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害獣調査

 依頼をこなすためにアイーシャ一行は昼を少し過ぎた頃に近隣の村まで来ていた。

 この村は雑穀地帯に位置しており、アレティアからは馬車を使って半日といった所に位置する。

 行商人のおじさんも無事であり、同じ宿に泊まっていた。アイーシャはおじさんとの再開を喜んだ。

 そのまま再開を祝して飲み始めたのが一昨日夜の事である。

 その席で調査の依頼で近くの村まで行くという話をした所、目的地が同じという事で、行商人のおじさんの好意で乗せてもらう事となった。


 「おじさん。ただで乗せてもらって本当にありがとうございます」

 「なぁーに。命と商売道具を助けてくれたんじゃ。これしき安いものよ」


 そう言うと行商人のおじさんはにかりと笑みを浮かべた。

 そのまま仕事をするらしく、ここで彼と別れて一行は村長の家へと向かう。


 一行は村長の家に到着し、馬車を降りる。依頼を受けた探索者という事を話すと、快く向かえてくれた。

 内容は家畜を荒らす獣の調査と、あわよくば退治との事である。

 依頼の打ち合わせが終わり、村長の家へと厄介になる。その一室で話し合いを始めた。

 仕事を始めるのは日が落ちてからであるが、先にやることをやっておきたいとアイーシャは思っていた。


 「というわけで、まずは現場の調査をするわよ。つーかあんたは何時まで飲んでるの」


 その一言にヤマトは飲んでいた水筒から口を離す。中身は酒である。ドワーフの探索者と飲み明かした後、土産として貰ったらしい火酒というものを彼は大層気に入ったらしく、肌身はなさず持ち歩いているのである。

 尚アイーシャが少し味見した所、喉が焼けるように辛く、強い酒精が体を撃ち抜いたので、恐らくはかなり強い酒である。


 「ぶはっ……そォは言うがよ。既に片されとォじゃろ」

 「あら、そうとは限りませんわ。獣なら周辺に何かしらの印を残しているものですよ」


 サラが諭すように告げればヤマトはふむ、と鼻を鳴らして酒を煽る。


 「ふゥむ、なるほどのォ。そいじゃ、付き合うど」


 そう頭を掻いてげふり、と喉を鳴らす。アイーシャは呆れてしまったが、付き合ってくれるなら有難いと気持ちを改めた。


 「それじゃ決まりね。現場を見に行きましょ」


 アイーシャがそう告げると、二人は頷いたのである。



 一行は村と森の境まで来ていた。あたりには無数の畑が広がっている。元々ここは森の中であったが、村の人口増加に伴い新しく開拓したとの事である。

 その畑も今は犠牲になった家畜の血によって無惨な状態になっている。

 流石に家畜の死骸は片付けられているが、血生臭さは残っている。


 「予想以上にそのまんまね……」

 「獣に滅茶苦茶にされた後に直しても元の木阿弥ですからね。そら放置したくもなりますよ」


 アイーシャ達の道案内を買って出た村人はそう苦々しく告げる。

 村人の話だと、畑は駄目になったが、収穫は終わっているらしく、作物が被害を受けなかった事は不幸中の幸いであった。この畑の持ち主は何とか生活できる位の蓄えはあるらしい。

 一行が近辺の調査をしていると、やがて畑の土に獣の足跡が複数残っているのを発見した。

 跡は球体のものを複数押し当てて作ったようなもので、等間隔に多く残っている。大きさはおよそ人の掌位である。

 アイーシャは、この独特な足跡を肉球ではないかと当たりをつけ、数多くあることから、群れで行動している獣と予測する。

 

 「んー……これは大陸狼かしらねえ」

 「ほお、狼じゃと」


 アイーシャのいう大陸狼と言うものは北大陸に広く分布する獣であり、俗称をグレイウルフという。

 名前の通りくすんだ灰色の毛をしており、群れをつくって生活をしている。

 彼らは基本的に人には近づかないのだが、一度縄張りに侵入しようものならば集団で襲いかかる。ある意味では獰猛な獣である。


 「これは開墾した畑がグレイウルフの縄張りに引っ掛かって、かつ放し飼いにしていた家畜が被害にあってしまったという事でしょうか」

 「かもねえ。流石にこればっかりはどうしようも無いわねー」

 「ま、待ってください!」


 確認するサラと、撤収しようとしたアイーシャではあったが慌てて村人が止めに入る。


 「こちらも生活がかかっているのです。そこを何とかお願いできませんか」

 「そりゃあ助けてあげたいけれど、群れを相手にこの人数は厳しいわ。村もまとめて全滅という事もありえるのよ?」


 そうアイーシャが告げると、村人は険しい顔のまま黙ってしまった。アイーシャの胸にちくりと罪悪感が刺さる。


 「まあ、まだ確定じゃないわけだしね。夜まで様子を見ることにしましょうか」


 結局アイーシャは夜まで様子を見ることにした。

 しかしながら心の奥底では、ひしひしと拭えない不安を感じていたのである。


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