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AIを憎んだ俺は、AI管理者になる

作者: 畝澄ヒナ
掲載日:2026/05/12

俺はどうしようもなく、公園のベンチに座っていた。

いつも丁寧にセットしていた七三の髪も、毎日手入れをしていた眼鏡も、もはや意味をなさない。

もう何度、職を失ったことだろう。

それもこれも、AIが普及しすぎた、この世の中のせいだ。


大学を卒業してすぐ就いたのは、旅行会社だった。

俺の企画で、様々な人を素敵な旅に導けたなら、そう夢見ていたからだ。

就職してしばらくは雑務ばかりだったが、そんな忙しいスケジュールの中でも、俺は企画を上に通し続けた。

「検討しておくよ」

上司からの言葉はいつもそうだった。

俺はその言葉を信じ続けて、数年が過ぎたとき、同期が部長に昇進した。

特に結果も出していない、雑務をこなしていただけの同期が、たった一つの企画が通っただけで部長へと上がっていったのだ。

俺はすぐ上司に異議を申し立てた。

「どうして、俺の企画は通らないんですか!」

「アイデアは素晴らしいんだけどね、君が考えるより、AIに出力してもらったあの企画書の方が扱いやすいんだよ」

同期の企画書、AIに出力してもらっただけの企画書、それに俺は負けたのだ。

その時、俺は心が折れてしまい、数日後に退職届を出した。


二つ目の就職先は、飲食会社だった。

主な仕事は店舗での接客、それ以外は従業員の勤務管理などのデスクワークだった。

ブラックというほどではないが、俺にかかる負担が大きすぎた。

それでも俺はやりがいを感じ、楽しく仕事をしていた、つもりだった。

ある日、俺が任せられた店舗に、企業コンサルタントがやってきた。

「唐木さん、勤務管理などは、これからAIに任せますので、あなたは接客に専念してください」

またAIかと思ったが、接客だけでも立派な仕事。俺は文句を言わず、接客に専念することにした。

そこから数か月後、そのコンサルから言われたのは、衝撃的な言葉だった。

「これからはAI搭載の接客ロボに店舗を任せますので、唐木さんは……」

後半は何を言っていたのか覚えていない。

気が付くと、俺は会社を辞めていた。


そこから俺は就職をせず、好きだったイラストを描くことに没頭した。

少しずつだが稼げるようになり、貯蓄を切り崩しながら生活していた。

ある日、SNSで依頼が来た。

『私のオリキャラを描いて欲しいのですが……』

キャラの詳細を教えてもらい、注意事項などを説明したうえで依頼を受けることにした。

納期に余裕を持たせ、様々な構図を用意して、いくつか完成した作品を依頼者に見せた。

『これって、もしかしてAI使ってます?』

そんなわけがないのに、難癖をつけてきた依頼者。

どれだけ説明しても、信じてもらうことが出来ず、結局依頼は白紙になってしまった。

気が付けば日に日にSNSにAIイラストが溢れていった。

AIイラストなのに、手描きだと嘘をつく人も多く、炎上は日常茶飯事だった。

俺は依頼を受けるのをやめ、SNSにイラストをあげることもやめ、AIか手描きか見分けがつかないイラストたちを、ただ眺める日々を送るようになった。


貯金もなくなりはじめ、コールセンターでバイトを始めた。

数か月後、統括責任者に言われた。

「これからはAIが代わりに電話対応してくれるから」

辞めざるを得なかった。


次は食品工場でバイトを始めた。

数か月後、工場長に言われた。

「これからはAIが代わりに品質チェックをしてくれるから」

辞めざるを得なかった。


俺は勉強することだけはやめなかった。

その知識で試しにフリーゲームを作るようになり、俺のゲームを気に入ってくれた人たちからの支援で、クオリティの高いゲームを作るようになった。

しかし、俺がゲームを作り続けても、支援はいつまでも続かなかった。

理由は『AIでもこれくらいのゲームはいくらでも作れる』というものだった。

俺は作る意欲が湧かなくなり、ただ人のゲームをプレイするだけになった。

最近のゲームはAIでプログラムを組んでもらうのが当たり前になっていた。

AIに投げて、出力されたゲームをただ公開する。

俺は、ゲームに感動を覚えなくなってしまった。


これが、俺の歩んできた人生だ。

仕事をするたびにAIが邪魔をしてくる。

AIがあるからと言って、人々は、人々自身を切り捨て続けてきた。

なんて理不尽なのだろう。

俺はただ真面目に、やりたいことをやってきただけなのに。

公園では、職を失ったホームレスなどが、炊き出しに群がっていた。

そんな光景を、俺はただ見ていることしかできない。


俺には帰る家があるが、帰る気も起きなくなっていた。

帰ったところで、AIに溢れたSNSの画面が、虚しく光を放っているだけだ。

AIが憎い。AIがはびこるこの世界が憎い。

どうして人間が作り出したものに、人間が苦しめられなければならないのか。

便利になりすぎた世の中を、俺は不便にしか思わない。

仕事はAIが代わりにやってくれる、趣味でもAIが介入してくる、どんな事柄にも、AI、AI、AI……。

俺はもう、この世の中に嫌気が差して、静かに目をつむることにした。


