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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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クズ④

 あのクズを叩き起こすと、目が覚めた瞬間、顔が怯えで歪んだ。


 額に汗が滲み、縛られた手足がガタガタ震え出す。


「お、俺は…悪くないッ!許してくれっ!俺は脅されたんだ!あの刑事に…ッ!」


 正気に戻ったのか、いつもの言い訳が口から溢れ出す。

声が掠れ、目がキョロキョロと俺と総一を交互に見る。


「…質問に答えろ。ゆあちゃんを家に帰して…どうするつもりだった」

「そりゃ、今までのことを反省してッ!これからは優しく…!」


 言葉が早口で飛び出し、口元が震える。


「…じゃあ、なんでお前は今働いてないんだ?家のことも何もしてないんだ。そんなんでどうやって、ゆあちゃんを幸せにするつもりなんだ」

「それは…あの…こ、これから…しようと考えていて…」


 目を逸らし、額の汗が顎まで滴り落ちる。


「…斉藤さん。どう思いますか?」


 斉藤さんが倉庫の隅から一歩踏み出す。

長身で無表情、取り立てのプロフェッショナルだ。


 腕を組んだまま首を軽く振って、「聞くまでもねえだろ」と鼻で笑う。

鋭い目がクズを一瞥し、冷たい空気が漂う。


「な、なんだよ…なんだって言うんだよ。おい…ひ、人を殺して…いいと思ってるのか!?」


 クズが椅子に縛られたまま身をよじり、ロープが軋む音が響く。


「…あの時のゆあちゃんは死んだも同然だった。被害者ヅラはやめてくれよ」と返すと、彼の目がさらに見開いた。


「お、俺を殺せば…あの刑事が黙ってないぞ!絶対にお前を…捕まえる!」

「…そうだな。けど、せいぜい10年程度だろ。お前を殺したら今日の夜は宴だな。飲んで、笑って、騒いで…近所の人たちもお前の死を喜んでくれるだろうな。お前の奥さんも…これで平穏な日を送れる。そして、10年も経てばお前のことなんか誰も覚えていない」


 その言葉に、クズの体がガタガタと激しく震え出す。


 顔が真っ青になり、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。


「ごめん…なさい…ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい!許してください!許してください!許してください!」と、泣き喚き、椅子が揺れるほど暴れる。


「…お前はそう言って助けを求めたゆあちゃんを助けたのか?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 死ぬ間際まで自分のことしか考えてない。

他人がどうなろうが、自分がどうだったかなんて一切顧みない。

…生かしておいても、誰のためにもならない。


「…本当に自分でやるのか?」


 総一が隣で静かに問いかける。

暗い倉庫の光が彼の顔に影を落とし、真剣な目がこっちを見てる。


「…はい。これだけは…俺がやらないといけないんです」

「やめろ…やめろー!!!!」


 クズの叫びが倉庫に反響し、埃が微かに舞う。



 ◇


 帰りは総一に運転してもらった。

助手席に座る俺の手はまだ震えてる。


 窓の外を流れる山道の木々がぼやけ、エンジンの低い唸りが耳に響く。

血の臭いが鼻に残り、服に染み付いた汗が冷たく感じる。


「…強がってたくせに…このザマか。あんなやつでも…殺したことに少なからずの罪悪感を感じてるのかな」


 総一がハンドルを握りながら、チラッとこっちを見る。


 声は軽いが、目が真剣だ。


「…人間は考えられる生き物だからな。もしとか、たらればで、選択しなかった世界を夢見るものだ。例えば、あのじじぃが改心して、ゆあちゃんとも仲直りしてなんて…妄想の世界でならいくらでも幸せは描ける。選ばなかった世界での幸せを妄想するくらいなら、その妄想よりいい現実を描こうぜ」


