クズ①
...問題を一つずつ解決しないとな。
抱えている問題は3つ。
ゆあちゃんの父親の問題。
あの刑事に頼まれた社長の問題。
そして、秋野さんの問題...。
あの刑事の一件は時間的な猶予があるし、秋野さんの問題はまだまだわからないことだらけだ。
そうなると...必然的に残ったのはゆあちゃんの父親...あのクズの一件からか。
あのクズは元々問題を起こしていたことと、あの刑事たちが色々と動いてくれているおかげ(といっても決して善意での行動ではないが)で、今のところ問題にはなっていないが、狂ったあいつが何をしでかすかは分からない。
この問題を解決できれば刑事の脅しもなくなるわけで...場合によっては秋野さんの一件に協力させることもできるかもしれない。
というか、今更ゆあちゃんを家に戻してどうするつもりなんだ。
そんなのわかってる。また昔のように...。
そんなこと許せるわけがない。
しかし、殺しなんてできない。
そんなことすればあの刑事は間違いなく俺を捕まえにくる。
もしくは俺がそれを社長にチクって、社長が動くように誘導しているのがあの刑事のやり方だろう。
協力できる相手も俺にはもういない。
アイラにはこれ以上迷惑をかけられないし、社長には...頼れない。
ただでさえ裏切ろうとしているのに、そんなことをお願いするなんて俺にはできない。
一人で解決するしかない。
「...大丈夫...ですか?」と、心配そうに...そして少しおびえながらゆあちゃんが俺の顔を覗く。
きっと、ひどい顔をしてしまっていたのだろう。
「え?う、うん...!大丈夫だよ?今度の休みどこ行きたいか決まった?」
「...今度は...おうちでゆっくりで大丈夫です...」
「...そっか。また今度猫カフェ行こうね」
「...はい!」
◇
仕事に行くふりをして家を出て、車に乗り込もうとした瞬間、声を掛けられる。
「おいっす~!」
そこには相変わらず能天気な総一がいた。
「...何してんだ?」
「いや~、ちょっと暇だったからどっきりでもしようかなと待ち構えてたんだけど...なんかすげー深刻そうな顔してたからどうしたんかなと思って!」
「...まぁ、色々あってな」
「どしたん~?話きくでぇ~」と、わかりやすいエセ関西弁に思わず笑った。
そうして、総一を車に乗せて走りながら抱えている問題について話をした。
「...おま...それは...結構やばくね?つーか、社長が隠してる秘密って何なの?」
「...今のところ全然わかんねーよ。俺なりに調べてるけど、闇金らしい仕事はしていてもそれ以外に何かしてるようには見えないし...」
「ふーん。その刑事も相当悪だよなー。人の足元を見るのが上手いというか...。毒を食らわば皿までって感じだな」
「いや、どっちかというと毒を以て毒を制すじゃねーか?」
「おっ、かしこーいw」と、煽りながら拍手をしてくる。
こいつが10年後、すげー賢そうになっているのがやっぱり信じられない。
何がどうなったらああなるんだ...。
「...賢かったら闇金なんかやってねーよ」
「確かにwそんで、秋野さんの件も抱えてると...。大変だな。めっちゃ大変だな」
「...まぁな」
「んで、今はゆあちゃんのお父さんの家に殴り込みに行く...と。おし、俺も協力してやる!」
「...いいよ。別に車で待っててくれたら」
「ばっか、こういう時に頼るのが親友だろ?俺に全部任せとけ!」
「不安しかないんだが」
そうして、奴の家に到着する。
相変わらずのぼろぼろの家にドン引きする総一。
「...こんなやつがどうやって闇金から金借りてたんだよ...」
言われてみれば確かにそうだな。
100万も借りれたってことは結構なコネがあったりしたのか?
まぁ...考えても仕方ないし、いいか。
インターホンを押す。
「...」
いつもであれば、怒鳴り散らかしながらやってくるはずなのに...。
そう思って、もう一度インターホンを押そうとした瞬間、扉が開いた。
すると、やつの手には包丁が握られているのが見えた。
それを振りかざした瞬間、咄嗟に左腕でガードする。
鋭利な感覚が左腕に走り、それなりの深さで切れてしまう。
「いっ...!」と、近くにいた総一を突き飛ばして、総一には手を出させないようにする。
「...ッ...いつになく元気じゃねーか...クズ」と、俺は暴言を吐く。
こういうことは全くないわけじゃない。
闇金をしていれば月1程度で返済できなくなった人間がこういう行動に出るだけに、咄嗟に利き腕ではないほうでガードできる余裕くらいはあった。
「...娘を...返せ...」と、ふらふらと悪臭を漂わせながら近づいてくる。
「...さんざんおもちゃのように扱ってきたくせに、今更、父親面か?ごみクズ」
「...黙れ...お前に何がわかる」
「わかりたくもねーよ。お前の気持ちなんて」
そう言いながら立ち上がり、胸ポケットからナイフを取り出す。
護身用でこういうのは携帯している。一応、ミニスタンガンもあるし、あんなガリガリのじじぃに俺が遅れを取るわけもない。
しかし、家の中ならまだしも外で騒ぎを起こされるのは面倒だな...。
「総一!とりあえず、車を準備しておいてくれ!」と、車のキーを投げる。
「...おう!待ってろ!」
流石は世界を放浪しただけのことはある。
普通の人なら足が動かなくなってもおかしくない場面で、冷静に状況を判断できてるようだ。
さて...どうする。
一心不乱に包丁を振り回しながら近づいてくるので、まずは一旦背を向けて逃げる。
見た目通り体力も持久力もないので、距離を保つのは簡単だった。
どうせ話し合いでどうこうなるわけじゃねーし、説教じみたことを俺が言っても何の効果もないだろう。
なら、体力が底をついた瞬間に抑えるか。
そうして、数分で体力の限界を迎えたのか、膝に手をついて息を荒くする。
もちろん、演技の可能性もあるので、警戒しながら近づくと...何やら小さい声で何かをつぶやいていた。
「...った...んだ」
「...あ?」
「...じがいったん...だ」
「なんだって?」
「あの...刑事が...いったんだ...あいつが...俺に...助けを求めてるって...だから...俺が...」
その瞬間、俺の中の怒りがピークに達した。
それはあの刑事がこのクズを囃し立てていたという事実と、このゴミが自分のやってきたことを棚に置いて、助けるなんて言う言葉を吐いたからだ。
走馬灯...ではないが、いろんなことが頭の中を駆け巡る。
『色々仕込んだので、おもちゃとして結構使えますよ!それに家のことは結構できますし!...お兄さんと仲良くお話しする...どこにも...いかないで...ほしい...です...猫と...私...どっちが可愛いですか?...私...今幸せです...』
俺は手に持っていたナイフを離し、奴に近づいて素手で思いっきり殴った。
死ね...と思いながら。




