月に惹かれる烏
『太陽に憧れる兎』の会長視点です
前作を読んでから読むことをオススメします
きらやかに蘇る過去の記憶
あれは俺・・八ノ宮 鏡哉がまだ小さい頃
詳しい日は覚えてないがあれは綺麗な満月が登っていた日だ
庭に出てみれば妖精のような少女が可愛らしく月に向かって手を伸ばして跳ねている
月に反射して輝く白銀の髪、頭の上で可愛らしく揺れる兎の耳・・後ろ姿だけで目を奪われる
だけど・・俺は不安に襲われた・・こいつは・・このままどっかに行ってしまうんじゃないかと・・
『お前・・なにしてんだ』
ふと無意識のうちに呟いた言葉を聞いてそいつは俺の方を見た
そして、また俺はみとれてしまった
雪のように白い肌、深紅ではないが暖かさを感じるような赤い目、可愛らしいという要素を詰め込んだような優しげな顔立ち
・・なんか、ハクが俺の婚約者っていうことが夢に思えてきた
・・こんな可愛いやつのが家がしっかりしてるからって俺みたいなヘタレに・・
ハクは俺を見て可愛らしく首を傾げる・・仕草がいちいち小動物チックなんだよな・・ハクの奴
『見てわかりませんか?跳ねてるんです、月に向かって』
『いや、それはわかるけどよ・・なんで跳ねてるんだ?』
そのまま、こいつは月に行っちゃうんじゃないか、そんな不安があって聞かずにはいられなかった
そして、ハクはそんな俺の不安も知らずに・・
『さぁ?』
無邪気な表情で自分でもわからないというように言っていた
『さぁ?って・・もしかしてお前の血のせいか』
ハクは『月の兎』の血をひいている、だから、祖先のもとに行きたくて跳ねてるんじゃないかと・・あと、童謡にもあるように兎は月が好きみたいだしな
まぁ・・こいつも跳ねるのが無意識の産物みたいだからよかった
だけど・・こいつが月に向かって跳ねる度に不安になるのは嫌だな・・だから、ハクには悪いが跳ねるの禁止にするか
『まぁ・・別にいいけど・・次からは跳び跳ねるの禁止な』
『えっ!?なんでですか!?』
多分本能に近いものなんだろう・・極端な話し、寝るのを我慢しろってのと同じだろうしな
ハクはかなりショックを受けている・・そんなハクを見るのは俺も辛い
だけど・・禁止にした理由を言うのは恥ずかしかった
だからなのか・・俺は酷いことをハクに言った
『だってよぉ・・跳んでる、お前、間抜けに見えるぞ』
・・『魅了』がかかってれば絶対にこんなことは言わなかった、でも、その時はハクが俺ら家族から『魅了』を解いてすぐだった
それを聞いたハクは目に涙をためるがそれが流れるのをこらえるように顔をしかめて・・俺に言った
『キョーヤの・・バカー!!大っ嫌い!!』
ハクは涙を流しながら自分の部屋に戻っていったが慰める余裕なんてなかった
俺もハクに言われた大嫌いの一言にノックアウトしてそのまま二・三日寝込んでしまった
しかも、真っ先に立ち直ったハクに看病されるっていう黒歴史だ
・・最後の所は本当に忘れたい・・
記憶の再生が薄れていき・・清らかな鈴のような声が俺の意識を覚醒させていく
「鏡哉様、朝です。起きてください」
ハクが優しく俺を揺すりながら声をかけてくれる・・幸せだな、こんな朝を毎朝むかえられる、なんて
「んっ・・」
「あっ・・」
俺は俺の体に触れている柔らかくて暖かいものを掴んで自分のベッドの中に引きずり込んでしまう
意識が完全に覚醒した時に俺の視界をうめたのは白銀に輝く女神だった・・いや、女神じゃなくて俺の婚約者である玉李 白兎・・俺がハクと呼んでいる子だった
夢でみた妖精の面影を残しながらさらに綺麗になっている、さらにキラキラと日光を反射している銀髪、人形のようだが確かな感情を感じる顔立ち、細身で低身長だがそこいらのモデルなんか目じゃないくらいのスタイル・・って冷静に容姿を分析してる場合じゃねぇ・・これ、傍目からみたら俺がエプロンと制服さらにウサミミをつけた女子を襲ってるようにしか見えないよな・・これ・・
「おはよう、ハク」
なんで、冷静に挨拶してんだよ、俺!!
