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十一話


どうして、こうもピンポイントでアクターとサクラの逆鱗に触れるのか。


ソラとマイが拾ってきた二人を、愚かと評するのはあまりに酷だろう。だが、それでも、世の中、どれだけ必死になって、どれだけ切羽詰まっていようが、避けなければならない危険領域がある。


それを目を覚ましてほんの数秒で踏み抜いた二人は、余程運がなかったのだろう。運などという言葉で、あっさりと片付けていい問題でもないが。


アクターとサクラは、バカップルだ。『無限臨界(No Limited)』でバカップルと言えば【サクラクタ】の名が付随するほど、有名なバカップルだ。


〈バカップル♂〉と〈バカップル♀〉。併せて〈公害夫婦バカップル〉。


公害の名が関する通り、街を歩くだけで周囲に害をもたらす危険人物だ。何も、二人のイチャつきが目に毒だとか、そんな理由だけではない。


ハンマーが殺人鬼、セルハイドが通り魔、フロウがテロリストだとすれば、アクターとサクラはニトログリセリンである。


爆弾ではなく、不発弾でもない。厳重に保管しておかなければ、ほんの僅かの刺激で爆発するような、剥き身の薬品。それが、手を繋いで歩いている。


刺激を与えなければ非常に穏やかなモノだ。ベンチにでも座って勝手にベタベタと楽しんでいることだろう。だが、ほんの僅かでも刺激を与えてはならない。


まず、半径二メートル以内に意図して近付けば爆発する。意図せずとも半径一メートル以内に近付けば爆発する。離れていても見知らぬ異性が話し掛ければ爆発する。攻撃するなんて以ての外。街一つ消し飛んでも不思議ではない。


そんな危険物を取り扱える者がいるとすれば、【サクラクタ】の初期メンバーだけである。触らなければ、何の危険も無いモノではあるが。


しかし、安置していれば至って穏やかな危険物バカップルの危険性を、初見で見破れる者はそうはいない。見た目に危険性が伝わらない分、下手な爆弾より質が悪い。安全だと勘違いし近付けば、何気ない一言で爆発するのだ。導火線もなければ信管もなく、そのくせ火を点ければ大爆発を起こす。そんな危険物である。


性格に多大な難の有る【サクラクタ】のメンバーは、『無限臨界(No Limited)』内でも比較的危険度の高いギルドとされている。


有名なのはハンマーの“遊び”と称した虐殺や、フロウやマイの“実験”と称した惨殺だ。


だが、危険人物揃いの【サクラクタ】のメンバー間では、アクターとサクラが最も危険とされている。


ハンマーを「金槌野郎」などと呼ぶソラも、アクターのことは敬称で呼ばなければ命はない。サクラがキレるから。


アクターに舌打ちすらしてみせるフロウも、サクラには年下として敬意を持って接しなければ命はない。アクターがキレるから。


アクターを足蹴にするセルハイドも、危険物を平気で持ち出すマイも、ある一線だけは絶対に越えない。公害バカップルが、キレるから。


バカップルを刺激してはならない。【サクラクタ】のメンバーが絶対に守らなければならないルールとして掲げるほど重要な決まりだ。


にも拘らず、それを知らない黒いローブの女はヤってしまった。


アクターに対する三大禁句の一つに抵触する、「何でもします」。アクターに媚びを売る発言は、御法度である。


因みに、他二つはアクターを貶める発言と、アクターとサクラの仲を引き裂き兼ねない発言の二種である。(アクターに害が無いとサクラが判断した人物に限り、洒落や冗談は大目に見られる)



その発言を耳にした瞬間、サクラの姿が消えた。


その発言が三大禁句に抵触していると判断したソラとマイが慌ててサクラに目を向けた時、既にサクラは消えていた。


ヤバい!と判断するより早く、ソラとマイの体は反応していた。女の命なんて諦めて、地面が凹むような力強さで、背後に跳んだ。


消えたかと錯覚するほどの超高速移動を可能にするサクラの敏捷と筋力を、圧倒的な速度に乗せて、サクラの前蹴りが女の胸に突き刺さった。


蹴り飛ばしてはいない。女の胸に風穴を空け、サクラの右足が貫通した。一拍遅れて、パンッ!と体の破裂する音が響き、女の臓物が背後に撒き散らされる。


ズル…と血塗れになった足が引き抜かれ、女の体を支えるものが無くなり前に倒れた。が、女の頭が地面に落ちる直前、まるでボールでも蹴るようにサクラの爪先が女の頭を蹴り飛ばした。


