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 気がつくと太陽が昇りきっていた。

 わたしは『わたし』の病室にいた。ぼんやりと時計を見ると午前十時、本来ならもう家を出ていなければならない時間だ。

『……出勤』

 こういう場合の休み連絡はどうすればいいのだろうか? 前例がない、というか休んだ事自体無いので全く分からない。

 わたしが電話する訳にも行かないし、刑事も医師も連絡はしてくれないだろう。親は職場の連絡先を知らないだろうし……。そもそも母親はどこに行ったのだ?

『うーーーん』

 悩んだ末、とりあえず職場に赴く事にした。正直な話、病室にいてもやる事等無いのだ。

 病院の前からバスに乗り込み、普段とほとんど変わらない形で職場にたどり着いた。

「大鳥さん来てないんだけど、何か連絡あった?」

「いや、何も無いっすよ」

 今日の出勤は襟裳と象井か。社員は……。

「はい、おはようございます」

 須賀がバックルームから出てきた。

「……大鳥さんは?」

「それが分からないんです」

「彼女、一応遅刻した事は無かったはずですけどね……」

 須賀は苦い表情をした。わたしが寝坊、或いはサボったと思っているのだろうか。真実を知ったときの彼女の顔が見てみたいと、わたしは暗い笑みを浮かべた。今は呆れている須賀も、その感情に後悔するのではないだろうか。

「まあいいわ。あたしから電話してみます。本日の連絡事項は――」

 滞り無く朝礼が終わり須賀がバックルームに戻ると、レジに入った象井が早速襟裳に話しかけた。

「大鳥さん、バックレっすかね」

「そんな事する人じゃないと思うけど……」

「まあ仕事以外何して生きてんのか分かんない人っスけどね」

「そんな言い方しなくても」

「いや、違うっすよ。趣味とか無さそうじゃないですか! あの人」

「……そうかな?」

「まあ、でもアレかもしれないスよね。夏バテ。ひ弱そうな人ですから」

「どっちにしろ早く連絡来るといいよね」

「そうっすねー」

 それから二人は他愛も無い話を始めた。まあ、興味が無いわたしが無断欠勤したくらいで彼らには何も思うところは無いだろう。

 思うところがあるとすれば、わたしを管理する立場にある須賀だ。わたしは売り場から離れ、バックルームへと忍び込んだ。

「……だめね。出ないわ」

「大鳥さんね、真面目そうだったのに」

 須賀は受話器を持ちながらため息をついている。相づちを打っているのは副店長の片平だ。彼は妻子持ちながら、完全に出世コースから外れ須賀の尻に敷かれている不遇な人である。しかしわたしがサボっている前提で話を進めるのは納得出来なかった。だからいい年して副店長どまりなんだよ。

「辞める気かしらね。全く、ちょっと怒ったくらいでこれなんだから、最近の若い子はほんと骨が無いわね。私が若いころはもっと耐えてました。怒るのも愛情なんだから、素直に受け取ればいいのよ。全く」

「そうですね」

「大体前いた新卒の子もすぐ辞めちゃったじゃ」

 トゥルルルルル、トゥルルルルル。

 須賀のつぶやきを電話の着信音が遮った。須賀と片平は顔を見合せる。

「はい。ブックスセサミ須賀と申します……大鳥さん? あなたねぇ……え? はい。ええ、確かに出勤してませんけど」

 わたしは須賀の隣にいって反対側から受話器に耳をくっつけた。須賀とこんなに顔が近いのは嫌な気分だったが、電話の内容を聞くためにはやむを得まい。

『今病院で、意識不明の状態でして、しばらく出勤は出来ないかと』

 くぐもっているが、確かにわたしの母親の声が聞こえる。

「そうだったんですか。お大事になさって下さい」

『うちの娘がご迷惑おかけしますわ』

「いえ、迷惑だなんてとんでもない。仕方の無い事です。それで、入院期間はどのくらいかかりそうですか?」

『それが、先生も分からないそうでして。こういうときってどうすればいいのでしょうか?』

「そうなんですね。とりあえず休職届けを出す形になると思うので、お手数ですがお母様、書類の方のご記入をお願いできますか」

『わかりました』

「ではご自宅の方へお送りさせて頂きます」

『助かります。では、失礼致しますわ』

「失礼致します…………」

 母親が電話を切るのを待って、須賀は通話を切った。そして、訝しげな表情でこちらを伺う片平に溜息まじりでこう言った。

「大鳥さん、意識不明で入院しているそうよ」

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