プロローグ
全てはスローモーションだった。
一瞬のことであるはずのそれらが、俺には永遠にも等しい時間に感じられた。
最初に腹部が風船のように膨らみ、次に頭、手足。
最後に六人の合成種たちは破裂した。
まるで風船が空気を吸い過ぎて破裂するように。
今まで人を形作っていた部品が黒いアスファルトに飛び散って、大量の血が雨と混ざり合い、俺と男を赤く染め上げる。
ただ目を見開いて、俺は呻くこともできずに目の前の光景を見ていることしかできなかった。
今起こったことに頭がついていかなくて。
なんだこれ。
人間業じゃ、ないだろ。
とにかく冷静にならなくちゃと息を吸い込もうとして、啼なき声が洩れる。
俺の頭上で男が笑う気配がして、抱きしめる力を強めた。
男の顔が首筋に埋められ、血塗れの俺の首を舌でなめとる。
その感触に、一つの思いが全身を駆け巡った。
殺 さ れ る 。
俺もあのアスファルトに散らばっている奴らみたいにこいつに殺される。
怖い。
冷たい死の恐怖に、俺の体はびくともしない。
男が大きく口を開き、鈍く光る牙キバが視界の端に映った。
顔が引きつる。
首にちくっと痛みが走り、ごくりと自分の血が男の中で嚥下えんかされる音がやたらと大きく響く。
そして間違いなく致死量に近い大量の血がアスファルトにぶちまけられるのを俺は乾いた瞳で見つめていた