まずはハクに謝れよ!!
押し倒したハクは涼やかな微笑みを浮かべる
「おはようございます、鏡哉様、それから・・私はアイリさんではないですよ」
ハクがその名前を言った瞬間に嫌なものを聞いたと表情を反射的に強張らせてしまう
「おい、ハク?・・なんでここで篠宮の名前が出てくるんだ?」
「知らないのですか?今学園では有名ですよ『イケメンばかりの生徒会は全員、編入生の美少女にくびったけ』って噂が・・」
・・そんな噂が出回ってるのか・・くそ
あの腹黒吸血鬼、かっこつけ人狼、ワガママ双子妖狐、オロオロメデューサ、ロリコン天狗の馬鹿ばかりが・・勉強できても全員、脳が足りてないと思う、一人の女子生徒をめぐって喧嘩を始めたりするし
それにそいつらのせいで仕事が増えたり、風紀委員の方から注意が入ったりするんだよな
はぁ・・あいつらには呆れてため息しかでないな・・それに、そんな奴らと同列に扱われたくない
「あのな〜俺をあんな奴らと同列に扱うな・・興がさめたな、飯食って学園に行くぞ」
「わかりました」
俺が上から退ければハクは頷き制服の裾を直しながら立ち上がる・・ごめんな、ハク
それにしても・・篠宮 アイリ(しのみや アイリ)
・・何者なんだ?あいつ・・
理事長から聞いた話じゃ・・前の理事長の遠縁にあたるって聞いたけど・・本当なのか?
今日にでもまた理事長に聞いてみるか・・
登校してると・・ハクにどうしても言いたいことがある
「あのな・・ハク・・その格好やめろ」
今のハクの格好を一言にまとめると地味な文学少女って感じだな
黒髪のストレートに厚底の眼鏡・・それはいいんだけど、なぜ、サラシで胸を潰す・・痛くないのか?
「何か変ですか?」
「いや、地味すぎるだろ」
「・・地味の何が悪いんですか?」
・・ハクって決して目立とうとしねぇよなぁ・・まぁ・・素顔を見せればいいよってくる奴もいるかもしれないし・・
「・・まぁ、他の男がよりつかねぇし・・いいか」(ボソッ
「?・・なんか言いましたか?」
「いっいや!!なんも言ってねぇよ!!」
「・・そうですか?」
あっあぶねぇ・・ウサミミが出てるときにかなり聴覚が鋭くなるのは知ってたが・・人間状態の時でも、結構耳がいいんだな
追求される前に学園に行くか
「まぁ、いい、さっさと学園に「きょうや〜」・・朝からついてねぇ」
媚をうるような甲高い声が聞こえた瞬間、俺の機嫌が一気に悪くなる
はぁ・・朝から会いたくないんだが・・
しかも・・ハクの奴なんか電柱の陰に隠れたうえに『隠密』の妖術まで使って気配まで消しやがった・・いや、いい判断なんだろうけどな・・俺だってあいつを相手したくないんだぞ
こちらにむけて走ってくるのは見た人の10人中8人くらいが美少女と断言するような少女
女子の平均よりも高めでモデルくらいのスタイルでライトブラウンでウェーブのかかった髪を腰の辺りまで伸ばしている、顔は可愛いよりで緑色の大きめの眼が特長
・・俺のこの頃の頭痛の種の一人・・篠宮 アイリだ
せっかくハクとの登校だったのに本当についてない
それに俺はこういう馴れ馴れしい女は嫌いだ、名前で呼ぶなっていつも言ってるのに名前で呼んでくるしな
「鏡哉!!奇遇だね!!」
・・本当に馴れ馴れしいな・・こいつ
「なんのようだ?篠宮・・あと、俺を下の名前で呼ぶな」
「またまた照れちゃって〜」
こいつウザイ!!何が照れちゃって〜だ!!照れてんじゃねぇよ!!ただ純粋にお前に呼ばれるのが嫌なんだよ!!
