1:00の部屋
警備員が戻ってくるかもしれないと心配して早足で歩くうち、隣の部屋へ続くらしい扉を発見したので早速中へ入った。扉に“1:00”と書いてあるのがなんだか意味深だけど、今は気にしないでおく。気にするときりがないからね。
今までいた部屋とは違いじめじめとしていてかび臭く、とても居心地が悪い。普通の本なら、こういう部屋には怪物が閉じ込められていたりしそうなものだけれど、色々とお決まりをぶっ壊しているこの本の場合、あまり期待は出来ないように思える。いや、怪物なんて現れない方が僕的には良いわけだから、期待はむしろいない方に掛けるけど。
なんてことを考えながら歩いていると、突き当たりの壁にぶつかってしまった。暗いとはいえ壁にぶつかる人ってマンガとかにしか出てこないんだと思ってたけど、まさか自分がそうなるなんて・・・・・・誰も見ていないとはいえ、ちょっと恥ずかしい。
でも、突き当たりになってしまったということは、多分入ってきた場所以外に出入り口が無いということなのだろう。ここから出られないのは嫌だけど、戻ったらまたあの警備員たちに捕まってしまう。かといっていつまでもここにいるわけにもいかないし・・・・・・。
ふと、ぶうんという音が耳を掠め、僕のすぐ真横の床がバキバキと音を立てた。衝撃で吹っ飛ばされた僕は何が何だかわからず、目がチカチカして気分が悪かった。
暗がりの中で目を凝らしてみると、何かキラキラと光る棒のような円盤のような物を振り回す、細長い家の様な物体が見えた。その物体からは悪意というか、殺気のような物が感ぜられる。事故ではなく、本当に僕を殺そうとして振り落したのだ。
どうやら期待(?)通り本当にガチな化け物が閉じ込められていたようである。とんでもないところにのこのこと入って行ってしまった。
その化け物はセンサーでもついているのかゆっくりと僕の方を振り向くと、またしてもその怪力で今度は頭上に棒を叩き込もうとした。僕はそれをギリギリで避けてどうにか距離を取ったが、すぐに二発目三発目と間髪入れずに打ち込んでくる。
両方ともだらしのない横っ飛びで何とかして避けたが、割れた床の破片だか暴れて立った埃だかがもうもうと立ち込めて、ただでさえ暗くてよく見えない視界がほとんど見えないくらいまで悪くなってしまった。
更に目を細めて目を凝らしたが、上ばかり警戒していたせいで横からの攻撃に気付かず、怪物の怪力を腹に受けた僕は思い切り壁にぶつかって気を失いそうになった。怪物は僕が飛んでったことで位置が分からなくなったのか、きょろきょろと辺りを見回している。
ああ、危ない危ない・・・・・・死ぬかと思った。
ていうかすごく今さらだけど、僕武器持ってないじゃないか。随分のん気に構えてたけど丸腰でラスボスの館に乗り込むとか、ドンキホーテよりヤバいぞ。まったく何の自信があって丸腰なんだよ。アホか。
いやでも多分、今の僕が持ってないってことは勇者もきっと持っていなかったはずだ。じゃあ、あの勇者は一体何で闘っていたんだろう?
僕は疲労で動きが鈍くなった脳を頑張って動かして、どうにかして話の内容を思い出そうとした。けれど、この本は速読で読んでしまっていたのでほとんど内容が思い出せない。まったく・・・・・・こんなことならもうちょっと真剣に読んでおくべきだった。いまさら後悔しても遅すぎるけど。
確かあの勇者は・・・・・・自由の勇者ケツァールとかいう名前だったはずだ。ケツァールって何だろう? いや、そんなことより自由の勇者―――――――自由、自由・・・・・・。
ああ、そうだ思い出した。確か武器は〝自由な発想〟だ。
そう思った瞬間、怪物が僕の居場所を見つけたのかゆっくりとこっちを向いた。武器を試す丁度いいチャンスだ。こちらと伊達に十数年間本の虫をやっていない。文系男子の想像力をなめないでほしい・・・・・・いや、ごめんなさい。調子に乗りました。