第三章 その6
それは最後の夜になってのことだった。
明日には家路についてしまう名残惜しさから星を見に出てきたのだっただろうか。ボクとのはらとかりんの二人と一匹だけが座っていた。大人たちの目から逃れ、ボクらだけの世界はその分だけ拡がっていた。星に手は届かなくても、いくらでも手は伸ばせる気がしていた。
まだ何も汚れたことを知らない年齢で、夜空の星のように何もしなくても輝き続けるのだと信じていたのだろう。地上にいる限り、雲に隠れることもあれば、雷雨で塗りつぶされるもあるというのに。
あの頃のように無邪気に夜空を見上げることは、もうない。あの包み込んでどこかへ連れてかれそうな星空の下、ボクらは地上の闇に呑み込まれてしまった。
そこにかりんが巻き込まれてしまったのを、のはらは今も悔いているだろうか。
今思えば、あの時犯人はどうにかして性犯罪チェックから逃れようとしていたのではないだろうか。
その結論がかりん……? なのだろうか。糞変態野郎としては、あくまでかりんに欲情しただけで、ボクらはそのついで。行き掛けの駄賃とかっさらってきただけ。
獣姦は当時魔法少女システムによる性犯罪チェックの対象外だったのだ。この事件をきっかけしたわけでもないだろうが、ほどなくして鳥獣への性行為も魔法少女による排除対象となる。
魔法少女の守備範囲は実はちょこちょこ変わる。と言っても、要望を汲み上げたわけでも、これから罰しますと広報されるわけでもなく、皆が知ることになるのは、毎週の魔法少女ニュースによってだった。
とまれ、そいつはこれからおぞましい行為に及ぶ気満々でありながら、ボクらを湖のど真ん中に連れ込むことに成功していた。欲情し濁った目を絡ませ、肉欲の腐汁をしたたらせた掌を纏わり付かせていたというのに!
犬を犯すつもりで少年少女を運搬する――その奇行がどれだけ功を奏したのかどうか正確な所は知らないが、結果として、決定的瞬間に至るまで、ボクらを助けるはずの〝魔法少女〟の姿はなかった。
そう、取り返しの付かなくなる段階まで。
それまでボクができたのは、どうしてこんなことになってしまったのかという後悔だけで、真っ白になった頭で生まれてからの記憶をトレースし、のはらと並んで座る最後の瞬間までを繰り返す。
突如豹変したそいつに襲われたところで記憶は暗転する。それは思い出せないのではなく、気絶していたため記憶自体がないのだ。多少は抵抗したかもしれないが、鮮やかな手並みだったのだろう。