あぁぁぁ・・本気で殴りたい・・こいつは女子だけど容赦なく殴りたい
こいつ、自分は皆に愛されてるなんて痛々しい妄想癖でもあるんじゃないか?そうじゃなきゃ俺の言葉をこんな風に解釈しないだろ
・・はぁ・・面倒くさい・・こいつの相手は適当でいいか
「鏡哉も私に朝から会えてうれしいでしょ?」
「ソウダナー」
「よかった!!鏡哉は今日も生徒会?」
「ソウダナー」
俺の予定なんてお前に関係ないだろ!!・・って言いたいけど・・一応生徒会補佐という役職についてるから無視できないし・・あのロリコン天狗・・いらぬところで顧問の権限使いやがって
あと・・胸焼けがするような甘い香りが漂ってくる
この匂いには覚えがある『魅了』の妖術・・昔、ハクが俺ら家族にかけていた妖術だが・・全く効かないな
俺の家が継いでいる血・・『ヤタガラス』は正確には妖怪ではなく神の一種、太陽の化身とされる三本足の烏だ・・どのような力を持っているのか詳しく載っている文献は少ないが、神鳥であり神格をもっているのだ
同じく伝承や神格がある『月の兎』からの『魅了』ならともかく、文字通り格が違う相手からの『魅了』なんて効果がない
・・俺はこの術が嫌いだ、他人を無理矢理、自分の虜にしてしまう、そんな効果も嫌いだが・・個人的に嫌いだ
思い出されるのは今日の夢の中のハクよりも幼い頃のハクが悲しい?いや悪いことをしてしまった子が怒られるのを覚悟で親に罪を告白するような表情・・簡単に言えばとても不安そうな表情で俺を見ていた・・そして俯きながら俺に呟くような声で言ってきた
『私・・キョーヤにひどいことしてたの』
その後、ハクは正直に自分が俺たちに『魅了』の妖術を使っていたこと、騙しているようで申し訳なかったこと、今すぐ解くから嫌わないでと涙を流しながら言ってきた
『もちろん、俺がハクのこと嫌うわけないだろ』
『キョーヤ・・ありがとう』
ハクが泣きながら笑顔を浮かべた瞬間、頭の中に引っ掛かっていた何かがとれたような感覚が起こり
・・・・ハクはさっき以上に可愛く見えた
泣きながらも嬉しそうに笑うハクはとても可愛くて見ているだけで頬が赤くなり鼓動が際限なく早くなっていく・・やばい、なんだこれ
『術は解いたよ、キョーヤ!!・・あれ?キョーヤ、大丈夫?』
心配そうにハクが俺に近づいてくる・・ハクが近づく度に心臓の鼓動が早くなる
『えっと・・ごめんね』
『っ!!』
ハクが優しく俺の額をさわった瞬間から意識が一気に遠退いていく
『すごい熱・・って大丈夫!?キョーヤ?キョーヤ!?』
ハクの焦るような声を聞きながら意識が黒く染まり体から力が抜けていった
後から母さんから聞いた話しによると『魅了』の妖術は相手の好感度や愛情に上限を定めてしまうという副作用があるらしい・・つまり、俺はその上限を軽く越えるくらいハクに惚れていて一気に解放されたからそのショックに体がついていかなかったから気絶したらしい・・俺かっこわりぃ・・
そして・・俺は間違えてしまった・・ハクと一緒にいるのが嬉しいけど恥ずかしくて・・距離をとってしまった・・あそこで・・ハクの側にいたら・・
