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わん・サイド・GAME 魔法少女を探せ!  作者: 時計塔
第三章 憎まれっ娘、世に憚り
26/38

第三章 その1

放置し過ぎました。

とりあえず完結はさせます。

粗があったら、改稿する方針で。

 第三章


  1


 【To】 牛頭ハンス

 【Sub】 助けて!

 お兄ちゃんが覆面をした男たちにさらわれたの!

 武蔵大橋の下で乱暴する(性的な意味で)

 ってゲス顔で言ってたから急いで!

 あたしは警察を呼んでくるから行けない


  ***


 周良町との堺に架けられた橋の下、武蔵町側の河川敷で、ボクはじっと息を潜め、あいつがくるのを待っていた。不自由に身体を折り畳み、声を出すことすらできずに、ただ時の刻むのを数え続けた。

 必ず来てくれるはずだと信じていても、もしこなかったら……という懸念だけが地中に埋められた種子のようにむくむくと育っていく。

 だが、不安はすぐに消えることになる。期待した通りに、あの口上が聞こえたからだ。

「月よりの使者、ルナティック・バニー! ただいまさんじょ……あれ?」

 せえの、のかけ声で飛び出してきたいつぞやの兎魔法少女は想像していた現場と様相が違っていることに戸惑いを覚えていた。それもそのはずで、

「名前変わってるじゃねえかよ! 狂気の兎ってなんだよ」

 ボクの声に振り返ったバニーには戸惑いがあった。

 後ろ手に縛られ転がされているボク――兎女はそんな想像でもしていたはずだ。

 そのボクが、ただ一人、自分の足で歩いて姿を晒す。

「あれ? あれれ?」

 造った声ではなく、「いつものような」頼りなさでキョロキョロと辺りを見回す。

 高架下の砂利道には答えなど転がっていないというのに。

 情けない姿は正義のヒーロー(いや、ヒロインなのか)失格だ。

 自然と大きな溜息が出た。

 こんな時は、たとえ狂言であろうとも、ボクの無事を喜べ。

「あ、あの、あの、あの、……変態さんはおトイレ?」

「そんな悠長な変態はいねえよ。出したけりゃボクみたいなキレイな肉べ……ってそんなことはどうでも良い。いや、こんなに簡単に引っ掛かるとは……」

「あ、あの、覆面の人は?」

「あれは嘘です」

 勘が鈍い。それとも、騙されたとは思いたくないのか。嘘なんだとハッキリ言って、ようやく事態を受け入れたように見える。

「う、嘘って、そんな、まねきくん酷いですぅ!」

「謝るくらいならいくらでもしますけどね。宇佐美先生、もう良いでしょう?」

「ち、違っ――あ、あたしはルナ……」

 もう隠すものなどないのに、なおも誤魔化そうとする宇佐美を目顔で制する。ていうか、ボクの名前呼んだよな。しかし、揚げ足取りの押し問答をする必要はない。

「本物――そう、本物の魔法少女なら、こんな手には引っ掛からないんですよ」

「え……?」

 言った意味がわからないのだろう。宇佐美はきょとんと目を丸くする。

「魔法少女たちがどうやって犯罪現場に辿り着くと思っているんですか? 通報されたから? 誰がするんです? 幸運にも目撃者がいたとして、それが嘘の通報でも無駄足踏みに行くんですか? いえ、踏みませんけどね。そこで本当に犯罪が行われているかどうかくらいはわかるんです。本物の魔法少女ならね」

 ボクの話が真実かどうか、宇佐美に判断する材料はないはずだ。それでも、『真実味』くらいはあるだろう。そして、偽物を揺るがすにはそれで十分だった。もちろん、二の矢、三の矢くらいは用意していたけれど。

「あぅ……そうだったんですかぁ……意外とはいてくです……。そこまではマネできません」

 まあ、地球のテクノロジーなんて軽く凌駕してるけどね。

 兎女は心なしか耳をしょげさせると、観念したようだ。でも、それ以外が完璧にマネできていたとも思えない、酷いレベルだったわけだけど。

「そうですか。認めてもらえて良かったです」

 ボクがやるべきこと。それは、偽魔法少女のあぶり出しだ。

 決め手があるのかって? 証拠? 論理? なんだそりゃ。

 贋者なんかより、ボクの方がずっと魔法少女には詳しいんだ。首根っこ踏ん捕まえて、じっくり吟味してやれば、粗なんていくらでも見つかる。そして、こいつらが魔法少女でも何でもないということを宣言してやるのだ。

