍に断れる立場じゃあねェ。だからよ、一丁頼まれてくれねェか」


 バルガス言葉を聞いて尚、アイーシャは自分の考えに没頭しているままであった。

 アイーシャを横目にバルガスはタンブラーの中に残っていた火酒を空にすると、席を立った。


 「まあ、じっくり考えてくれや、ごっそさん。明日の昼、組合にいる。いい返事を待ってるぜ【幸運(・・)】の」


 そう告げてバルガスは【風見鶏の羽】を去っていった。無言のアイーシャを残して。

 アイーシャはしばらく考え込んでいたが、手に持っていたタンブラーの中身を煽り、一気に飲み干す。

 カッと頭が熱くなる。そしてゆっくりと、息を吐いた。

 息を吐き終わると、ヤマトとサラを見る。そしてしっかりとした言葉で告げる。


 「決めたわ。明日バルガスに会いに行くわ」


 その目には決意と覚悟があった。

 ヤマトとサラはアイーシャの言葉にしっかりと頷いた。

 尚、アイーシャがひとりシリアスモードに入っている中でヤマトとサラは食事を続けていた。

 結果、気を取り直して食事に戻ったアイーシャの目の前には既に何も残っていなかった。

 更にバルガスの酒代を含めて金貨3枚と銀貨20枚という代金を支払うことになり怒りに燃える事になるのであった。

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