「あっ・・鏡哉、また後でね」
「おっおう、じゃあな!!」
いつの間にか考えごとに集中していたみたいで、学園についた
俺は早く篠宮から離れたくて・・いや、陰から俺を見てるハクからも離れたかった・・好きという気持ちを理解してしまえば近くにいるのも恥ずかしくなる・・こんなヘタレな俺が自分でもいやになる
自分の教室に入ればまだ朝が早いからか生徒は少ないが・・少ない生徒の中に会いたくない奴が
クォーターのため色素が薄めの金髪を肩口で切り揃えていて、俺と同じくらいの身長だが細身で俺とは反対の白い肌、血のように見える深紅の目・・生徒会副会長、樹条 宏雅・・吸血鬼の半妖・・なに考えてるのか、わからないくえない奴
宏雅が俺に気づいて読んでいた本から視線こちらに向けて柔らかな笑顔をこちらに向ける
「おや、鏡哉、おはようございます」
「おはよ、なぁ・・お前って趣味悪いよな」
「なんですか?いきなり、根も葉もないことを」
「なら、節穴だ、篠宮に好意的な時点でな」
睨み付けながら宏雅に言えば笑顔を歪めて黒そうな笑顔を浮かべる
・・『吸血鬼』は『魅了』を与える妖怪・・『魅了』に対する抵抗力もあるはずなのに・・『魅了』にあてられたかのように篠宮といる
・・何考えてんだ?こいつ・・
「鏡哉は彼女が・・アイリが嫌いですか?」
「正直に言えば・・大っ嫌いだ」
本当に言えばハク以外の女、全員嫌いだ
「僕は好きですがね・・僕を掌の上で踊らせているつもりで僕の掌の上で踊るような彼女がね、意外と愛らしいものです」
「・・勘違い女が好きなのか?」
「そうかもしれませんね」
こいつのファンには見せられないような黒い笑顔のまま、楽しそうに言う
「それにね、実は僕には前からずっと欲しかった兎がいるんですよ」
「は?いきなりどうしたよ」
なんでいきなり篠宮の話から兎の話になるんだよ
「その兎はもう他の人に飼われててしかも飼い主がかなりかわいがってるんですよね」
「・・なら諦めろよ」
「でも、諦められないんですよね〜・・もし飼い主が他の物を可愛がれば・・その兎を捕まえられるんじゃないかって考えてるんですよ」
っ!?・・急に宏雅の笑顔が底冷えするような笑顔に変わった・・なんなんだ、こいつは・・
「それじゃあ・・僕はアイリに挨拶してきますね」
「あっ・・あぁ・・わかった」
・・席を立ち上がり宏雅は教室を出る・・いきなり兎って何が言いたかったんだ・・あいつ
よくわからないが、言い様のない不安が沸き起こる・・なんなんだ・・いったい
生徒会の仕事は忙しい、特に今期は恋愛を理由に仕事をさぼる奴がいるのに・・
「なんの用だよ、理事長」「ツンツンしてるね〜怒りっぽいのはいけないよ」
・・くそ忙しい時に呼ぶなよな・・理事長、柏木 零・・黒にも茶色にも下手すれば灰にも見える髪、造形がいいのはわかるが見るところによって印象が変わる顔・・『鵺』の半妖・・
「じゃあ、篠宮くんについてだが・・こんなことは普通あり得ないことなんだけどね」
「あり得ない?」
「あぁ・・彼女はこの学園にくる前の履歴がないんだよ」
はっ?履歴がない?
