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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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偶然の再会

 映画館は最近リニューアルしたばかりらしく、以前訪れた時とはまるで別世界だった。


 外壁には光沢のあるパネルが張られ、入口の自動ドアはガラス越しに内装の豪華さを覗かせている。


 ロビーに足を踏み入れると、シャンデリアのような照明が柔らかな光を放ち、床には深紅のカーペットが敷かれていた。


 ポップコーンの甘い香りと、どこからか漂ってくるコーヒーの匂いが混じり合い、不思議と心が浮き立つような雰囲気だ。


「おぉ、すごいな。久々に来たけど、こんな豪華になったんだ」と俺は呟きながら、周囲を見回した。


「先輩はどういうジャンルが好きなんですか?」アイラが俺の横で首を傾げて聞いてくる。


「俺か?ミステリーとかかな。あとはアクションも悪くない」と答えると、アイラは目を丸くして少し笑った。


「へー、ミステリーっすか。僕には頭使うの難しそうだからパスで!アクションにしましょー!」と、勢いよく上映スケジュールが並ぶデジタルボードの方へ駆け出した。

秋野さんが無表情のままその後を追う。


 その一方で、ゆあちゃんは俺の手を握ったまま、映画館の華やかな雰囲気に目を奪われていた。


 普段は無表情に近い彼女の瞳が、今日はキラキラと輝いている。


 大きなシャンデリアを見上げたり、カーペットのふかふかした感触を確かめるように足を少し強く踏みしめたり。

初めての場所に心が躍っているのが伝わってくる。


「映画館、来たことなかったもんね?」俺が優しく声をかけると、ゆあちゃんは少し恥ずかしそうに頷いた。


「...はい。...すごいです」と、小さな声で呟く。


 彼女の視線は、ロビーを歩く人々や、壁に貼られた色鮮やかな映画ポスターを追っていた。


「うん、すごい綺麗だよね」と言うと、ついその可愛さに負けて、彼女の頭に手を伸ばして撫でてしまった。


 すると、ゆあちゃんはほっぺを少し膨らませて、「...私、子供じゃないです」と抗議してきた。


 その表情があまりにも愛らしくて、思わず笑いがこみ上げる。


「そっかそっか、ごめんね」と謝りながら、彼女の手を握り直してアイラたちの元へ向かった。


 アイラと秋野さんは、上映中の映画リストを前に興奮気味に話し合っていた。


「これ良くない!?」とアイラが指差したのは、アクション映画の最新作。


 派手な爆発シーンが映し出されたポスターが目を引く。


「…おー、そのシリーズなら俺も見たことあるぞ」と言うと、アイラが目を輝かせて振り返った。


「マジっすか!?じゃあ、これにしますか!」と盛り上がる中、ふと俺の手がグイッと引っ張られた。見下ろすと、ゆあちゃんが小さな指で別のポスターを指している。


「...ん?どうしたの?」と尋ねると、彼女は少し躊躇いながらもはっきりと言った。


「...あれ見たいです」


その指の先には、どう見てもホラー映画のポスターがあった。


 暗い背景に浮かぶ不気味な人影、血のように赤いタイトル文字。

嘘だろ…?


