先輩、デートしましょう
「...先輩。僕は怒ってるっす」
助手席に座ってるアイラが小さくそう言った。
「...怒ってる?なんで?」
「...なんでじゃないっすよ。デートしてくれるって話はどこに行ったんすか?僕、忘れてないっすよ」
「...あー...悪い...すっかり忘れてた...。でも、秋野さんもゆあちゃんもいるしな...」
「約束を反故にするきっすか!?」
「いや...そうじゃないけど...実際あの二人をそのままにはできないだろ」
「そうっすけど...そうっすけど!」と、ハンドルを握っている左手を揺らしてくる。
「おまっ!?危ないだろ!」
「そうっす!ちゃんとデートの約束を今!ここで!言ってくれないなら...二人で...このまま...!」
「わかった!わかったから!社長に頼んで秋野さんとゆあちゃんは事務所に預けるように言うから!それでいいだろ!!」
「ういっす!」と、嬉しそうに助手席ではねるアイラ...。
俺なんかとデートして何が楽しいんだろう...。
そんなことを考えながら取り立てに向かっていた。
30分ほど経過し、たどり着いたのはどう見ても闇金に頼る必要性が皆無のような立派な一軒家だった。
「...なんだ...この家...。この角川って何者だ?担当はアイラだろ」
「うーん...よくわからないんすよね。見た目はどこにでもいる普通の男って感じっすね。まぁでも、一回お金持ちになると金銭感覚がバグって、しかも見栄っ張りだから裕福な生活をやめられない的な。そういうたぐいのやつじゃないっすか?でも、1か月前くらいに借りてから滞納したことは一回もなかったんすけどねー」
「それにしたって、20万なんて雀の涙もいいとこだと思うけど。まぁ...そういうやつも絶対にいないわけじゃないけどさ...なんか...ちょっと匂うよな」
やや怪しさを感じながらもインターホンを押す。
ちなみに基本的には債務者一人に担当が一人だが、アイラはまだ新人ということもあり、滞納した場合には先輩である俺が同行していた。
すると、すぐに一人の男が家から出てくる。
その見た目は確かにアイラのいう通り...どこにでもいる普通の男という感じだった。
「あっ、すみません...すっかり払うの忘れてまして...えっと...いくらでしたっけ」
「...延滞料金含めて、10万円ですね」
「あぁ、じゃあ元金含めて30万円ってことですね。お金に余裕ができたので、今元金含めて払っちゃいますね」と、ぽんとお金を出す。
やっぱ...なんかおかしいぞ。
瞬間で20万が欲しかったなんてことあるか...?
そう思っていると、ポツリとつぶやく。
「...莉乃葉は元気ですか?僕と会えなくて寂しがってませんか?」と、ニヤッと笑う。
「...っは...そういうことか...。初めまして...だな。このイカレ野郎」
「...おいおい...こっちはお客さんだぞ。イカレ野郎はないだろ」
「...?」と、この状況でも何が起こっているのかわからないといった感じのポカン顔を決めるアイラ。
「...でもいいのか?顔も名前もさらしちゃって」
「問題ないね。けど、もう少し驚いた表情してくれると思ったのに...なんで気づいてんだよ。つまんねーな」
「...秋野さんのこと...諦めたわけじゃねーよな」
「...当たり前だろ。俺は愛してるんだから」
「ん?同級生っすか?」と、空気を読まずそんな質問をしてくることで、少しだけシリアスな空気が和んでしまう。
「...」「...」
「...おい。そろそろ状況説明してやれよ」と、言われてしまい、渋々状況を説明する。
「...あのな...こいつは...ほら...遊園地の時のこと覚えてるか?ほら、秋野さんの元カレだよ」
「...あー...あ~...あー!!成敗するっすか!?」と、ファイティングポーズを取るアイラ...。
あぁ...なんか俺まで恥ずかしくなってきた。
「...闇金も相当な人材不足のようだな。てか、この人に取り立てとかできるのか?...いや...だからあんたが付き添ってるってことか...大変だな」と、くそ人間に同情される始末だった。
「...それで?わざわざこうして会ったってことは...なんか用があったんだろ?」
「別に。ただ、多分あんたらは勘違いをしてると思ったからな。その訂正をしておこうと思って」
「勘違いだと?」
「...あぁ。お前...あの女がやったこと知ってるんだろうな?」
「...やったこと?」
「...はっ、知らずに俺のことを責めてたのか。まぁ、あの状態になったらまともに会話もできねーか。言っておくが俺をこんなにしたのはあいつが原因だ。ストーカーの被害妄想とかじゃねーぞ。まぁ、どうしても話が聞きたくなったらいつでも来い。俺も闇金の人間を敵に回したくはないからな」
...確かに。そもそも俺はこいつが何をしたのかも秋野さんが何をしたのかも知らない。
「...まぁ、一方的にどちらかの話を聞いて判断することはしねーよ。こういう職業柄、嘘つきにはたくさん会ってきたからな」
「それ聞いて安心した。じゃあな、山坂」
「...」
名前まで割れてるか...。
だけど、こちらも名前と住所は把握できた。
リスクを冒してまで接触してきたということは...本当に...。
とりあえず、秋野さんから話を聞かないとだな。