「両親はすでに死んだとされてるが・・いたかどうかも怪しいし・・前の学校で篠宮くんを知っている人はいたが・・顔を覚えてる子はいなかった」
「・・あの顔を覚えてない?」
あいつの顔は名前よりも印象に残りやすいはずだぞ
「後は・・精神的におかしいわね、彼女」
涼しげな女子の声が響いて理事長室の食器棚の陰から一人の女子が現れる
ライトブラウンのふんわりとした髪、おっとりとした緑色の目、モデル並の体を持つ・・ハクの親友
松下 絵里花・・生徒会に所属しない、理事長の懐刀
「彼女、現実を現実と受け止めてないわね・・簡単に言えば、ゲーム感覚で生きてるということね」
「ゲーム感覚?」
「・・鏡哉くんはゲームとかしないのかい?」
しないな・・ゲームするくらいならハクと話してた方が何倍も楽しいし
「理事長、彼はうさちゃんとイチャイチャする方が何万倍も楽しいからそんなものはしないそうです」
「なるほど〜青春だね〜」
「いや!!そんなこと思ってねぇから!!」
この女・・心を読む妖怪みたいだな・・やっかいな奴だ・・ハクの親友だからハクに近づかないようにいったら、俺がハクに嫌われるしな
「では、理事長、私はこれで」
「あぁ、ありがとうね、絵里花くん」
「いえいえ、それでは」
礼儀正しく一礼した松下は『うさちゃん分を補充〜』と上機嫌に小声で歌いながら理事長から松下が出ていった・・うさちゃん分ってなんだ?
「鏡哉くん、最後に一ついいかな?」
「なんですか?」
理事長がいつも浮かべてる飄々とした掴み所の笑みを消して真剣な表情で俺を見てくる
「白兎ちゃんと君の関係は篠宮くんに知られたらいけないよ・・彼女は多分、白兎ちゃんに危害をくわえるだろうからね」
「・・ありえるな」
・・俺が傷つくのはいいが白兎が傷つくのは嫌だからな・・全力で隠すか
「それだけだよ・・それから・・彰さんはどんな様子かな?」
「・・姉貴?普通に元気だけど・・」
「そっそうなんだ、ならよかったよ!!」
普通ではあり得ないくらい動揺して顔を赤くしてる理事長・・そういえば
俺の姉貴・・八ノ宮 彰のこと好きなんだっけ・・さっさと告白すればいいのに・・
「それじゃ、俺は生徒会室に戻りますね」
「あぁ、仕事がんばってね」
一礼して理事長室を出る
そうだ、今日は他の生徒会の連中もいないし・・ハクをよんで手伝ってもらうか
内容は・・簡潔に『生徒会室に来るように』でいいか
・・ハクと生徒会室で二人っきりか・・やることは仕事オンリーだけどな、俺は公私はしっかりわける、あのバカ達みたいなことはしないんだよ
「・・・・なんでお前がいるんだよ」
「鏡哉に会いたかったから・・キャッ!!」
・・恥ずかしがるように言ってもあざとすぎて全然可愛くない・・逆にウザいな
「邪魔するなよ、篠宮」
お前のせいで仕事が増えてんだから・・とは言わないでおく
「私はそんなことしないわよ・・・・ねぇ、鏡哉は私と二人きりで嬉しいよね?」
・・無視して書類整理を続ける、無視だ無視無視
「もぅ・・無視しないでよぉ」
・・あぁ、サッカー部と美術部から部費追加の申請か・・まぁ、予算に余裕あるし申請された金額も少なめだし承認しとくか
「こらぁ、私を無視するなぁ」
・・裏庭の花壇の近くに蜂の巣か・・スズメバチのようだし・・業者に駆除を頼むか
「もしも〜し・・かいちょ〜?」
・・篠宮・・本当にウザいな!!人の頬をつついてくんじゃねぇ!!
はぁ・・コーヒーでも飲んで落ち着くか
「ちょっと、きょーやっ!?」
コーヒーをいれるために立ちあがり歩き出した俺についてこようとした篠宮は足を滑らせて転びそうになる
「あぶねぇ!!」
そんな篠宮を見ればとっさにハクにするように軽く抱き締めて篠宮が転ばないようにしてしまう
その瞬間、涼やかな声とともに生徒会室の扉が開かれる
「鏡哉様、すみまん遅く・・・・」
・・なんてタイミングで来るんだよ・・ハク!!
