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辺境の街アレティア

 次の日、陽が地に落ちる前に、ようやく一行は目的地のアレティアへと辿り着いた。

 通行料を支払い、特にトラブルなく都市へと入ることが出来た。

 

 アレティアの景観は実に雑多である。基本は北大陸風建築だが、ある区間を過ぎれば古ルーシュ王国風の街並みやひと昔前に流行った帝国風の建物等が散見される。古い歴史のある街だが、増築に増設を重ねた新しくもある都市なのである。


 アレティアは中央区と西部辺境の中間に位置する都市であり、様々な人種が集う。

 元は街道沿いの宿場町であった。帝国統一の後に発生した西部王国群の平定後、未開であった辺境の開拓が始まった。そのお陰で街の重要度が一気に高まり、人口が増えた。

 人口が増えれば仕事も増える。複数の街道を整備したり、都市の規模を増築したり、それに伴い衣食住の需要や商売の増加など好循環の果てに一大都市が出来上がった。

 西部の開拓が一段落した今でも交通の要として、人は集まる。人が集まれば情報も集まる。という訳でアレティアは西部と中央区の窓口として各組合も趣を置いているのである。

 勿論都市を国内に有するレムリアも普通なら利に預かろうと黙ってはいないのだが、レムリアが連合王国という事もあり、アレティアの統治に関しては利権が絡みすぎて危ない。下手に統治すると、他の連合傘下の国に糾弾される可能性があるのだ。

 故にここアレティアは現在、連合王国唯一の独立都市として、一種の空白地帯になっている。


 閑話休題。一行は一先ず宿を取るために雑踏を掻き分けて進んでいた。大通りは日が暮れても活気に溢れている。

 松明は煌々と燃え、店の残り在庫を一掃するために大売り出しに燃える店主。あたりには肉や野菜の焼ける良い匂いが漂い、酒場からは酒精の薫りに合わせて喧騒が聞こえる。


 「凄いわね……。世界の国がごちゃまぜになったって感じ」

 「大きい都市には初めて参りましたが、凄いですわ」


 都市の醸し出す雰囲気に圧倒されているふたり。ヤマトは無言だが、あたりをキョロキョロと見回している。同じく街の風景に目を奪われている様だ。


 「おじさん達から聞いたお勧めの宿はもうそろそろ見えるかしらね」


 アイーシャの言うおじさん達とは途中まで護衛していた行商人と乗り合った女性である。相乗りしている時にアレティアの事を色々聞いていたのだ。

 おじさんもアレティアに到着したら宿泊すると言っていたので無事なら良いなあ、とアイーシャは内心で少し期待した。


 目的の宿【風見鳥の羽】は大通りから東通りへと通じる道を曲がり、少し歩いた先にある小路を曲がった先にある。

 3階立ての建物で、古めかしいが、手入れが行き届いた、何処かの情緒がある木造建築である。

 名前の通り、屋根に飾られた風見鶏が陽を受けて煌めいている。

 中に入ると食堂になっていて、宿泊客と食事の利用客で賑わっている様であった。世話しなく従業員が動いている。

 アイーシャは酒を振る舞っているカウンターへ向かい、店主らしき男性へと声をかける。


 「宿泊したいんだけれど、部屋ってまだあいてるかしら? 1部屋で良いんだけれど」

 「はいよ、ちょいと確認しますわ。おうい、3名1部屋でご案内だが、宿泊は大丈夫か?」

 「ええ、空きはまだあるから問題ないわ」

 「わかった。んじゃ、お客さんに鍵を渡しといてくれ」


 カウンターの更に奥、男性が調理をしているらしい女性に声をかける。

 ふとアイーシャはその女性の声を聞いたことがあるような気がした。

 やがて女性が顔を出すとアイーシャの疑問は確信に変わった。

 

 「はいはい、お待たせ致しました——貴方はあの時の探索者さん!」


 彼女は何を隠そうつい先日馬車で乗り合わせた女性であった。



 「家内を助けてくれたみたいで感謝の言葉もありません」


 そう男はアイーシャに言って頭を下げた。短く刈込んだ頭頂部が見える。

 この男は宿屋【風見鶏の羽】における店主である。


 「気にしないでください。むしろ最後まで一緒に行動できませんでしたし……。まあ、とにかく無事で良かった!」


 にこりとアイーシャが笑うと店主は改めて頭を下げた。

 そこに先ほどの女性、宿の女将が鍋をアイーシャ達の目の前に置いた。

 


 「腕によりをかけてつくったウチの名物です。どうぞ召し上がって下さいな」

 「これは……!」


 鍋の中はたっぷりの野菜と肉を煮込んだポトフであった。

 ハーブの匂いが食欲をそそる。久方ぶりのまともな料理である。

 サラが中身を掬ってアイーシャとヤマトの器に盛り付ける。実に気配りの出来る人形である。元使用人、というのも頷ける。

 アイーシャは折角なので蜂蜜酒を注文する。久方ぶりの酒である。


 「色々と話したい事があるんですがね、すみません。また後程」

 「その分料理はサービスしますから、たんとお上がり下さいな」

 「ありがとう」


 申し訳なく頭を下げる店主と女将にアイーシャは手を振って制した。

 二人を見送って何の気無しにヤマトとサラを見やれば、ヤマトはかなりの勢いで器の中身をがっついている。サラも丁寧に食事をしているが動きが素早く、鍋の中身がみるみるうちに減っていく。寧ろ人形なのに食事は食べるのか、と突っ込みたくなるアイーシャである。

 このまま見ていては食事にありつけなくなってしまう。前回の二の舞は御免だと急いで自分も食べ始めるのであった。

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