「…え、ゆ、ゆあちゃん。あれって…その…怖いやつだよ?俺、実は怖いの苦手でさ…」と助けを求めるようにアイラと秋野さんを見ると、二人は揃って視線を逸らした。


 アイラに至っては、わざとらしく「ひゅーひゅー」と口笛を吹く真似までしているが、言ってるだけで鳴ってない。


 ゆあちゃんは俺の言葉を聞いて、少し首を傾げると、上目遣いでキラキラした瞳を向けてきた。


「私がいるから大丈夫だよ」と、小さな声で、でも確信を持ったように言う。


 そのあまりの可愛さに、心臓を撃ち抜かれたような衝撃が走る。

断れるわけがない。


「…分かったよ。うん、見よう…」と諦めたように呟くと、ゆあちゃんは小さく「やった」と呟いて、満足そうに俺の手を握り直した。


 こうして、アイラと秋野さんはアクション映画、俺とゆあちゃんはホラー映画を見ることになった。


 ◇


 チケットを購入し、飲み物とポップコーンを手にしたものの、俺の胃はすでにキリキリしていた。


 上映開始までの数十分が、まるで死刑宣告を待つ囚人のように感じられる。


 隣でゆあちゃんは、ポップコーンを小さな手で摘まみながら、「私がいるから大丈夫ですよ」と何度も声をかけてくれる。


 その度に、「ありがとう…」と力なく返す俺。

11歳の少女に励まされる23歳の情けなさったらありゃしない。


 映画館のロビーは賑わっていて、家族連れやカップルが楽しそうに談笑している。


 ゆあちゃんはそんな様子を興味深そうに見つめながら、お腹が減ったのかポップコーンを口に運ぶ。


 初めての映画館に興奮しているのが、彼女のちょっとした仕草から伝わってくる。


 飲み物のストローを握る手が少し強かったり、ポスターを眺めるたびに小さく「わぁ…」と漏らしたり。


 普段は感情をあまり表に出さない彼女が、こんな風に無邪気になっているのを見るのは新鮮だった。


 やがて時間が来て、俺たちはそれぞれのシアターへ向かった。


 ゆあちゃんと手を繋ぎながら暗い通路を進むと、彼女が少しだけスキップするような歩き方になった。


 映画が始まる前のワクワクが抑えきれないらしい。

俺はそんな彼女を見ながら、内心『可愛いな...』と思う一方で、これから始まる恐怖に震えていた。



 ◇


 スクリーンに映し出されたのは、義妹を名乗る不気味な少女が一家を崩壊に導くホラー映画だった。


 ストーリーよりも、突然の大音量やグロテスクな映像で観客を驚かせるタイプの作品だ。


 映画が始まって数分もしないうちに、俺の体はビクンと跳ね上がり、ゆあちゃんの手を思わず強く握ってしまった。


「…大丈夫ですか?」と彼女が小さな声で聞いてくる。


 スクリーンの暗い光が彼女の顔を照らすと、不思議と怖がっている様子はなく、むしろ興味津々といった表情だ。


「…う、うん。大丈夫…」と嘘をつきながら、隣にいる彼女にしがみつくように体を寄せた。大きな音が鳴るたびに肩が跳ね、怖いシーンでは目をぎゅっと閉じてしまう。


 ゆあちゃんの手は小さくて柔らかくて、俺にとって唯一の救いだった。


 映画が進むにつれ、俺の心臓はバクバクと鳴り続け、冷や汗が背中を伝う。


 義妹がナイフを手に持つシーンでは、思わず「うわっ」と声が漏れてしまい、ゆあちゃんがクスクスと笑った。


「…平気ですよ。私が守りますから」と囁かれ、情けない気持ちと感謝が混じり合う。


 1時間半が過ぎた頃、ようやく映画が終わりを迎えた。


 俺はげっそりと疲れ果て、足がフラフラしながらゆあちゃんに支えられてシアターを出た。


 彼女は平然としていて、むしろ満足そうな笑みを浮かべている。


 ホラー映画を楽しめる11歳って何だよ…と内心呆れつつも、その頼もしさに少し癒された。


 アイラと秋野さんの映画は2時間上映らしく、あと30分ほど時間があった。


 ロビーの小さなソファに腰を下ろそうとすると、ゆあちゃんが自分の膝をポンポンと叩いて、「膝枕してあげますよ」と無言でアピールしてきた。

 

 その仕草があまりにも自然で、断ったら彼女が悲しむんじゃないかと一瞬迷う。


『…これは通報物じゃないか?』と頭をよぎったが、彼女の純粋な好意を無下にするのも忍びない。


「…お膝借りるね」と呟き、そっと頭を預けた。


「…はい。よしよーし」と、ゆあちゃんが俺の頭を小さな手で撫でてくる。


 いつもは俺が彼女を慰める側なのに、今日は完全に逆だ。


 目を閉じると、彼女の膝の柔らかさと小さな手の温もりが心地よくて、少しだけ心が落ち着いた。


「…ありがとうね」

「…いえいえ。いつもお世話になってるので」と、彼女が優しく答える。


 その声に癒されながら、うとうとしかけたその時――。


「あら〜、こんなところで会うなんて、偶然ってあるもんですねー」


 背筋が凍りつくような声が響いた。


 聞き覚えのある、嫌な予感しかしないその声。


 体を起こすと、そこにはラフな私服姿の刑事・進藤が立っていた。


 ジーンズにカジュアルなジャケット、まるで本当にプライベートを楽しんでいるかのような格好だ。


「…そんな偶然があるかよ」と吐き捨てるように言うと、進藤はニヤリと笑った。


「いやいや、本当に偶然ですよ。私にだって休日くらいありますからね」

「…偶然なら俺たちはここから離れるけど?」と立ち上がろうとすると、彼が一歩近づいてきた。


「それはご自由に。ただ…一つだけ質問していいですか?そちらのお嬢さんのお父さん…どうやら行方不明になってるみたいでね。何か知らないかなと思いまして」


 心臓がドクンと跳ねた。

ゆあちゃんの手を握る力が無意識に強くなり、彼女が少し驚いたように俺を見上げる。


 進藤の目は笑っているのに、その奥に鋭い光が宿っていて、まるで俺の心を見透かそうとしているようだ。


「…知りません」と短く答えるのが精一杯だった。


「そうですか。それなら良かった。良い休日を」と、不気味な笑顔を残して進藤は踵を返した。


 俺はその背中を見ながら、全身に冷や汗が広がるのを感じた。


 アイラに急いで連絡を入れ、ゆあちゃんの手を引いてその場を離れた。


 遠くから進藤の動きを確認すると、彼は本当に映画館の中に入っていく。


 プライベートなのか、それとも何か企んでいるのか分からないが、とにかく距離を取ることにした。


 アイラと秋野さんと合流し、足早に映画館を後にした。


 追跡されている気配はないものの、緊張が解けないまま、俺の家に4人で帰宅した。


 時計を見ると、16時を少し回ったところだった。


 家に着いても、心のざわつきは収まらない。


 あの刑事の不気味な笑顔が頭から離れず、ゆあちゃんの手を握る力が少し強くなっていた。


 彼女はそんな俺を心配そうに見つめながら、「…大丈夫ですか?」と小さな声で聞いてきた。


「ああ…うん、大丈夫だよ。ありがとう」と笑顔を作って答えたが、内心では進藤の言葉がぐるぐると回っている。


 俺たちの平穏な日常に影が忍び寄っている気がしてならなかった。

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