ハクは絶対に俺と篠宮のことを誤解している
その証拠に、ハクの目には困惑、嫉妬、嫌悪、様々な負の感情が渦巻いたうえに目には涙をためている
そして、ハクは俺の弁解なんか聞かずに直ぐ様踵を返して生徒会室から走って出ていってしまった
そんなハクを見て俺が真っ先に感じた感情は・・・・
嬉しさだった
嫉妬するくらいハクが俺を好いてくれるのが純粋に嬉しかった、ハクは俺のことを褒めてはくれるが好きとは滅多に言ってくれないから
・・不安だった、俺はハクに想われてないんじゃないか・・いつか別の奴の所に行ってしまうんじゃないかと・・だから、嬉しかった
だけど・・あれはまずい・・ハクが本当にどっかに行ってしまう気がする・・早く追わないと・・
「鏡哉・・本当にありがとう、やっぱり鏡哉は・・」
「・・悪い、用事が出来た」
「えっ?鏡哉!?」
軽く抱き締めていた篠宮をはなす、篠宮がなんかいってる気がするが気にしない・・今はハクの方が大事だ!!
「ちょっと!!鏡哉!!・・全く照れ屋なんだから・・」
未だに何か言っている篠宮を無視して生徒会室からハクを追いかけるために走り出す
辺りは夕日の光りも少なくなり暗い紺色に染まりつつあり、綺麗な満月が東の空から顔を出し始めていた
「ハク!!何処にいるんだ!!」
家に帰ってハクの靴が全てあるのを見て、ハクは十中八九、家の中にいるとわかった時は安堵したが・・何度呼んでもハクが返事を返さない・・今までなかったことだ・・・・俺の声が聞こえないくらいショックだったのか?
「・・ならハクの部屋に・・でも、ハクのことだ、鍵がかかってるかも・・」
ハクはしっかり者だから部屋に入れば鍵をかけるのを忘れない・・ダメもとで行ってみるか
そうと決まれば直ぐ様ハクの部屋へと向かう
ハクの部屋の前にきて、ドアノブに手をかける
すんなりとドアノブが回る・・って
「鍵が・・開いてる?」
ハクを驚かせないようにゆっくりとドアを開けると・・そこには・・
窓を開いてそこから上半身をのり出して
・・飛び降りようとしているハクがいた・・
「なにしてんだ!!ハク!!」
「あっ・・」
そんなハクを見てしまえば躊躇なんて何もなかった
一気にハクとの距離を詰めればハクのお腹の辺りに腕をしっかりと回せばハクを自分の方に抱き寄せながらも後ろに軽く跳んで窓からハクを離してハクをしっかりと抱き締める・・もう何処にもはなさないために・・
「鏡哉・・様?」
軽く体をひねりこちらを見てくるハクの目には困惑の色がみえる
・・勝手だよな・・自分の勝手な理由でハクを遠ざけたり・・逆に近づけたり・・俺は最低だ・・だけど
「ハク、あれは篠宮が転びそうだったから受け止めただけで他意はないんだ・・信じてくれ」
「えっ?」「俺にとってはハクが一番大切なんだよ・・だからどこにも行かないでくれ!!ずっと俺の側にいてくれ!!」
「えっ?えっ!?」
いきなりで混乱するかもしれないけど・・これが俺の本心なんだ・・ハク・・わかってくれ・・言葉にはしなかったけど・・俺はずっとお前を想ってんだよ
「だから・・自殺なんてやめてくれ!!お願いだ!!」
俺にはもうハクがいない生活や世界なんて考えられないんだよ!!俺を一人にしないでくれ!!
「えっ?自殺・・ですか?」
「そうだ・・頼む」
このままはなせばハクはまた飛び降りるんじゃないかと思い抱き締めていたが・・ハクは全く抵抗せずに、逆に何を言っているのかわからないと言いたげに首を傾げる、そしてポツリと呟いた
「いえ・・私、自殺する気なんて全くありませんよ」
はっ?自殺・・する気が・・ない?
