明日の俺、頑張って
外回りの仕事から戻ると、事務所にはもう誰もいなかった。
まぁ、定時をとうに過ぎているから仕方がない。
自分のデスクの椅子に座ると、一気に力が抜けた。
あとはもう帰るだけなのに、尻と椅子が接着剤でくっついたかのように、動くことができない。
スマホを取り出し、SNSを見る。
俺が仕事をしている間にも、フォロワーさんの日常がたくさん更新されている。
SNSというのは、人様のキラキラした部分ばかりが表示される。
皆充実してるな、と思いつつ、それはその部分だけを切り取って投稿しているからなんだよな、とも自覚する。
SNSの中だけでも、キラキラした自分でいたい。
そこは、ある種の逃避場所なのだ。
そうでもしないと、現実のしんどさに押し潰されてしまうから。
SNSとは怖いもので、気が付くと1時間も経っていた。
明日も早いし、早く帰らないと。
そうは思うものの、やはり俺の尻は椅子から離れてくれなかった。
心身ともに疲れ切っている。
このまま会社に泊まってしまった方が楽なんじゃないか。
いや、帰ってシャワーを浴びたい。
そしてベッドにダイブして、泥のように眠りたい。
意を決して、俺はなんとか尻を椅子から引っぺがし、立ち上がる。
さぁ、帰ろう。
さっさと帰ろう。
刻一刻と、俺の自由時間が減っていく。
鞄を手に取り、事務所の戸締りをして、会社を出る。
行き交う人々は、まるでゾンビのように足取りが重く、表情も疲れ切っている。
夜空を見上げた。
まん丸の満月が浮かんでいる。
ふと思う。
俺は生活をする為に仕事をしているはずなのに、仕事をする為に生活をしているような気がする。
あぁ、なんてつまらない人生。
空から女の子やお金が降ってこないだろうか。
人生が劇的に変わるような出来事が起きないだろうか。
ないものねだりで、気持ちは落ちていく。
「俺もキラキラした瞬間を投稿したいなー」
そんな瞬間すら作れない、社会の奴隷。
今日の俺、お疲れ様。
明日の俺、頑張って。
欲を言えば、頑張らなくていい日が来るといいな。
隕石でも落ちて、この世界が崩壊してしまえばいいのに。
隕石様、出番です。




