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「――それに、わたしもまだあなたを信じきれていない」

「なぜですか?」

「――ロープの話、警察にしてましたよね? なぜそんな事を知っているのか」

「ああ! 忘れてました」

 襟裳が大声を上げた。

「人影を見たんですよ。怪しい。その人が大鳥さんの家の前にロープの入った袋を置いていったんで怪しいと思ってたんです」

「——早く言ってよ!」

「すみません。いや、大鳥さんの話もあわせて色々まとめたいと思ってたんですよ」

 どうも信用が出来ないやつだ。疑っていると襟裳は一人で弁解を始めた。

「いや、僕もね、あんまり色々な情報を先に出して大鳥さんを混乱させたらいけないかと思って」

 そう言いながらノートのページをめくってさらさらと文字を書き出した。思いのほか綺麗な文字にドキッとする。

「まず仕事が終わったのが九時前くらいでしたよね……で、僕がバイクで先回り……」


 出来た表はこのような物だった。


 九時 終業 (鍵拾う)

 九時半すぎ 大鳥さん帰宅

 十時半 人影を見る

 零時頃 首つり


「これに大鳥さんがあった事を書き込んで下さい」

「——その前に、えりもは三時間以上もわたしの家を見張ってたの?」

 執念にドン引きである。

「いや、これは、その……大鳥さん、引きません?」

「——もう充分」

「……合鍵を作ろうと思って駅前まで一度戻ったんです。九時半から十時半の間」

「——それ以降は?」

「ラーメン食ってました。近くにありますよね? まあ、大鳥さんちの方向も見えるし、再び怪しい人が通ったら追いかけようかと思って」

 わたしは黙って、十時半と零時の間に「隣人の喧嘩(幽体離脱中)」、首つりの横に「時間不定 発見・通報・救急車」と書き足した。

 襟裳はふんふんと鼻を鳴らしながらその表を見つめていた。

「発見したときに何かおかしな点は?」

「——なし」

「侵入者の気配は?」

「——動転していて気付かず。えりも侵入後かと」

「なるほど。大変な事に気付きました。これ、自殺に見せかけた密室殺人ですね!」

 襟裳は顔をキラキラさせてそう宣言した。

「——密室を壊したのはあなたでは?」

「全くその通りです。ああ、ちゃんと施錠して帰っていれば!」

「——そうしたら完全にあなたが犯人ですが」

「そうでした。ここばかりは自分の機転の利かなさに感謝しなければ。しかし、面白いですね! こんな事件に巻き込まれるなんて!」

「——まだわたしはあなたの事を疑っていますけど」

「僕だって大鳥さんが幽霊になったなんて信じてませんよ」

「——幽体離脱です!」

「そうですけど。まあ、字体が大鳥さんの物とそっくりなんで今のところは信じていますけどね。僕以外にこんな事信じる人いるでしょうか?」

「——う」

「大鳥さんが僕を疑うのは多いに結構。しかし、決定的な証拠もないし、あったとしてもそれを伝える術ももたない幽霊一人に疑われたって痛くもかゆくもありませんよ」

「——うう」

「だから大鳥さんは真実が明らかになるまで僕と一緒に推理ごっこをしましょうよ。僕は楽しいし、大鳥さんは犯人を見つけるヒントになるかもしれない。ウィンウィンじゃないですかね? それに、もし僕が犯人だとしてもどこかでボロを出すと思いますよ。いいと思うんですけど」

「——わかった、わかったから!」

 わたしは折れた。襟裳の言い分に丸め込まれている気もしないではないが、現状それが一番いい考えのように思われた。

「これでロープが見つからなかったら犯人は蛇とかそう言う話にもなるんでしょうけどね」

「――ヘビ?」

「え?」

 襟裳は大袈裟に

「大鳥さん、ホームズ読んでないんですか?」

「――読んだと思うけど」

「思う? 内容覚えてないんですか?」

「——昔の事だから……」

「昔って! 児童書で読んだクチですか? しかも内容を覚えてない! こんなに有名な話なのに?」

「——思い出したよ、ほら、ヘビの話でしょ?」

「ホームズを読まないで最近のミステリばっかり読みあさってるんですか? ポーは? カーは? っていうか定番ミステリを読まないで新本格とか……四則演算出来ないのに因数分解するようなもんですよ!」

 それから襟裳は冷蔵庫から発泡酒を取り出し飲みながらわたしの読書遍歴にダメ出しをし続けた。わたしは久しぶりに酒が飲みたくなった。

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