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夜の病院は怖い。非常灯が照らしているので真っ暗と言う訳ではない。それに医師やら看護婦やらも時々歩いている。それでも怖い。これはホラー映画やゲームの舞台としての病院を意識してしまうからなのだろうか、それとも何か本能に訴える恐怖が病院にはあるのだろうか。
例えば、幽霊。
病院には死んだ人間の霊魂が漂っているから、本能に恐怖を訴えてくるという可能性も考えていなくはなかった。しかし今、自分もほとんど幽霊と同じ存在になってしまった今もなお幽霊に怯える本能があるというのはいささか解せない。
っていうか、幽霊なんていないじゃん。
わたしは調子に乗っていた。大いに調子に乗っていた。
動いているものは全て生きている人間だったし、同類と化した今見えるはずの幽霊たちも全く目には映らない。わたしの中で、この世に幽霊等いないと証明されてしまったのである。惜しむらくは今それを他人に伝える手段が断絶していると言う事だ。
これでは意識が元に戻ったあとにホラー映画を楽しむ事が出来ないなーなどと少し悲しい気持ちになりながら階段をどんどん上っていく。
そういえば、今のわたしにも足はある。普段は意識していなかったけれども、二本の足を交互に出して階段を上っているのだ。幽霊には足が無いという定説があるので、もしかしたらわたしは分類的には幽霊ではないのかもしれない。だとすれば、今病院内で色々見えないのも同類ではないからな訳で、いないと言う証明にはならないのではないだろうか。
そっと後ろを振り返る。仄暗い闇の底から、何かが迫ってくるような気がした。
『ひいっ』
わたしは大急ぎで階段を上りきり、突き当たりにある扉をすり抜けた。
『おおー』
感嘆の声が口からこぼれ出る。当然と言ってはそれまでなのだが、階段の一番上の扉は屋上へと繋がっていた。
繁華街へと続く国道に、車のライトがまばらに煌めいている。その先はビルの明かりが夜の中に浮かび上がり、幻想的な風景のような気もしなくもない。反対側の空は朝日が昇ろうとしていて、暗い空を下側から徐々に染め上げている。上から順番に黒、紺、青、水色、白とグラデーションになっていてとても綺麗だ。
初めてこの街を、美しいと思った。
でもまあ、こんなに空が綺麗なのは大きな建物も夜までやってる店も少ないからなんですけどね。
ぼんやりと色が変わっていく東の空を見ていた。今日は色々あったけれど、こんな景色が見られただけでよかったな。
いや、やっぱよくないな。
しかしまあ、何から考えていいものやら判断がつかない。ので、今日はちょっと休もう。
屋上を囲う柵は自殺防止のためかとても高くなっていた。柵の間に顔を挟むようにして景色を眺めているわたしの目に、奇妙なものが映る。
『人……?』
病院の敷地の中をすぅーっと滑るように移動する物体が見えたのだ。目を凝らすと、やはりセーラー服を来た髪の長い人間のようだ。ちなみにわたしの視力はかなり悪いので普段はそんな遠くのものが見えるはずは無いのだが、幽体離脱中だと目も良くなるらしい。これはかなり便利である。
そんな事を考えているうちに、セーラー服の人物はふわりと宙に浮かび上がりそのまま消えていってしまった。
『え……?』
もしかして、わたし見ちゃいました?




