変化
あれから2週間ほどが経過した。
俺の予想に反して、あの刑事はまだ俺の家に来たりはしていなかった。
もし、社長のいう通りなら...偽の遺体を警察が用意したのなら...こちらではもうどうしようもない...。
それに、やつの悪行を世の中にさらすと社長は言っていたが...どうやって晒すのだろう。
下手にこちらが嗅ぎまわれば、やつはすぐに気づくはず...。
それと...もう一つの問題である秋野さんについても、現時点では何も動きはなかった。
アイラが匿っているおかげか。
あと...ゆあちゃんが少しだけ距離を感じるようになった。
いや...本当はそんなつもりはないのだろうけど、殺したのが恨んでいた人間とは言え、殺人鬼と同じ空間で生活するのはゆあちゃんにとっては結構なストレスかもしれない。
...いや...俺自身がそう思い込んでいるだけなのかもしれないが。
どんな理由であろうと殺人は殺人だ。理由があれば人を殺せる人間というのはこの平和な日本ではそう多くはないだろう。
殺したこと自体に後悔はない。
後悔はなくても振り返ってしまうのが人間だ。
「...深刻そうに考えても仕方ないか」と、呟いているとインターホンが鳴る。
モニターを確認するとそこにいたのは総一だった。
「...どうした急に」
『よっ!今日は暇か?遊ぼうぜ!』
ちらっと閉まり切ったゆあちゃんの部屋を眺める。
「ちょっと確認してくる」と、ゆあちゃんの部屋の扉をノックする。
すると、「...どうしました?」と小首をかしげながら出てくるゆあちゃん。
「...あぁ...総一が...来てさ。ちょっと家で遊んでもいいか?」
「...私は大丈夫ですよ」というと、また部屋に戻っていった。
...距離を感じるのは...やっぱり気のせいじゃないよな。
少し落ち込みながら、「...入っていいぞ」と総一に伝えた。
そして、1分後くらいにハイテンションな感じで家に入ってくる。
「おいーっす!おいしいワインとおつまみ買ってきたぞ~!」
「...おうって...こんな朝っぱらから酒かよ」
現在の時刻は朝の9時である。
「べっつにいいだろ~?てか、今日休みか!らっき~!」
「...いっつも結構休みの日に来てる気がするんだけど...俺がいない日にも結構来てるのか?」
「下の駐車場に車がある日はとりあえずピンポン押してるな!」
「どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「大親友だからな!って、ゆあちゃんは?」
「...部屋にいるよ」
「ふーん。そっか...。後でおしかけちゃおうーっと」
「...嫌がることはするなよ」
「わっーてるわーってる~」
そうして、勝手にワイングラスを持ってくると、ワインだというのに表面張力ギリギリくらいまで入れる。
「...入れすぎだろ」
「いいんだよ、どうせ飲むんだから!そんじゃ...えっと...かんぱーい!」
「...かんぱ~い」と、ワインがこぼれないように慎重に乾杯をする。
ゆあちゃんと一緒に暮らす前は結構酒も飲んでいたんだが...そういえば最近酒もたばこも自然と止められていた気がする。
「...うかねーかおしてんな。あの事...後悔してんのか?」
「...後悔はしてない...。やっておいてよかったというのは...思ってるし、わかってる。それでも...な」
「...唯斗は昔から繊細なんだからよ。闇金のことを天職みたいに言ってるけど、俺はあってねーって思ってんぞ。特にゆあちゃんと今後一緒に暮らしていくならなおさら、普通の仕事のほうがいいと思うがね」
それは...正論だ。
しかし、高卒で何のスキルもなく、挙句は前職は闇金となると普通に働くことは絶望的に見えた。
「...そういう総一はどうなんだ?弁護士になるための勉強、ちゃんとしてんのか?」
「もち!毎日コツコツな。俺はお前と一緒で馬鹿だからな。人より何倍も努力しないと多分資格を取れない。資格を取ったところで、どこかの法律事務所が俺を雇ってくれるとも思わないから...自分で会社作ることになるのかな。あっ、そうだ。もし会社を作ったら唯斗のこと雇ってやるよ。掃除婦としてなw」
「...それなら闇金つづけるっつーの」
「ゆあちゃんは勉強どうするんだ?将来のことをまじめに考えるなら、ある程度勉強ができないと...。前に調べたら、中学や高校を出ていなくても、なんか試験受けて合格したら、そういう証明書的なの発行してくれて、大学に行けたりもするらしいぞ。集団生活が厳しいなら高校は通信制もあるし、そういうのでもいいと思うが」と、予想以上に調べてくれていたみたいだ。
「...最近、勉強したいって言われてとりあえず教材はたくさん買ったから。あとは本人のやる気次第になるだろうな。俺は馬鹿だから勉強は教えられないし...基本独学で頑張ってもらうしかないんだけどな」
部屋にこもっている理由が単純に勉強にはまっているというのならいいのだが...。
部屋で何をしているかは知らないし、教えてくれない。
「なるほどな...俺も今中学の勉強くらいからやり直してるから、もしかしたら俺なら教えられるかもな!」
「...お前が教わるまでありそうだけどな」
「それな!」
そうして、昼くらいまで飲むと、相変わらずお酒に弱い総一はソファでぐっすりと眠り始める。
一人になり、テレビを見ながらちまちまとワインを飲んでいると、部屋からゆあちゃんが出てくる。
「...また寝てる...」と、総一を見ながらつぶやく。
「...こいつ、お酒弱いからね。あっ、お昼ご飯なら俺が作っておいたよ」と、冷蔵庫に残っていたもので作ったチャーハンを指さす。
「...おいしそうですね...」
「まぁ、所詮余りものだから。あんまり期待しないでくれ」
そんな言葉とは裏腹に嬉しそうにチャーハンを食べ始める。
「...最近、部屋にこもってるけど...勉強してるの?」
「...はい。勉強もしてます...」と、わざと含んだようにそう言った。
それ以外のことは教えてくれなさそうだ。
二人でチャーハンを食べ終わると、久々にゲームをすることになった。
そうして、二人で盛り上がっていると気持ち悪そうな顔した総一がムクっと起き上がる。
「...うう...気持ち悪い」
「酒弱いのにあんなワイン飲むからだろ。水飲んでおけ」
のそのそと起き上がると、ゆあちゃんを発見する総一。
「あ~、お邪魔してまーす」
「...お邪魔されてます...」
「あっ、もしかしてお二人でイチャイチャしてたのか?こりゃ~失敬失敬」と、デリカシーのかけらもない発言をしながら、キッチンに向かっていった。
すると、俺のことを見上げながらゆあちゃんは小さい声で「...イチャイチャ...したいです」とつぶやいた。
なので、俺は頭をぽんぽんしてあげると、「...そういうのじゃないです...」と、照れながらも不服そうな顔をする。
少しだけ前までのゆあちゃんとは変わってきている気がした。




