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探索者組合、そして飲み比べ

 【風見鶏の羽】で一泊した後、アイーシャとサラは探索者組合の建物を目指して歩いていた。

 アレティアの組合庁舎は【風見鶏の羽】から見て大通りに出た後、左に曲がった2つ目の交差点にあるという。ヤマトは高確率で何かトラブルを起こしそうなので、宿に置いてきた。


 組合を訪ねる理由としては獣害調査の正式な受諾である。

 急を要する依頼、人気があまりない依頼、もしくは初歩的で件数の多い依頼は、元請けした組合の支部から、複数の支部に向けて張り出される。複数の支部に張り出された紙を持って元請けの支部へ行くと、優先的に受諾出来ると言うわけである。

 余りにも塩漬けされた古い仕事に関しては組合の手数料が無料になると言うこともある。


 程なくして2階立ての建物が見えてきた。入口の頭上に立て掛けてある看板に描かれている翼と剣、そして弓が合わさった模様は探索者組合のシンボルである。

 アイーシャ達が扉を開いて中へ入ると複数の同業者らしき人々が併設された軽食店におり、その奥に窓口が見える。

 

 組合の窓口は長い机のようなカウンターで仕切られており、雰囲気としては詰所や店に近い。

 ちなみに組合の中で仕事をしている人々も探索者の一員であり、事務作業と掛け持ちでがっつりと依頼をこなす人もいたりする。

 カウンターの中には様々な手続きをしている職員が複数いる。そのひとり、アイーシャから見て近くにいた女性に声をかける。


 「こんにちは。依頼書を見て持ってきたアイーシャという者だけれど」

 「ようこそ! ありがとうございます。よろしければ組合章と依頼書を見せていただけますか?」

 「はいはい、これね」

 「拝見します」


 アイーシャは鞄と懐からそれぞれ依頼書と金属製のタグを出して職員へ渡す。


 「それが組合章なのでしょうか?」

 「そうね。身分証にもなるから便利よ。あたしみたいなひとり旅は特にね」


 金属製のタグは組合の紋章が刻まれており、その下には小さな星が3つ刻まれている。


 「アイーシャさんはランクは三ツ星以上でフリーランスなのですね。宜しければクランをお作りになられては如何でしょう?」

 「クラン……ですか?」


 疑問符を浮かべるサラに職員は丁寧に説明してゆく。


 「はい。簡単に言ってしまえばお仕事をする上でのチームでしょうか。代表以外でしたら組合に所属していなくても加入が出来ますし、同業として依頼を受けることも可能です。最も代表の許可は必要ですが」

 「そうねぇ……」


 通常、探索者組合に加入する場合は探索者の推薦か、組合が課す試験に合格した者のみが資格を得られる。

 これは探索者の仕事はリスクが高い事と、重要な役割を担うようになったからであり、質の向上に役に立っている。

 故に探索者を志す者は探索者の仕事の補助をし、学んでいくのが一般的である。ベテラン探索者が取ってきた仕事を共にこなし、自身は達成時に報酬を得る。これを仮に師弟制度と呼ぶ。

 職員が伝えたクラン制度は上記の師弟関係の考えを集団化させて生まれたものである。

 ベテランの探索者—ここで言うのは三ツ星以上の者である—がチームを組んで新人の面倒を見、新人達はベテランから様々なものを教わり、経験を積みながら一人前—つまりは組合参加の事である—を目指すという事である。

 クランは小さい規模のものから、様々な小クランをまとめた巨大な規模のものまで様々である。

 因みに組合に寄せられる依頼はクラン専用のものもあり、達成する事で組合からも追加で報酬を得ることが出来る。クランはそれによって資金を得、団体運営や団員の給与の支払に当てる。

 尚、探索者組合ではクラン運営にも大まかに規則があり、破ると厳しい罰則がある。具体的にはランクの降格と違約金等である。


 閑話休題。アイーシャはじっくり考えた後、きっぱりと告げる。


 「依頼達成時にでも考えておくわ。ありがとうね」

 「そうですか。手続きはいつでも可能ですので是非、よろしくお願い致します」 


 職員はそう答えて手元の紙をナイフで半分に切り、アイーシャへと渡した。これが受諾証明になる。

 アイーシャはサラと共に組合舎を出た。

 途中、昼食がてらに色々な屋台で串焼きを多目につつんでもらい、宿へと戻る。

 サラは屋台が珍しかった様で、色んな屋台を冷やかしては店主に質問していた。アイーシャもつい当てられて財布の紐が緩んでしまった。サラの情熱とアイーシャの話術で店主がかなりサービスしてくれたお陰か、元は取れたのであるが。

 風見鶏の羽へ戻ってみると併設された酒場で歓声が上がっている事に気づく。


 「いいぞ! ニイちゃん!」

 「がっはっは! 負けんじゃねーぞ!」

 「テメェ! もう潰れてんじゃあねえ! 今日の儲けがパアにならあ!」


 注視してみればヤマトが他の探索者を交えて酒を飲み交わしているではないか。


 「ちょっ……!? 何これ!?」

 「何だネーちゃん! 飲み比べだよ。どっちが多く飲めるのか勝負してんのさ」

 「あ、うん。それは見てわかるんだけど」


 思わず人垣にかけよって叫ぶアイーシャに気の良さそうな髭親父が丁寧に教えてくれる。

 「実はあるクランが大金を得たらしくてな、パーッとやるために一番多く飲んだ奴が飲み代チャラで賞金ってえ遊びをしてんのよ。それにかこつけて賭けをしてんのさ。無論配当金も出るぜ。大穴はあそこの飛び入り参加した異国風の男だぜ」

 「それをはやく言いなさいよその男に金貨1枚! ヤマトォーーーーーーッッ! 負けたらぶっ飛ばすわよーーーーーーッッ!!!!」

 「ぬおっ!? ま、毎度あり!」


 金貨1枚という高価な金額と、態度が豹変したアイーシャに髭親父は度肝を抜かれたが、そこは胴元としての矜持なのか冷静に戻って木札を渡す。


 「あらあら、困りましたわ」

 燃え滾るアイーシャを見て、サラは手を頬に当ててにこやかに微笑むのであった。


 結論を言えば、ヤマトは顔色ひとつ変えずに酒樽5杯を空けた。

 残念ながらドワーフの探索者と引き分けに終わり、賭けはノーコンテストとなった。アイーシャは深く哀しんだが、賞金が二等分される事を聞いて喜んだ。

 ヤマトは引き分けたドワーフの探索者と意気投合し、夜の街へ仲良く消えていった。

 次の朝にアイーシャが起きて朝食を食べに来ると何食わぬ顔で大量の食事を平らげていたのは余談である。

 尚、謎の黒い髪をしたヒューズの青年があるドワーフと様々な酒場を飲み潰したという噂が流れ、アレティアの都市伝説となる。その正体については様々な尾ひれがつくこととなるが、こちらも余談である。

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