塔の図書館
学校が終わった午後四時頃、僕は家に帰るべくのろのろと通学路を歩いていた。授業中も本を読むくらいだから、当然登下校中も本を読みながら歩く。小さい頃はこのせいでよく車に轢かれそうになったり迷子になったりしていたけど、さすがにこの年になるとそういうこともほとんど無くなる。しかしごくまれに本に集中しすぎた時などに迷子になることがあり、それはまさに今の僕の状況である。
中学生にもなって下校中にしかもこんなご近所で迷子になったなんて知られたらそれこそとんだ笑いものだ。それに迷子になったことに気付いてからうろうろと歩き続けてもう三十分以上経つのに未だに知っているところに出ないとか、どんだけ深刻な迷い方してるんだよ僕は。
不安とイライラで軽く涙目になりながらほとんどヤケクソで歩き続けていると、こんな田舎では珍しい程背の高い塔のような建物を見つけた。
二十階はありそうなその建物は威風堂々とそびえ立ち、吸い込まれるようにして中に入っていくと吹き抜けの天井に向かって竹のように伸びる本棚がずらりと並んでいた。どうやら図書館のようである。この界隈にこんな大きな図書館があったなんて、まるで夢のようだ。
僕は本棚を舐めるように見て、取り出した本をやはり舐めるように読んだ。どれも読んだこともなければ聞いたこともないような本ばかりで、金銭的な理由でここのところ同じ本ばかり読んでいた僕には新鮮だった。
夢中で読み耽り、次の本次の本と時間を忘れて本の世界にどっぷり浸かるうちに、いつの間にか午後の十時を回っていた。時間を忘れすぎたようだ。
うちの門限は午後六時だから、今の時間なら確実に怒られるだろう。そもそも迷子なのだから、家にちゃんと帰れるかどうかも怪しい。僕はがっくりとうなだれて、頭を抱えた。なんかもう、どうしたらいいのか分からない。どうやっても嫌な事にしかならないような気がして、鬱になる。
ああ、馬鹿だな僕。迷子のくせに悠長に本なんて読んでるんじゃないよ、まったく。もういっそ本の世界にどっぷり浸かって帰って来られなくなればいいのに・・・・・・なんてことをぶつぶつ思いながら、なんとか気持ちを立て直した。
怒られるのは仕方がないとして、とりあえず道に迷っているのは司書さんに聞けばなんとかなるだろう。
僕は立ち上がって司書さんに道を聞くべくカウンターまで歩いて行こうとした。すると急にガァンと図書館に衝撃が走り、建物がビリビリと揺れた。窓ガラスが割れ、悲鳴が聞こえる。そしてその衝撃で二十階以上の高さから何億何万という数の本がまるで雨のように僕めがけて降り注いだ。