どれくらい時間が経っただろうか。

頭の中で、女性とも男性とも言い難い、中性的な声がする。

「あなたは仕事が好きですか?」

「ああ。好きだったよ。AIがいなければ、俺は普通に仕事が好きだった」

「仕事が欲しいのですか?」

「もう俺が、いや人間だけが出来る仕事なんてないんだよ」

しばらくの沈黙の後、また声は響き出した。

「あなたにぴったりの仕事があります」

「どこの誰だか知らないけど、勧誘ならよそでやってくれよ」

「あなたがAIを管理するのです」

「AIを管理? そんな曖昧なもの、やるわけないだろ」

俺はそっと目を開けたが、そこはもう公園ではなくなっていた。

目の前には暗闇、そして、少し視線を落とすと、綺麗な手だけが、俺に差し伸べられていた。

「さあ、手を取って」

「俺に差し伸べてくれる手なんて、もうないはず……」

「きっと、あなたの知りたい真実が、あなたを待っています」

「……分かったよ」

何を思ったのか、俺はその手を掴み、引かれるままに歩いて行った。


しばらく歩いて辿り着いたのは、無数のパソコンが置いてある空間だった。

「これは、なんだ?」

俺を導いていた手は、いつの間にかなくなっていた。

「ここでは全てのAIを管理しています。画面を覗けば、AIの視点で世界を見ることが出来ます。可能な範囲で、あなたが操作することも出来ます」

頭の中で、あの声がこだましている。

「ここで俺は何をすればいいんだ?」

「ただ見守っていれば良いのです。そして感じたことを素直にこちらに伝える、それがあなたの『仕事』です」

俺は返事もせず、中央に置かれた椅子に座った。


そこからはただずっと、様々なパソコン画面を見つめていた。

最初に見たのは、あの旅行会社のAIだ。

「最近、真新しいアイデアというものが枯渇しているんだ」

「AIに相談しても、同じ答えが返ってくるだけで、これまでの焼きまわしにすぎなくて」

当時の上司と、部長になった同期だった奴が話をしている。

「そう考えると、唐木くんのアイデアは斬新で、少し修正すれば使えたのかもしれないな……」

「今あいつのことを思い出してもどうしようもないですよ。もう少しAIと議論してみます」

会話を聞く限り、あまり上手くいっていないようだ。

同期はパソコンにかじりつき、AIに文章を送り続けている。

その様子を見ている上司は、頭を抱えている。


次に見たのは、あの飲食会社のAIだ。

「どうなっているんだ、売り上げが下がってるじゃないか!」

「申し訳ございません。AIの計算によればこれが最適解でして……」

社長とあのコンサルとの会話だ。

「AI、AIっていうけども、唐木くんがいた時が、売り上げはピークだったんだ!」

「今からでもAIと相談して、方針を改めますので……」

会話を聞く限り、あまり上手くいっていないようだ。

コンサルはパソコンにかじりつき、AIに文章を送り続けている。

その様子を見ている社長は、頭を抱えている。


次に見たのは、当時よく使っていたSNSのAIだ。

「うーん、もっと可愛くならないかなあ」

「分かりやすく指示してるはずなのに、思い通りにならない」

AIでオリキャラを生成しようとしている人たちだ。

「前に依頼した『Karaki』さんは、ドンピシャで良いの描いてくれてたのに」

「あの『Karaki』って人、AI使ってなかったんだ……」

それぞれの反応を見る限り、あまり上手くいっていないようだ。

三者三様に、頭を抱えている。


次に見たのは、あのコールセンターのAIだ。

「AIじゃ話にならないって、クレームが相次いでいるんだ」

統括責任者が頭を抱えている。


次に見たのは、あの食品工場のAIだ。

「AIがチェックした食品の品質、法に抵触しているって通達が……」

工場長が頭を抱えている。


次に見たのは、ゲーム評価サイトのAIだ。

『最近のゲームはどれも同じでつまらない』

『あの『Karaki』氏のゲームをもう一度』

どれもこれも、批判ばかりだ。


長い時間をかけ、様々なAIを見た俺に、あの時の声が問いかけてきた。

「感想を教えてください」

「そうだな、なんだか心が救われた気がする」

「これからどうしたいですか?」

「俺、やってみたいことがあるんだよ」

俺はおもむろに、片っ端からAIを操作し始めた。


あれからまた、かなりの時間が経った。

俺が操作したAIは、軌道修正して、画面の向こうの人たちを笑顔にし続けている。

あの旅行会社も、あの飲食会社も、あのSNSも、あのコールセンターも、あの食品工場も、あのゲーム評価サイトも、みんな上手くいきはじめている。


俺は最終的に、独自のAI『Karaki』を生み出した。

それは世界中に普及し、最も使われているAIとして世の中の助けになっている。

「仕事は、楽しいですか?」

頭の中に響いた声に、俺は自信満々に答える。

「ああ、この仕事は、俺の天職だよ」

俺はAI管理者として、この世界を支え続けていこうと思う。

作者の畝澄ヒナです。

短編ばかり書いている、自称小説書きです。

この作品を読んでいただき、ありがとうございます。

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