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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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8/10

突然の来訪

 ◇5日目


 気がつけば5日目が訪れていた。


 窓から差し込む朝の光が、カーテンの隙間を縫って床に淡い模様を描いている。

あと3日でこの穏やかな休みが終わりを迎えるのか。


 時計の針が静かに時を刻む中、過ぎ去った日々がまるで薄絹の幕を引くようにあっという間に感じられた。


 ソファにもたれ、コーヒーの香りに鼻をくすぐられながら、過ぎた時間を振り返る。


 一人で何もせず、ただ怠惰に過ごす5日間なら、きっと退屈に塗り潰されていただろう。


 でも、ゆあちゃんと過ごしたこの時間は違う。

彼女の小さな仕草や、言葉にならない感情が、灰色の日常に彩りを添えてくれる。

まるで静かな湖面に落ちた一滴の水が、波紋を広げるように、心に柔らかな余韻を残していた。


 残り3日をどう過ごそうか。

ぼんやりと窓の外を眺めると、雲がゆっくりと形を変えていく。

ふと、彼女のことが頭をよぎる。勉強はどうだろうか。


 学校に通っていない彼女にとって、学ぶことは新しい扉を開く鍵になるかもしれない。

知識の花を咲かせるような時間が、彼女の心に小さな光を灯すのではないか。

そんな期待が胸の奥で芽生える。


 小学生向けの教材を買いに行こうかと迷っていると、突然スマホが鳴り始める。


 画面に浮かんだ名前は【畦倉 総一】。

高校時代の友人で、俺が闇金の道に進んだと知っても離れなかった唯一の存在だ。

あの頃の記憶が蘇る。


 卒業式の日、校門の前で笑いながら別れを告げた仲間たち。

その後、闇金の噂が広まると、まるで潮が引くように連絡が途絶えていった。

けど、総一だけは違った。


 年に一度、ふらっと連絡を寄越しては、変わらない笑顔で俺をからかう。

電話の向こうにいる彼の声は、遠い過去と今を繋ぐ細い糸のようだ。


 通話ボタンを押すと、昔と変わらない明るい声が耳に飛び込んできた。


「おっ! 出た出た! おいっすー、おひさ! 今電話に出るってことは、もしかして暇?」と、楽しげに響く。


「久しぶりだな。今ちょうど休みをもらってるけど…悪い、外には出られないんだ」

「なんで!? もしかして、いよいよ女でもできたか!?」


 女は女でも小さな女の子なんだけど…。

頭の中でその説明をどう切り出そうか迷うが、面倒臭さが勝る。


「まぁ…そんな感じだ」と曖昧に流すと、総一の声が一気に弾んだ。

「おいおい…彼女ができたなら、親友の俺に報告するのが筋だろ! どんな子だ?」

「どんなって…普通の子だよ」

「へぇ? そんじゃ、紹介しろよ!」と勢いよく言われた瞬間、インターホンがけたたましく鳴り響いた。


 …まさか。

心臓が一瞬跳ね上がり、恐る恐るモニターに手を伸ばす。

画面には、ピースサインを掲げてニヤつく総一の顔が映っていた。完全にやられた。


 こんな展開、予想もしていなかった。

頭を抱え、深い溜息が漏れる。

どうしてこうなるんだ、と自嘲気味に呟きながら、ソファの背に凭れかかる。


『おーい! いるのは分かってんだぞ! 早く開けろ!』


 総一の声がモニター越しに響き、逃げ場がないことを悟る。


 あいつの性格を考えれば、家に上がった瞬間、好奇心の塊となって部屋中を探索し始めるだろう。

ゆあちゃんの部屋を見つけられれば、全てが明るみに出る。隠し通すのは無理だ。


 でも、こいつは俺の唯一の友達だ。腹を割って話すしかないか。


「ちょっと待て。いきなりすぎるんだよ」

『早く早く!!』


 仕方なくドアを開けると、総一が勢いよく飛び込んできた。


