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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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ゆっくりと

 1時間ほど経ってから、部屋のドアをそっと開けて覗いてみると、彼女はまだベッドの隅で体を丸めて眠っていた。


 膝を胸に引き寄せ、布団に半分隠れた小さな姿は、まるで嵐を避ける小動物のようだ。


 もっと伸び伸びと寝てほしいと思ったが、長年染みついた癖はそう簡単に抜けるものじゃない。


「……さて、どうしたもんかな」


 呟きながら、俺は首を軽く振った。


 闇金の仕事を始めてから、休みなんてほぼ取らずに働き続けてきた。

1週間もの空白が目の前に広がると、何をすればいいのか頭が回らない。


 とりあえず、気持ちを落ち着けようと、キッチンに向かいコーヒーを淹れることにした。


 ポットに水を注ぎ、豆の香りが漂うのを待っていると、突然ベッドの方から鋭い叫び声が響いた。


「やめてぇー!! 助けてぇッ!! お母さんっ!!」


 マグカップを置いたまま部屋に駆け込むと、彼女は目を固く閉じ、震える手で布団を掴んで叫び続けていた。


 額には汗が滲み、頬が引き攣っている。

おいおい、マジかよ、と内心で呟きながら、心臓がドクドクと跳ねた。


「だ、大丈夫か!?」


 慌てて彼女のそばに近づき、頬を軽く叩いて起こそうとする。

すると、彼女の目がパッと開き、次の瞬間、恐怖に歪んだ顔に変わった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、殴らないでください蹴らないでください犯さないでください、黙りますから許してください」と、震えながらベッドの端に縮こまり、両手で頭を抱える。


 その怯えた声と縮んだ姿に、胸が締め付けられた。


「お、落ち着け。俺は殴らないし蹴らないし、そんなことしないから。大丈夫だ、安心しろ」


 少し距離を取って、柔らかい声で何度も繰り返した。


 でも、彼女は耳を塞ぎ、同じ言葉を呪文のようにつぶやき続ける。

俺も負けじと、同じ言葉を根気強くかけ続けた。


30分ほど経つと、彼女の震えが少しずつ収まり、呼吸が落ち着いてきた。


 でも、その目はまた虚ろに戻っていた。

光が消えたガラス玉みたいに、何も映さない。

俺の接し方が次第で、彼女に余計な負担をかけるかもしれない。


 しばらくは、一人で過ごせる時間を作ってやらないとな。


「……落ち着くまでゆっくりしてていいから。とりあえず、お茶とお菓子置いとくから、気が向いたら食べていいよ」


 そう言って、俺は静かに部屋を出た。


 本当なら病院に連れて行くのが正解なんだろう。

でも、彼女はまだ10歳くらいだ。


 一人で病院に行くなんて無理だし、俺が連れて行けば、まず間違いなく怪しまれる。


 闇医者のツテはあるが、骨折や病気を診るような奴はいても、心の傷を扱う闇医者なんて聞いたことない。


「…独学でやるしかないか」


 勉強は大の苦手だが、背に腹は代えられない。

スマホを取り出し、検索を始めた。


 どうやらこういう状態を「PTSD」と呼ぶらしい。


 学校を適当に流してきた俺には初耳の単語だが、世間じゃよく知られたものらしい。長い時間が必要で、完治する保証はない。

一生付き合う人も少なくないって。


 まずは、ストレスを感じさせない環境を作ることが大事か。


 通販で頼んだものが届くまで時間がかかる。

彼女専用の部屋を整える前に、俺はリビングで過ごして、彼女には俺の部屋を自由に使ってもらうのがいいかもしれない。


 そうすれば、少しは安心できる時間が持てるだろう。

夕方になっても彼女が出てこないのが気になり、遠くから「何かあったら呼んでくれよ」と声をかけてから、ノックして部屋に入った。


 彼女はベッドの隅で膝を抱え、壁に寄りかかっていた。

置いておいたお茶と菓子は、手つかずのまま冷たくなっている。


「…何かあったら呼んでな?」


 そう伝えて、そっとドアを閉めた。

焦っても仕方ない。こればかりはどうしようもないか。


 夜ご飯をどうするか考える。

出前も楽でいいが、手作りの方が彼女に安心感を与えられるかもしれない。

栄養を考えつつ、少量で力がつくものがいい。


 彼女はご飯が好きって言ってたから、それに合う何か…。

考えていると、部屋のドアが小さく軋んで開いた。


「…ん? どうした?」

「…とい…れ…」

「あぁ、トイレか。あっちだよ」と、玄関の方を指す。


 彼女は頭を下げ、細い足を小さく動かして歩いて行った。


 その背中があまりにも頼りなくて、目を離せなかった。


 よし、カレーにしよう。

野菜もたっぷり入れられるし、少し多めに食べられるかもしれない。


 でも、家を見回すと、冷蔵庫はほぼ空っぽ。

買い物に行くのも面倒だ。

結局、カレーを出前で頼むことにした。


 トイレから戻った彼女は、また部屋に引っ込んでしまう。


 夜ご飯が届くと、テーブルにカレーを並べ、黙って二人で食べ始めた。


 スプーンを握る彼女の手は小さく、カレーを口に運ぶ仕草は慎重だった。


 食べ終わると、軽くシャワーを浴びるよう促し、湿布を新しく貼り直す。

火傷の跡が赤く浮かぶ肌に触れるたび、心がチクリと痛んだ。


 髪を乾かし、歯を磨かせると、彼女は無言でベッドに戻った。俺もそろそろ寝るか。


 明日は手続きのために役所に行くか…いや、待てよ。

そんなことしたら社長にバレるかもしれない。

警察や児童相談所に目を付けられるのもまずい。

迂闊に動くのは危険だな。


 友達でもいれば相談できたんだろうが、こんな生活じゃそんな縁もない。


 ソファに寝転がり、頭の中でぐるぐる考えていると、疲れが一気に押し寄せてきた。


 いつの間にか、俺は眠りに落ちていた。


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