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「大鳥さん、行きますよー」
それから『わたし』の上に乗り、体重を胸にかける。
「……」
『わたし』を取り囲んでいた三人の救急隊員が、全員眉間にしわを寄せた。
「特に外傷等はないのですが、意識レベルだけが極端に低い状態です。本来気絶している状態でも、健康であればあるはずの反応がありません」
「脳に障害等は?」
「外見からは無いと思われる状態なのですが……これから検査する事ではっきりと分かると思います。とにかく不思議な状態でして……」
「そうですか。それで、その原因が見つかったとして、それが外因的なものか内因的なものかは分かりますか?」
「おそらくは……」
「それでは自分で首を絞めたか、他人に首を絞められたかは分かりますか?」
「……そもそも原因が首を絞めた事かどうかも分からない状態ですので」
「そうですか? それ以外考えられないかと思うんですが」
「はい……でも、私どもにとっても異常な状態の患者なので本当に何とも……」
医師は泣きそうな顔をして首を振った。
病院に着くなり、『わたし』は担架に乗せられて大仰にどこかに運ばれていった。まるでドラマみたいだ。あまりのスピードにわたし自身がついていけず、病院内で迷子になってしまった。
そこへ先程わたしの家に入り込んだ刑事二人組がやってきたので後を付けてきた次第である。刑事は医師と話し合いを始めた。男の方が主に話をし、女は必死でメモを取っている。
「何か分かったらすぐに連絡ください。事件の可能性があります」
刑事はそういうと、医師はぺこぺこと頭を下げてその場から去っていった。
「さて……ガイシャ、かどうか分からないんだよな。とにかくあの人の身元は?」
「はい。大鳥カズミ、二十四歳女性。勤務先は天神の祝屋に入っているブックス・セサミと言う本屋です。今年の四月から入社した模様。それまでは東京に住んでたみたいです」
「東京に……? 実家がこっちなのか?」
「いえ、もともと関東で母親の生まれがこちらみたいです。両親とともに今年に入ってからこっちに引っ越してますね」
「両親も一緒に? じゃあなんで一人暮らしなんかを?」
「さぁ……何か問題でもあったんじゃないですか?」
「……そうか」
男は顎に手を当てて悩んだ。
「どうしたんですか?」
「いや、やっぱりアレは自殺なんじゃないかと思ってさ……」
「なんでです?」
「いや、まあ、勘みたいなもんだよ。そう言う事起こす人って、家の問題がある人が多いからさ」
「そうなんですか?」
「まあ、先入観はよくないからな。この話は忘れてくれ。ところで両親に連絡は?」
「まだです、時間が時間ですし」
「とりあえず掛けた方がいいかもな。危険な状態かもしれないし。後から文句言われても敵わん」
「わかりました。今から連絡します。どのくらいまで伝えたらいいでしょうか?」
「娘さんが意識不明状態で発見、くらいでいいだろ。そもそもよく分かってないからな、こっちが」
「はい」
婦警が電話するのをわたしはすぐ近くからドキドキしながら見つめていた。