血で放物線を描きながら、女の頭部が宙を舞う。胴体は、サクラの足元に崩れたままである。


「…………マイ」


「はいっ!」


「回復」


「はい!」


迅速に、非常に手馴れた仕草で、女だったモノの破片を回収し、『全効能回復ポーションX・改』を垂らす。数秒後、絶叫を上げながら女が蘇生した。


アクターが需要は無いと評価した『全効能回復ポーションX・改』だが、実は密かな需要がある。拷問用という、とても回復剤の使い道とは思えない用途だが。


口から大量の血液を吐き出しながら、ついに女が回復を終え、地面に手を突いて起き上がった。いや、起き上がろうとした。


サクラの足が、女の頭を踏みつけた。死なないように、気絶すら出来ないような力加減で、女の顔だけ潰すように。


「死ね」


生き返らせておきながら、死なないように手加減しておきながら、殺さないように殺そうと頭を踏みつける。何度も何度も。手足を踏みにじり、耳を踏み千切り、全身の骨を踏み砕いていく。


「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね」


全身汲まなく、踏み潰したら、当然女は死んでいた。死因は痛みによるショック死か、内臓を傷めたのか、わからないが、とにかく死んだ。全身青アザだらけで、口から血反吐を吐いて。


「マイ。回復」


「はい!」


激痛を伴う蘇生の後、再び蹂躙が再開される。会話の余地の一片すらなく、壊れた精神すら回復させる最悪の回復剤を使われて、何度も女は殺された。


まるで単純な作業をこなすように、女が死に、マイが蘇生し、サクラが殺す。その付近では、アクターが馬乗りになった男の頭部を殴打している。


「………………………」


その光景を、ソラは眺めることしか出来ない。割って入れば、あそこで自分が痛め付けられると誰でもわかる。


「………………………………もしもし、お姉様。助けてくださいお願いします」


結局、ソラの救援に駆け付けたセルハイドがアクターとサクラを止めるまで、二十回ほど女は殺された。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



いやいや、どうもサクラさんのことが絡むと自制が効かなくなる。ホント、もう少しでセルさんをぶん殴るとこだった。いや、実際に殴ろうとして、避けられたんだけど。


困ったもんだ。ついカッとなって殺ってしまった。反省はしていないけれども。


だって、僕は悪くないよね?八割くらいはサクラさんを巻き込もうとしたあのサンドバッグさんが悪いよね?残り二割はあんなの拾ってきた双子が悪い。双子が。


双子が………。む。思い出したらムカついてきた。ちょっとお仕置きが必要ではないだろうか。厄介事を持ち込まれると迷惑だし、ここらで一発ガツンと言ってやろう。そうしよう。


「だから、もう解放してください」


「却下だバカ。もっと落ち着くまで黙って待ってなさい」


「僕は至って冷静です。冷静に今回の出来事を省みた上で、あの双子には教育を施すべきと判断しました」


ほら、凄く理性的な意見。


「じゃあ教育は私がヤっとくから、あんたは少しサクラへの愛を見直してなさい」


「了解です」


取り敢えず、今は脳内をサクラさんで埋め尽くせばいいらしい。そうすれば、そのうち拘束を解いてくれるだろう。


サクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラさんサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラサクラ嗚呼大好きだ。


「サクラさんと会いたいです」


「もう少し頑張ってみようか」


「いえ、もう結構です。僕はサクラさんとの面会を所望します」


僕はちゃんと落ち着いて………むしろサクラさんパワーでテンション上がってきたけど、通常モードに切り替わったのに、セルさんは何故か深く溜め息を吐いた。なぜだ。


「ソラとマイは私がちゃんとヤっとくから。わかった?」


「問題無いです」


もう一度セルさんが溜め息を吐くと、僕を後ろ手に拘束していた黒い縄がほどけて、スルスルとセルさんの懐に戻っていった。正直、あの程度の拘束なら簡単に抜け出せるが、抵抗しない辺りが僕が理性的に動けていた証である。僕はずっと冷静なのだ。


立ち上がり、コートに着いた砂を払う。こんな砂漠のど真ん中で地面に転がすなんて、本当にセルさんはセンスがない。せめて磔とか色々とやりようが………やっぱり磔は嫌だから、まぁ良しとしよう。


「サクラさんは………アレの中ですか」


立ち上がった僕の背後に、僕を縛っていた縄と同じ真っ黒のナニカで出来たドームがある。恐らくあの中に、サクラさんと双子が入っている。サクラさんが僕を呼んでいる。


「……………あの双子、死んでなきゃいいけどね」


……たぶん、大丈夫だ……と思う。あの双子、あんなふざけた性格のくせに二人だけで【サクラクタ】の残り五人と張り合うくらいに強いし。


でも、一年ちょっと前の話だからなぁ。サクラさんもあれから数倍は強くなったし、どうも双子はサクラさんを恐がっている節があるし。まぁ、サクラさんが危ないならともかく、双子の身はどうでもいい。


