2:00の部屋 2
そういえば時計を探せって言われたけど、どんな時計だとか言われてないな。前のときも思ったけど、ここって何か説明不足っていうか、不親切だよな。敵である勇者に親切なラスボスの館ってのも変な話だけどさ。
さっきはちょっとだけ読んだ内容を思い出せたから良かったけど、今回は全く思い出せない――というより本当にそんな場面あったっけ? と聞きたくなるぐらい覚えのない場面だから、増々困る。
さて、どこから探したらいいものか・・・・・・。
僕は少し迷った末に、とりあえずここがどんな場所か知るためにも、少し周りを見て回った方がいいのかもしれないという考えに達し、何があるかも分からない不気味な藪をうろうろすることにした。
しかし随分と広いな、ここ。歩いても歩いても端っこが見えないどころか、どっちへ向かっているのかさえも分からなくなるくらい、でかい。もう実際どれくらい進んだとか全くもって不明瞭になっちゃったんだけど、こういうのを迷子って言うんだろうな・・・・・・。
お花畑で迷子になる男子中学生とか、何かもうファンタジーすぎて笑えないわ。失笑って言うか苦笑だよ。引き笑みたいな。
ていうか元々僕がここに来たのって、本読んでて迷子になったからなんだよな。昨今じゃ迷子になる中学生どころか小学生すらそうそういないってのに、何がどうこじれてこんなファンシーな童話の世界で迷子になってるんだ? 僕は。何だか自分自身がどんどん空しくなっていくぞ。
どうのこうのと考えを巡らして卑屈な気持ちになっていると、沢山生えている花の茎に正面からぶつかってしまった。どうやら僕は、ぼんやりしているとすぐに何かにぶつかるらしい。そしてそれは、さっきの経験から言ってろくな出来事に発展しないことは決まりきっている。
僕はいきなりギロチンのような物が落ちてこないことを祈りつつ、そろそろと顔を上げた。すると何か巨大な薄茶色の玉のような物体が、一気に5~6個落ちてこようとしていた。
「う、うわあああああああああああ!!?」
訳が分からないのと気味が悪いのとで後ずさって尻餅をつくと、その玉は地面に砂埃を上げて落ち、ガサガサと動いた。
何だ? 何なんだ?
何となく予測していたとはいえ、さすがに予想外だったこの謎の落下物に僕はすっかり度肝を抜かれていた。
そんな僕にはお構いなしにさっさと体勢を立て直したらしいその物体は、砂埃で煙った空気の奥からまるでエイリアンのごとくのっそりと姿を現した。
小さい頭部と、それに反比例するかのように大きく膨らんだ腹部。細長く伸びた触角に反射板のようなぎらぎらとした複眼とすぐに破れてしまいそうな軟い皮膚。植物の汁を吸い、農家の方々からは害虫だとして忌み嫌われる、半翅目同翅亜目アブラムシ科の昆虫。
そいつはまさかの、巨大化したアブラムシだったのだ。