時計の国
気が付くと、何故か椅子の前に立っていた。ゴテゴテと派手な装飾を施したやたらと豪華な椅子だが、その椅子も例によってフジツボのごとくびっしりと時計がへばりついていて、何かもう見る影もない。
ふと、パラパッパとか気の抜けた演奏と一緒に王様のおなーりーなどと聞こえてきたので、ここが王宮だということが分かった。それにしても王様の登場の仕方が古典的すぎるだろこれ。単に小さい子向けなのかもしれないが、一体いつの本なんだ?
やがてしずしずと登場した王様はやはり顔が文字盤で、そこは予想通りだったんだけど、何となくベタベタな登場の仕方からいってヒゲで小太りの“おっさん”って感じの王様を想像していた僕はその王様が子供なことにちょっと驚いた。しかも心なしか雰囲気が美少年な気がするのだが・・・・・・この本の対象年齢がどんどん分からなくなっていく。
王様は透き通った甲高い声で思い切り尊大に言った。
「今日お前を呼んだのは他でもなく、あの魔法使いのことについてだ。あいつが来てからというもの、我が国は自由も余裕もないつまらない国になってしまった。それはあいつが時間の縛りの魔法を掛けて自由を独り占めにしているからだ。どうかお前に奴を倒してはもらえないだろうか?」
「えっ・・・・・・倒すんですか?」
僕の間抜けな質問に、王様は当然だと言わんばかりにそうだと頷いた。
「でなければ国民たちの奪われた自由は戻らない。やってくれるな?」
確信を持って聞いてきたようだが、僕はそれを裏切るように顔を青くして思い切り首を横に振った。だって、喧嘩すらほとんどしたことが無いうえに、そのわずかな喧嘩でさえもいまだ一度も勝ったことが無いという、無敗記録ならぬ無勝記録を打ち立てている僕に勝ち目なんてあるわけがない。王様はそんな僕を見てポカンとしていたが、すぐに気を取り直してけしからんと一喝した。
うわ、子供に一喝された・・・・・・ショボいな僕。
「おい。お前は勇者ケツァールのはずだろう? そんなへっぴり腰でどうするんだ。威勢だけならうちの歩兵たちの方がまだあるぞ」
王様は元は美少年だった(のだろう)文字盤顔をぎゅっとしかめて、心の底から情けないみたいな口調で言った。彼の側近たちも僕のあまりに情けない姿に「大丈夫ですかね? あの勇者・・・・・・」などとヒソヒソ話しているのが聞こえる。
忘れていたけど、僕は勇者だってことになってたんだよな・・・・・・ってことはここで僕が闘いたくないとか言って逃げだしたら必然的に物語は進まないのだろう。もしそうなったらこの時計だらけのおぞましい国で暮らすことになるのだろうか? いや、それもそれですごく嫌だな・・・・・・喧嘩も嫌だけど、こんな時計だらけで酔いそうな景色を見て永遠に過ごすなんて絶対に嫌だし、ここは一応空気を読んでその魔法使いとやらを倒しに行った方がいいんだろうな。
僕はそう決心を固めて、ひざまずいて言った。
「王様、私は間違っておりました。情けない姿をお見せしたことをお許しください。勇者ケツァールの名に懸けて、必ずや魔法使いクロック・オ・クロックを討伐いたします」
僕の時代劇みたいな臭すぎる台詞に王様はおぉとか言って喜んでくれた。意外と単純だな・・・・・・子供だからか?
「よく言った勇者ケツァール。やはり伝説の勇者だな。奴の館は北のはずれにある聖火の崖の上に建っている。多分奴はそこにいるだろう。健闘を祈っているぞ」
こうして僕の最強への旅は始まったのである・・・・・・などとやはりベタな台詞を心の中で呟きながら、早速聖火の崖へと向かうことにした。