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王国フリーダムへようこそ


 人が歩く音がする。やたらと早足だ。地面はジメジメして、土の匂いがする。アリがごそごそと顔に登って来て痒かったので、起き上がってはたき落した。


 身体中が痛い。確か塔みたい図書館で地震みたいなのに遭って本の下敷きになって・・・・・・それから先は思い出せないけど、身体は無事なようだしどうやら助かったようである。どうやって外まで逃げだしたのか覚えてないけど、あんな大量の本に落ちてこられて助かったなんてほとんど奇跡だ。一時は走馬燈まで駆け巡って死ぬんじゃないかとか妙に穏やかに思ったりしてたけど、早とちりで本当に良かった。

 そう思って安心し現在地を確認しようと辺りを見回すと、前言を撤回したくなるほど異様な、思わず目を疑いたくなるような光景がそこにはあった。


 ・・・・・・時計だらけだったのだ。


 空には様々な形をした掛け時計がまるで岩にへばり付いたフジツボのごとくびっしりと覆いかぶさって青空を隠し、地面からは大木のような振り子時計がボコボコ生えまくって森を作っている。噴水からはカラフルな腕時計が噴き出してはどこかへ消えていき、通りを歩く人の顔さえ時計が張り付いたようである。なんだか酔いそうな光景だ。

 なんでこんなに時計だらけなんだとか色々言いたいことはあるが、まず気になるのはここがどこかということだ。少なくとも確実に日本ではないし、地球上なのかどうかさえ怪しい。いや、そもそも全部幻覚だとか言われても全然不思議じゃないくらいだけど・・・・・・。


 言葉が通じるか分からないが、とりあえず近くを歩いていたまずまず人のよさそうな顔(文字盤)の人を捕まえてここはどこなのかと尋ねてみたが、その人は一向に歩く速度を緩める気配はなく、早足で角を折れて見えなくなった。急いでいたのだろうと思い込むことにして次の人次の人と通りを歩く人全員に滅茶苦茶に声を掛けてみたが、誰一人として止まってくれるどころか反応さえも見せてくれず、挙句の果てには不審者だと通報されて警棒を持った警官に追い回される羽目になった。やっとの思いで警官を振り切り裏路地に身を潜めていると、馬鹿にするみたいないやらしい笑い声が聞こえてきた。ウザいので無視をしていると、その声の主が話しかけてきた。


「何やってんだよ。あいつらは自分の時間が何よりも大事なんだから、他人の話なんて聞く分けねえだろ」


 話の内容が気になって振り返ると、そこには普通の人間の顔をした小汚いおじさんが座っていた。何故かひどく懐かしい感じがする。


「かっ・・・・・顔が・・・・・・!」


「ん? 顔が時計じゃねえのがそんなに珍しいか? あれはなあ、時間に縛られた人間じゃないとならないんだよ」


「時間に縛られた人間?」


「おう、そうだ。学生とか会社勤めしてる奴とか・・・・・・まあ、いわゆるまともな人間だな。だから俺みたいな乞食なんかは顔が時計にならねえんだ。昔はみんな普通の顔だったんだが、魔法使いのクロック・オ・クロックなんて奴が来てからは時計の魔法をかけられちまってな。今じゃそこらじゅう時計だらけで、気色悪いったらありゃしない」


 クロック・オ・クロックという名前に、何故だか聞き覚えがあった。僕ははっとして、おじさんを問い詰めた。


「あの、ここなんていう国ですか?」


 僕の質問に、おじさんはきょとんとして答えた。


「自由と余裕の国、王国フリーダムだ。今じゃ見る影もねえがな」


 彼の言葉を聞いて、僕は確信を持った。さっき本が落ちてくる前、あの塔みたいな図書館で読んだ本の中にそういう名前の国が出てくる話があったはずだ。確か〝時計の国〟とかだったような・・・・・・てか、そんなことより、ということはあれか? 本当に本の中の世界に来ちゃったってことか?確かにずっと本の世界に浸っていられたらいいのにとか言ったような気がするけど、それは読む方の立ち位置からであって登場人物になって活躍したいとか、そういう意味で言ったんじゃないぞ? 


 僕が焦りと驚きで固まっていると、おじさんがそういえばと言ってポケットから手紙を出した。


「王様からお前に渡せって預かってきたんだ。ほら、読めよ」


 せかされてガサガサと手紙を開くと、そこには〝親愛なる勇者殿 王国フリーダムへようこそ〟とだけシンプルに書かれていた。内容がさっぱりしすぎている・・・・・・と不思議に思っていると、急にぶわっと強烈に風が吹いて目の前の景色がかすんで見えなくなった。

 

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