とにかくまぁサクラさんを監禁とかマジ有り得ないよね。


風船が割れるように、黒いドームが破裂して、中からサクラさんが出てきた。右腕が大蛇になっている。しかも、その大蛇からビームを撃とうとしていたようで、大きく開いた口の中央に白濁したエネルギーが収束していた。


が、ドームが消えた瞬間、僕の方を勢いよく振り向き、右腕を元に戻してこっちに走ってきた。


「サクラさん!」


両手を広げると、勢いよく僕の胸に飛び込んできた。幸せ。『オウゲイ』の外だから面を外して再会のちゅーが出来ないのがツラい。


「サクラ!」


感動の再会を果たした僕達を邪魔して、何故かセルさんが叫んだ。どうも少し怒っているようだ。後にして欲しい。空気読もうよ。


「あんた今、止め刺そうとしたでしょ!やりすぎなのよ!」


「その二人には、お仕置きが必要でしょ………?」


ぼろぼろになって倒れている双子に回復剤をかけている。気付かなかったが、サクラさんが半殺しにしていたらしい。流石はサクラさんだ。


「お仕置きはともかく、殺さなくても……」


「あぁああぁ!死ぬかと思ったぁ!」


「何ですかあれ!強すぎです!反則です!」


「意外と元気そうじゃないですか。セルさん、ちゃんと反省させといてくださいね?」


第一声に死ぬかと思ったなんて言ってる時点で、反省が足りない。


「いや……うん……まぁ、ちゃんと殺るわ」


ならいい。これ以上双子と関わりたくないし。


それよりサクラさんだ。サクラさんだサクラさんだサクラさんだサクラさんだ。大事な事なので五回言った。


「サクラさん、怪我してないですか?あのちんちくりんに変なことされてないですか?」


「うん…………」


む。


「どうしました?」


「えっと………ぁ」


ぎゅーっ抱き締めて、頭を擦り付けられた。非常に可愛らしい。


「寂しかった………」


なんて可愛い生物だ。僕の奥さんは史上最強に可愛い。今すぐ帰ってイチャイチャしてエロエロしたい。するって決めました。


「帰りましょうか」


僕が宣言すると、サクラさんが小さく頷いた。双子も手早くメニューを操作して、セルさんが消えて、僕達は残った。


おい。


「アクターさん。まだ転移出来ないんだけど」


ついつい、サクラさんの傍にいるのに溜め息を溢してしまった。でも仕方がない。どうやら僕達はクエストに巻き込まれていて、さっきの二人を殺してもクエストが解除されなかったのだ。


もう、解決法が思いつかない。早く帰りたいのに。


「あー、ソラさんマイさん。早急にクエストを解決してください。三十分以内に解決出来たら、お仕置き免除です」


「「無理です」」


諦め早いよ。僕が求めているのは「解決しました」って言葉だけなのに。


「大体、アクターさんと合流するまでの間に近くに居たのはあの二人だけですよ!」


「スクラップ場にも生体反応はなかったし、何の手掛かりも無し!もう詰んでるね!」


「セルさん呼びましょう」


普通に転移を使えたのだ。セルさんはこのクエストに参加していないということだ。なんて理不尽。絶対に巻き込んでやる。


メニューからコールを開き、セルさんを選択する。数回の呼び出し音の後、気だるそうに応答があった。


「斯く斯く然々の事実で救援を求めます」


「却下。どうせイベントか何かで転移出来ないって話でしょ?私は知らん」


取り付く島もなく、あっさりと切られた。薄情な人ですこと。


「どうするの!?」


「私は既にギブアップです!」


「とりあえず手分けして辺りにヒントが落ちてないか探しましょう。どうせマイさんが爆発で吹き飛ばしたのが原因でしょうし」


怪しいのは巨大なラスティーキングを生み出した黒い玉だ。あれはもう、ソラさんが消し飛ばしてしまったが。


「アクターさん!手分けして探すって言ったんだからサクラさんとも別行動してよ!」


「え?すみません、煩くて聞き取れないです」


「ソラ!無駄です!さっさと行きますよ!」


ギューン!と叫びながら、双子はスクラップ場に走って行った。やっと静かになった。


「僕達も行きますか」


胸にくっついていたサクラさんを引き剥がし、手を繋いで歩き出す。が、サクラさんは乗り気ではない。クエストなんかより、僕とイチャイチャしていたいのだろう。僕だってそうだ。


「さっさと解決して、帰ってイチャイチャしましょうね」


「……………うん」


まだ若干嫌そうだが、左腕にバッチリ抱き付いてくれたので十分だ。サクラさんパワーで頑張ろう。


「愛してますよ、サクラさん」


「……うん、わた、(ギュ―――――ン!)」


空気の読めないことに、上空を一機の航空機が通過して行った。サクラさんの愛の言葉を聞き逃してしまったではないか。


これだから『地界』はダメなんだ。早く帰りたい。



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