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桜は微笑む。  作者: 青柳 兎蝶
第一部 『胎動』
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15.狩りうる者達

 


「木槿の恐れていたことが現実となってしまった。桔梗はやっと気づいたんだ、木槿の言っていた戦争、という言葉の意味を。そして、木槿の死の真相を。全てをボクたちに話した桔梗は、鈴蘭に会いに行く、と言った。何故木槿と桔梗しか知らない結晶病の秘密を鈴蘭が知りえたのか。木槿の突然の死、そのあとに姿を消した鈴蘭。これらが示す事実は一つ。すなわち。


 鈴蘭が、木槿を殺した。


 その真偽を確かめるという桔梗にボクたちも賛同して報道後、身辺を固く警護されている鈴蘭のもとへ向かった。結果は散々だった。人間はボクたち吸血鬼に本気で戦争を仕掛けてきたんだ。罠に嵌められて、ボクたちは鈴蘭のもとにたどり着くことなく敗北した。朝霧を逃がすことでせいいっぱいだった。殺されると思った。ボクたち吸血鬼は絶滅させられるだろう、と。

 でも違った。世界の英雄として、希望の象徴として、鈴蘭が選択したのは、僕たち純血の吸血鬼を政府の奴隷として酷使することだった。

 純血の吸血鬼が常に手元にあれば、求めた時にはいつでも吸血鬼の血を結晶病の薬のために調達することができる。それに、純血の吸血鬼が政府に従うことで他の混血の吸血鬼も下手なまねはしなくなるだろうと踏んで。

 当然断った。

 道理のない人間にくみすることは己の矜持きょうじに反すると。

 すると、鈴蘭は君たちの仲間の一人、桔梗はこちらに捕えてある。言うことを聞く方が賢明だと思うが、と脅してきた。ボクたちが大人しく政府のモノとして血を提供し続けてくれるのなら、桔梗の身の安全は約束しよう、と。

 だからボクたちは二千五十一年、終戦を結び、鈴蘭の言う〝約束〟を守り続けているんだ。

 ―――――これが、十年前の戦争の真実だよ」



 それっきり、棗は静かに瞠目して、口を閉ざした。

 まるでその時の情景を思い出しているかのように。

 胸を潰すほどの沈黙が部屋におりる。

 膨大な情報の量に俺の小さな脳は爆発を繰り返していた。

 俺の母さんが純血の吸血鬼?

 世界的英雄とされている研究者で今ではこの国の天皇でもある鈴蘭が父さんの幼馴染み?

 いや、あの鈴蘭が父さんを殺した?

 結晶病の治療法を見つけたのは、父さんだった?

 混乱する。

 頭が痛い。

 ただ一つ言えることは。


「母さんは、生きているんだなっ……!?」


 捕まっていても、ちゃんと生きている。

 ベッドまで走り、縁に体当たりするような勢いで飛びつくと、叫ぶ。


「うん」


 棗は噛みつきそうな勢いの俺の瞳をひたと見据え、確かに、頷いた。

 喋りすぎたからなのか、喉が痛そうにコホンと咳をすると、冷たい指先で、俺の頬に触れた。

 背筋が凍るほど、冷たい指先。

 軽くその指先が肌を伝っただけなのに、ちくりと鋭い痛みが走る。


「ボクたちは桔梗を取り返す」


「どうやって……」


 相手は天皇だ。

 警護はとても堅実なものであるだろうし、何より、棗たちは一度戦争に敗北している。

 容易なことではないだろう。


「そのための計画をずっと練ってきたんだよ。万が一にも抜け目はない」


「……けい、かく?」


「そう」


 棗の真紅の瞳が一瞬、陽炎のように揺らめいた。


「―――――『人間狩り』だよ」










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