「おー! 1年ぶりくらいなのに全然変わんねーな!」

「そっちこそだよ。とりあえず、ソファに座っててくれ」

「おう!」


 懐かしい笑顔に少しほっとしながら、総一をソファに座らせて一息つく。

リビングの空気が、彼の陽気さで一気に明るくなった気がする。


「今から…紹介するから」と声をかけると、彼がドアプレートに目をやり、「おいおい、同棲してんのかよ! このこの!」と茶化してきた。


 軽く息をつき、ゆあちゃんの部屋のドアをノックする。

そっと開けると、彼女がベッドの端に座っていた。

無表情ながら、鋭い警戒心が彼女の周りを包んでいる。


 見知らぬ男が突然家に現れたのだから、怖がるのも当然だ。

彼女の小さな肩が微かに震えているように見えて、胸が締め付けられる。


「えっと…今、俺の友達が家に来てるんだけど…その…おにいさんのたった一人の友達っていうか…だから、ゆあちゃんのこと紹介したいなって思うんだ」と柔らかく伝える。だが、彼女は首を振る。


 そりゃそうだ。いくらなんでも急すぎた。

この数日で少しずつ積み上げてきた信頼が、こんな形で揺らぐのは俺も嫌だ。

総一には悪いが、紹介はまた今度にしよう。


 そう思って部屋を出ようとした瞬間、勢いよく扉が開き、総一が顔を覗かせた。


「こんにちは〜!! 大親友の畦倉総一でーす! よければ大親友の彼女のツレで美味しいパスタを作ってくれるような子を紹介してくだ…」と、片手を上げてニコニコしながら言いかけたところで、ゆあちゃんを見て動きが止まる。


 ゆあちゃんは慌てて布団を頭からかぶり、貝殻のように閉じてしまった。彼

女の小さな体が布団の中で縮こまる姿に、心が疼く。

俺は咄嗟に総一の頭を軽く叩き、「お前…」と睨んで部屋を出る。


 だが、頭を叩かれたことなど気にも留めず、総一は上半身を硬直させたまま下半身だけが動き出し、ソファに腰を下ろす。


 片手はまだ宙に浮いたまま、数秒後にゆっくり下ろすと、眉間に深い溝を刻み、「…ロリコン…?」と呟いた。


 今回は完全に俺のミスだ。殴る気にもなれず、仕方なく改めて事情を説明する。

闇金の仕事で出会ったこと、彼女を救うために引き取ったこと、全てを包み隠さず話した。


 総一は全てを飲み込んだ後、「いや、それやばくね?」と真剣な顔で言う。


「まぁ…ヤバいのは分かってるよ」


 もし総一が警察に通報すれば、俺は誘拐犯として追われるかもしれない。

でも、近隣の証言があれば伊藤の虐待は白日の下に晒されるだろうし、何よりあいつはゆあちゃんをたった5万円で手放すほど必要としていなかった。


 彼女の存在があいつにとってどれだけ軽いものだったか、思い出すたびに腹の底が熱くなる。


「まぁ、そこら辺は大丈夫だと思うよ」


 いざとなれば…いや、それはやりすぎか。

ゆあちゃんのことを知れば知るほど、あいつへの憎しみが燃え盛る炎のように膨らんでいく。


「それならいいけどさ。あんま危険なことはすんなよ」

「おう」

「そんじゃ、俺は邪魔だと思うから帰るかな。また今度遊ぼうぜ」

「おう」


 総一が帰った後、リビングに静けさが戻る。

ふと、ゆあちゃんの部屋の扉が僅かに開き、隙間からこちらを覗く彼女の姿が目に入った。


「ごめんな、もう帰ったから大丈夫だよ」

「…」

「…ん? どうしたんだ、ゆあちゃん?」

「…ごめんなさい…私のせいで…」

「あー、いや、全然いいんだよ。あいつの顔見れただけで、おにいさんは満足だから」

「…迷惑…じゃないですか?」

「迷惑なんかじゃないよ。おにいさんはゆあちゃんと一緒にいたいんだ」

「…」


 彼女はゆっくりと扉を閉めた。

その瞳に何が宿っていたのか、言葉にできない思いが彼女の中で渦巻いているのだろうか。


 小さな背中に寄り添うように、心の中でそっと手を差し伸べる。


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