「は?」
「えっ?」
あっ首傾げてるハク可愛い・・じゃなくて!!
はっ!?自殺する気はない!?じゃあなんで!!
「だっだって!!お前!!窓から飛び降りようと・・」
「あれは・・そのなんというか・・『月の兎』の習性というか本能が我慢できなくて・・」
・・つまりは・・精神的に不安定だったからいつもは我慢してたのを我慢できなくなったってことか・・それでも落ちそうだったけどな・・全く・・本当に人騒がせな習性だな・・どこかに行っちまうんじゃないかって不安になるしな・・はぁ・・焦っていた俺がアホらしいじゃねぇか・・
少し呆れていた俺にハクは少し拗ねたような表情を俺に向けてきた
「鏡哉様を・・キョーヤをアイリさんにとられたって思ってたんですから・・」
「ハク・・お前・・」
ハクの口からこぼれた名前はずっと昔にハクが使ってた俺の呼び名だった
確か『魅了』が解けてからハクはどんどん変わってしまった
『おはようございます、鏡哉様』
――なんでキョーヤって呼んでくれないんだ?
ハクは輝く綺麗な白髪を黒く変えて、顔を隠すような眼鏡をかけて登校するようになった
――普通のハクが好きなのに・・なんで変えてしまったんだ?
学校や登下校の時は話したりすることがなくなり、人がいれば近づかなくなった
――ハクは俺を嫌いになったのか?なんで俺から距離をとるんだ?
その時、俺はハクが近くにいれば平常心を保てなくなっていたから・・ハクの変化の意味を考えなかった・・ハクから距離をとるからずっと平常心でいれた
そんな感じで過ごしていたから・・俺とハクの間には大きな隔たりが出来ていた
物理的には近いのに、精神的には互いに距離をとっているから・・とてつもなく遠い・・そんな距離が・・
「キョーヤ・・・・私はキョーヤが大好き・・だから・・ずっと側にいさせて」
ハクが一気に詰めてくれた・・
いさせて欲しいといいながらハクの瞳には不安の色が覗く
ハクにこんな目をさせるなんて・・全く、本当にへたれな自分が嫌になってくるな
なら・・恥ずかしいけど自分もハクの不安を払うため頑張るか
「あぁ、ずっといていい・・だから・・」
「きゃっ」
立ち上がり・・まだ恥ずかしいがハクをお姫様抱っこする・・うん、なんか感動するな・・ずっとハクをこうしたいって思ってたからな・・それにしても・・小さいし、柔らかいし、軽いし・・本当に同じ生き物なのかと疑いたくなるな
さてと・・これから言うのは冗談だが・・
「これからは風呂や寝るのも一緒にするか」
まぁ・・これなら、ハクも正気に戻るだろうしな
・・そう思ったんだが・・
「はい!!」
ハクは自分から俺にさらに強く抱きついてきたてそのまま俺の頬に唇を・・って!!えぇ!!
はっハクが・・おっ俺に自分から抱きついて・・?しっしかも頬にキスを!?
「はっハク!?おっお前!!なにして!?」
「ねぇ・・キョーヤ」
ハクは予想外の出来事にうろたえている俺に微笑みを浮かべながら甘えるような声色で・・でも不安そうにきいてきた
「キョーヤは私のこと・・好き?」
・・これはヘタレな俺には厳しい質問だな・・いつもなら無視するか・・流すんだが・・隔たりがなくなったのにそんなことをしたらまた隔たりができちまうな・・仕方ない・・
あぁ・・今、俺の顔、真っ赤になってんだろうな
「大好きだよ・・ハク」
流石に唇には無理だから・・額で我慢してくれ
額にキスすればハクは嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる
嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる月を見て烏(俺)は幸せな感覚につつまれてさらに抱き締める手に力を込める
今回は会長視点になります
副会長や理事長等新たな人物も明らかになりました
ハクとキョーヤの関係によくも悪くも波紋を生じさせる人物です
『太陽に憧れる兎』ともども
感想をお待ちしています