第三章 その10
ザバッ!
光の奔流が瞼越しに眩しい。
濡れた身体を青葉の匂いの風が撫でて行く。
過去から過去へと迷走する記憶が急速に巻き取られる。
古い縛鎖からすべてが解放される感覚が走った。心と身体が軽くなる。
今、ボクが身動きできないのは、それとは別の理由だった。ほんの少し顔を上げると、自分よりもずっと大きいボクの身体を抱きかかえた金髪の〝少女〟がそこにいた。その横顔は、あの時の〝魔法少女〟によく似ていた。
そうか――そうだったんだな。
漸く頭の中のもやが晴れてすっきりとした。
〝魔法少女〟の外見は自身が決定できる。余りにも似すぎているのなら、それは偶然より必然だ。
ボクの心は一瞬だけ無防備な丸裸になる。だから、ついそんな言動を取ってしまったのだろう。右手を犬娘の頭の方へと伸ばし――
「ありがとう」
髪を撫でてやる。犬娘は微かに表情を歪ませてから、ボクを逆に安心させるように頷いた。
橋の上では騎馬とその仲間が3人、バンから出て待ち構えていた。騎馬を含め全員が見たこともないスーツを着用している。
宿願を果たす時だとでも言いたげな騎馬が自慢げに説明してくれる。
「前の時から3倍は強化してるんだ……計算上負けるはずはないぜ?」
犬娘はそれを聞いているのか、ボクをそっと地面に下ろすと体勢を低くし、前傾姿勢をとった。
「ぐ……るぅ……」
狼のような獰猛さで喉を鳴らす。
残念ながら、ボクが見届けたのはここまでだった。疲れきったボクは直ぐ様気を失ってしまったからだ。
〝魔法少女〟は力が強すぎるのでセーブして戦っている。そのことを知る人間は少ない。本当の本気でやった場合、山が消し飛ぶ――らしい。
その事を騎馬たちは身をもって知っただろうか?
まったく、宇宙人は加減というものを覚えた方が良い。