 ある意味、正体が丸わかりであったとしても、それを確信を持って大々的に公言できるのはボクを置いて他にいないだろう。

「で、先生は何を企んでいたんですか? 魔法少女を殺そうとするだなんて大それたことをして。……べそなんかかいたって、誤魔化されませんよ!」

「ぐすっ……まねきくんは先生のことそういう風に見てたんですか?」

 ボクが強く指弾すると宇佐美は本当に涙を滲ませて泣き出しそうになる。

「あれ? ボクを襲ってたのって先生たちじゃないの?」

 本気でそう思っていたわけじゃない。寅田はともかく、宇佐美にそんな邪悪な意志があるわけがない。

 軽い調子で言ってみたのだが、宇佐見はキッと目をつり上げて声を荒げた。

「当たり前ですっ! かわいい生徒たちに手なんか出しません!」

 かわいいって……なんか照れるな。

 罠に掛けてカマを掛けて信頼関係の破綻なんて微塵も気に掛けない、悪い生徒なのに。

「い、いや、まあその辺りの繋がりは元々ないなあとは思っていたんですけどね。念のためですよ、念のため。その代わり、なんで偽魔法少女なんてやろうと思ったのか聞かせてくれませんか?」

「それは……。まねきくんがものすごく嫌な目にあっているのを、放ってはおけなかったからです」

 ボクのためだと言う宇佐美からは何も気取ったところが感じられなかった。真に教え子のことを考えての行動だったということだろうか。

「でも、それは魔法少女がやってくれますから」

「…来てくれなかったら……」

 諭すようなボクの言葉にぼそぼそと宇佐美が口を挟んだ。よく聞き取れなかったので黙る。だけど、それは頭で理解するような細々しい話なんかではなくて、

「もし! 来てくれなかったらどうするんですか!」

 思いの丈を全てぶち撒ける大絶叫だった。ふと、宇佐美が語ってくれた過去を思い出す。

 恋人――だと信じていたヒトから裏切られ、人類に対して安全を保障した魔法少女の救いは現れず。どのようにして解決したのかは知らないが、不安と恐怖が明けない日々を過ごしたであろう。

 同じ被害者仲間として放って置けなかった。ただそれだけか。でも、最終的に守られてきたボクの方が宇佐美と同じ地点に立てていなかったのかもしれない。感情の迸りに任せ、こどものように泣きじゃくる宇佐美に小さく謝った。

 それから、少し宇佐美が落ち着いてきたので疑問に思っていたことを問いただす。

「先生が魔法――偽魔法少女になった時、寅田がいましたけど……あいつはなんだったんですか?」

 もう宇佐美に用はないと思ったが、不安要素を取り除こうと質問してみる。

「あ、それは先生に協力してくれてたんです。先生一人じゃまねきくんの尾行失敗しちゃいますから」

 えへへ、と悪びれもせずに明かしてくれた。

 ああ、なるほど。ボクは時間割と寅田の登校時間を頭の中で重ね合わせてみた。ボクたち2―Bでは月曜2時限は保健体育だけど、2―Cは1時限目か。宇佐美の授業に遅刻したくないから早めに行っていたんだな。その他の曜日は不定期だったが、朝が早くなってたのは宇佐美と会う機会を多くするためかもしれない。

「寅田くんとってもいいひとです」

 完全に信頼しきった目をしている。寅田が良い奴だなんて、ボクは口が裂けても言いたくない。しかし、どちらかと言えば男全般に対して引っ込み思案だった宇佐美をここまで垂らしこむのならば、あいつも変わったということなのだろうか。チンピラがチンピラホストになるくらいには。

 ボクのように性犯罪被害者としての共感を呼んでいたわけでもないのだろうし、そこには並々ならぬ努力があったと認めてやっても良いのかもしれないが。

 ふと、もう一人浮かんだ名前があった。一切姿を見せずにいた男。メールは複数人に出したのだが、どうもあれが本命だったようだ。

「……ひょっとして牛頭も?」

「それって誰ですか?」

 きょとんと首を傾げる。

 あれ? もう一人は絶対牛頭で決まりだと思ってたんだけど、ひょっとして違うのか? ボクも牛頭を直に見たことは少ないので自信が無くなってくる。

「牛頭ハンスってやつだけど」

「ゴズ……ハンス……あー、はんす君。とらちゃんのお友達ですねぇ。彼もとってもいいひとですぅ」

 フルネームも碌に覚えてないのにあんなことやらせてたのか。考えてみれば学校での面識は無しか。大方、寅田が無理矢理引っ張ったってところかな。

 牛頭にしたって、宇佐見とは関わりが薄いだろうに、一体何の目的で――。

 と、

 だけど、脈はなさそうだなあ。がんばれよ。

 牛頭はおそらく寅田と組んでボクを監視していたはずだ。朝だけは宇佐美も出勤中ということで休憩を入れていたようだが。マタギになりすましてメールしていたとわかっているにしては不自然なところが少なかったし、辻褄は合うだろう。

 さて、次は――


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