8
「まさか、死後僕の思いが伝わって、俺の携帯に宿ってしまったと言うんですか! 大鳥さん! ああ!」
『ちょっと何訳分かんない事言ってるの! わたし死んでないし!』
襟裳に飛びかかるようにして右手を奪う。
「——死んでません!第一襟裳が殺したんでしょ!早く自首して下さい」
「大鳥さん? あれ? 僕の手が勝手に文章を? あれ?」
「——今あなたの右手を借りています。ちょっと訳分からない状況かもしれないですが、ご静聴して頂けると幸いです」
襟裳を宥めるように、丁寧な物言いを心がける。
「はい」
襟裳は正座し、携帯電話を床の上にちょこんと置いた。
『だからそうじゃない!』
わたしは叫ぶと、襟裳の右腕全体に乗り移り大振りな動作で携帯電話を掴み上げた。
襟裳の右手を使い、必死で文章を打った。
わたしが襟裳によって首を吊られた後、幽体離脱状態になっていること。見る事も効く事も出来るが、話は伝わらないので右手に憑依して文章を打っている事。そして、ここに来た目的は——。
「——お前に自首をさせる為だああああああ!!!!!!」
「ひぃいぃぃぃ!」
襟裳が携帯電話を思いっきり壁に投げつけた。
『ぎゃああああああ!』
驚かそうとしたのはわたしだが、ここまで驚くとは思っていなかった。
「ああ! やっちゃった!」
襟裳が我に返って携帯電話を拾い上げたときには、画面には無惨にひびが入り、何も写さない状態になってしまっていた。
「…………」
『ごめん』
聞こえないとは思いつつも、わたしは襟裳に謝った。
「いや、大鳥さんのせいじゃないですよ」
しばらく壊れた携帯電話を眺めていた襟裳は、絞り出すようにそう言った。言葉が通じたのかと思って驚いていると、立ち上がりながら言葉を続ける。
「別に聞こえた訳じゃないですけど、大鳥さんなら今謝ってるかなって思って」
『なるほど』
襟裳は壊れた携帯電話を机の上にそっと置くと、辺りを探り出した。
「ちょっと勘違いしているみたいなんで今のうちに言いますけど……」
ガサガサと何かを探しながら低い声で呟かれる言葉をわたしは聞いていた。
「俺が大鳥さんを殺そうとする訳ないですからね」
『え?』
「いやー、あのー、あ、大鳥さん聞いてます? これ独り言じゃないですよね?」
『違う』
しかし、伝える手段がなかった。
「まあいいですけど。あの、なんで俺が大鳥さんを殺した犯人だと疑われてるのか分かりませんけど、俺じゃないですから。そもそも俺に大鳥さんを担ぐだけの体力があると思います?」
『ないと思います』
「あのですね、その……言っちゃいますとですね」
襟裳は学校用カバンの中から筆箱とノートを取り出し、机の上に置いた。
「俺、大鳥さんの事が好きですから」




