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 三時になり、須賀がバックルームから出てきた。読んでいた雑誌はもう片付けてある。何も怒られることはないはずだ。

「売り上げは?」

「……五六〇〇円です」

 わたしはレジを操作して、答えた。

「やっぱり私が売り場に出てないとダメなのね。なんでこんなに売り上げ悪いのかしら。ちゃんと頭使ってる?」

「……すみません」

「すみませんじゃないの。頭使ってるのか聞いてるの」

「……使ってません」

 須賀は勝ち誇った顔で笑った。

「だからダメなのよ。ほんとダメ。大鳥さん、社員の自覚あるの?」

「……ありません」

「よくそんな堂々とないって言えるわね。休憩中、どうやったら昼間の売り上げが上がるか考えて、レポートにして提出して下さい。じゃ、休憩どうぞー」

「休憩いただきます。ありがとうございます」

 わたしは須賀に頭を下げて、喫煙所に向かった。


 大きく息を吸って、煙を肺に充満させる。そして溜息ともに、紫煙を吐き出した。

 昼間の売り上げが上がる方法。一体どうすればいいと言うのだ。

 大体ブックス・セサミが入っている百貨店の周りには大きな本屋がたくさんある。西日本最大級のジャンク堂、ワンフロア丸ごと古本販売にしてしまったレンタル店大手のTATSUYA、古本販売大手のブックオンに至っては地下鉄の駅の近くには必ずあると言っていい程たくさんの店舗が進出している。すぐ隣のファッションビルにはアニメートも入っているので、アニメ化した漫画等はそちらの方が品揃えがいいだろう。ガイドブックを求める観光客も多いが、それなら空港や駅で十分に揃っている。いずれにせよ、品揃えも特化してないブックス・セサミに、わざわざ堅苦しい百貨店の中を通って来る必要はないのではないだろうか。

 悩んでるうちに、タバコが根元まで無くなってしまっていた。

 ああ、もったいない。

 もう一本吸いたい気持ちはやまやまだったが、早く昼食を食べなければレポートを書く時間が無くなってしまう。吸い殻を灰皿に捨て立ち上がると、目の前に襟裳がいた。

「あ、大鳥さん、おつかれさま。さっきは大変でしたね。レポート大丈夫ですか?」

「……ありがとう。でも大丈夫」

「多分須賀さんは、実現可能な案をあげた方がいいと思いますよ。下のフロアとの連動フェアとか……そうですね、スタンプラリーとかどうでしょうか? 下のフロアでやっているのに連動してだと祝屋の方にも働きかけやすいんじゃないですか?」

「そうね、考えとく」

 わたしは言い残し、喫煙所を後にした。


「はぁ……」

 社員食堂でうどんを啜りながら書いたレポートを読みながら、須賀は大きな溜息をついた。何度も確認したので、紙に汁は飛んでいないはずだ。だとしたらこの溜息はないように向けられたものになる。

「あなたねぇ、こ個がどんな本屋だかほんとに分かってるの?」

「……すみません」

「このレポート、『取り扱う書籍の専門性を高め他店との区別化を図るって』……はぁ」

 社食のうどんはいい。一杯一八〇円だ。寂しかったら八〇円のちくわ天を追加すればいい。三六〇円でお腹がいっぱいになる。素晴らしいコストパフォーマンス。

「……次の休み、他店舗見学。それでまたレポート提出。それでもうちの店の特徴が分からないようなら……考えることにします……」

「……分かりました」

 また仕事が増えてしまった。誠に遺憾である。

 やがて徐々に客足も増えてきた。それに伴って五時からのバイトもやってきた。

 女子高生の四葉と久喜だ。

「襟裳さぁん、おはようございますぅー」

 四葉がぶりぶりしながら襟裳に挨拶をする。彼女は襟裳が好きなのだ。それはもう、分かりやすいくらいに。

「四葉ちゃんおはよ!」

 そして象井は四葉が好き。これも分かりやすい。

「若者参上だな。二人ともレジ入ってて。二人が入ると売り上げが違うからね」

 売り上げが違うのはただ単に時間帯の問題だと思うのだが、須賀はどうしてもわたしのせいにしたいらしい。レジにいるわたしにちらりと視線をよこすと、売り場に出ているようにと指示を出した。

「はぁ、バイトと社員入れ替えたいわ」

 須賀はわたしの横を通り過ぎる際、聞こえるように独り言を言った。

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