 いつになく真剣な総一の横顔に、思わず笑みがこぼれる。


 目尻に微かなシワができ、夕陽が彼の髪を赤く染めてる。


「…んだよ、笑いやがって。たまに真剣に喋ったらそれかよw」と総一が肩をすくめる。

「いや、似合わねーなって。けど、ありがとうな。俺…頑張るよ」


 少し走ると、総一が急に口を開いた。


「…おう。そういや、俺…ちょっと夢ができたんだよな」

「なんだよ、いきなり。どんな夢だ?」

「…弁護士になろうと思ったんだ。人を助けるボランティア弁護士みたいな?」

助手席から見る彼の目は、どこか遠くを見てるようだ。「…お前ならなれるよ」

「…笑わねーのかよ。俺が弁護士だぜ?」

「笑うほど無謀には思えない。頑張れ」

「…おう」


 そっか…お前は弁護士になったんだな。


 ◇


 家に帰ると、部屋は真っ暗だった。

玄関の靴が揃ってて、静寂が重く響く。

時計を見ると19時。

まだ寝るには早い。

まさか…あの刑事に!?


 心臓が跳ね上がり、急いでゆあちゃんの部屋へ駆け込む。


 ドアを勢いよく開けると、ベッドに横たわる小さな影。

ゆあちゃんが毛布にくるまり、穏やかな寝息を立ててぐっすり眠ってる。


 良かった…でも、こんな時間に寝てるなんて珍しい。


 ほっとした瞬間、今日の出来事が脳裏にフラッシュバックする。


 血の臭い、クズの叫び声、震える手…。胃が締め付けられ、気持ち悪さが込み上げる。


 急いで洗面所に駆け込み、洗面台にしがみついてえずく。


 唾が喉に引っかかり、吐き気が止まらない。自分は神経が太いと思ってたのに…。

こんなんじゃダメだ。

あの刑事に簡単に看破される。


 あいつが消えたことはすぐ突き止めるだろう。

そして、真っ先に俺を疑う。


 その時にこんな状態じゃ、「やりました」と白状してるようなものだ。

水をかぶって顔を洗い、冷たい滴が首筋を伝う。


 洗面所を出てリビングへ向かうと、テーブルの上に一枚の紙が置いてある。


 …なんだ?電気をつけると、白い紙にゆあちゃんの少し歪んだ文字が並んでる。


『いつもありがとうございます。本当に感謝してます。これからもずっと一緒にいて欲しいです。ご飯は温めて食べてください』


 眠い中で書いてくれたんだろうな。

フラフラした字に温かさが滲む。


「…うん。ずっと…一緒に居ような」と、文字を指でなぞりながら呟く。


 大変な日だったからか、その夜は久々に悪夢を見た。



 ◇


 子供の頃の口癖は「ごめんなさい」だった。


 父は医者、母は弁護士。


 裕福で厳格な家に生まれた俺は、両親や周囲から大きな期待を背負わされてた。


 広いリビングには本棚が並び、父の医学書と母の法律書が威圧的に鎮座してる。


 でも、生まれた俺は全然賢くなかった。

むしろ馬鹿な部類だ。


 言葉を覚えるのも遅く、友達とスラスラ喋る才能も、運動神経もなかった。


 ただの不出来な子供。

物心がつく頃には、両親は俺に期待しなくなってた。


 それでも「人並みであれ」と強要され、泣き喚いて嫌がる俺に無理やり勉強を押し付けてきた。


「あんたは馬鹿なんだから」が母の口癖だった。冷たい声がダイニングに響き、鉛筆を持つ手が震えた。


 小学生の頃は家庭教師のおかげで何とか点数を取ってたけど、私立中学にギリギリ合格したことで人生が暗転した。


 中学の勉強は桁違いに難しく、あっという間に置いてかれ、最初の大きなテストで全教科50点前後を叩き出した。


 答案用紙を握り潰し、机に突っ伏したあの日が忘れられない。


 それで両親は完全に俺を見放した。


 家では無視され、暴言が飛び交う。体罰はなかったけど、言葉の暴力は容赦なかった。


「お前なんか産まなきゃ良かった」が父の口癖だった。


 低い声が書斎から漏れ、俺は部屋の隅で膝を抱えた。


 中3の期末テストで、初めて全教科70点台を取った。


 嬉しくて、「俺だってやればできる」と父に見せに行った。


 テストを手に持つ父は鼻で笑い、目の前でビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。


 そして、「お前なんか産まなきゃ良かった」と吐き捨てた。


 その言葉が胸に突き刺さり、涙が溢れた。



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