添い寝
「どうだった?」
「…事情を話したら、とりあえず帰ってもらえました。けど、これからはゆあちゃんのことを定期的に報告しないといけなくなりました」
「…そうか。まぁ、今日はゆっくり休め。最近色々神経使って疲れたろ」
「…はい」
そうして、ゆあちゃんを連れて家に帰った。
玄関のドアを開けると、埃っぽい空気が鼻をつき、ソファのクッションが少し乱れているのが目に入る。
靴を脱ぐと、ゆあちゃんがすぐさま背中にぴったり張り付いてきた。小さな手がシャツを掴み、微かな震えが伝わる。
「…心配しなくて大丈夫。俺は平気だ。絶対に…やり遂げて見せる」
「…私のせいで…」
「それは違う。これは俺のやりたいことなんだ。俺がゆあちゃんと一緒に居たいから」
でも、アイラを巻き込んでしまったのは完全にミスだった。
ゆあちゃんの面倒を見てもらったりした上に、さらに借りが増えてしまった。
それでも、ずっと誰かに見張られているような息苦しさから解放されたのは助かる。
ゆあちゃんも事務所と家を行き来する生活で疲れが溜まってたはずだ。
今日はゆっくり休もう。
テレビをつけ、リモコンを手に持ったままサブスクで適当な映画を選ぶ。
ソファに腰を下ろし、画面に流れる予告編をぼんやり眺めていると、すぐに眠気が襲ってきた。
まずい…お昼ご飯を作らないと…。
そう思いながらも、まぶたが重くなり、そのまま目を閉じてしまう。
◇
目を覚ますと、いつの間にかソファで横になっていた。
体を起こそうとすると、肩に掛けられた薄い布団がずり落ちる。
ゆあちゃんがかけてくれたのかな。
そう思って手を伸ばすと、腰に誰かの腕が絡まっていることに気づく。
振り返ると、すぐ後ろに誰かがいる気配。
まさか一緒に寝るなんて、そこまで信頼してくれてたのか。
嬉しさがこみ上げ、そっと体を動かして反対を向くと、そこには緩めのタンクトップを着たアイラが片目を開けてこちらを見ていた。
赤髪が乱れて顔に張り付き、眠そうな表情で口が半開きだ。
「せんぱぁい…起きたんですかぁ…?」
豊満な胸がタンクトップからこぼれそうで、思わず目が釘付けになる。
「…!!// お前、何してんだよ!?//」
慌ててソファから転がり落ち、床に尻をつける。
「えぇ〜?…何って…添い寝ですよぉ…添い寝ぇ…」
アイラはだるそうに体を起こし、片手で髪をかき上げる。
「いやだからなんで添い寝してんだよって聞いてんだよ!てか、顔の刺青はどうした!?」
「…?いやあれ…普通にシールっすよ…。ガチで顔に刺青入れるわけないじゃないっすか…」
こいつ…。
叱ろうとした瞬間、アイラへの借りを思い出し、喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込む。
すると、部屋の扉が微かに軋み、隙間からゆあちゃんがこちらをじっと睨んでいた。
小さな顔が半分だけ見え、目が鋭く光っている。
「い、いや、違うんだ!ゆあちゃん!これは…事故みたいなもので…」
「…」
無言のまま、ゆあちゃんがゆっくり扉を閉める。
カチリと音が響き、部屋が静寂に包まれた。
「浮気の言い訳してる夫みたいですね」
アイラがクスクス笑いながらソファに寝転がる。
「うっせ。てか、何しにうちに来たんだよ」と立ち上がってシャツを直す。
「何って、僕ももう関係者ですし、共犯者ですから。しばらくはこの家に泊まらせてもらおうかなと。ちなみにゆあには既に同意いただいてるっすよ」
俺より先にゆあちゃんに話をつけるなんて、こいつ意外と抜け目ないな。
「…はぁ…まぁ、そうだな。ゆあちゃんもアイラには心を許してるみたいだし。でも、部屋はねーからリビングで寝ろよ」
「え!?一緒に寝ればいいじゃないっすか! なんすか!?僕とは一緒に寝たくないんすか!?」
アイラがソファから跳ね起き、目を丸くして詰め寄ってくる。
「…寝たくねーよ。俺のベッド狭いし…」と返すと、アイラがニヤッと笑った。
「くっついて寝ればいいじゃないすか。てか、合体すればち◯ぽの分も幅取らないですし。よし、合体しましょう」
そう言って、卑猥な手つきで両手を広げ、じりじりと近づいてくる。
「何言ってんだよ、お前は…」
「いや、別にセックスくらいいいじゃないっすか。アメリカじゃあんなのスポーツ感覚っすよ」
「ここは日本だ。それに俺はそういうのは好きな人とするって決めてるんだよ」
「え、でも先輩って彼女いたことないじゃないっすかーw それってつまり先輩が童貞ってことになっちゃいますよ?w」
「…悪いかよ」
「…え?マジで童貞なんすか?…やばっ…興奮してきた」
アイラの目がキラリと光り、口元が緩む。「なんでだよ」と呆れた声で返すと、彼女は肩をすくめて笑った。
そんなやりとりを終え、少しするとアイラがゆあちゃんを連れてきた。
ゆあちゃんは少し不機嫌そうな顔で、アイラの後ろに立っている。
「…どうしたんだ?」
「いえ!ゆあは外に出られるようになったわけじゃないっすか。なので、遊園地にでも行こうかなと!」
いきなり遊園地って…。
ゆあちゃんの顔を伺うと、あまり乗り気じゃないのが一目で分かる。
目が少し下がり、唇が微かに引き結ばれている。多分、アイラが行きたいだけなんだろうな。
全く…11歳の子供に気を遣わせるとは…。
「…いきなり遊園地はどうなんだ?むしろ最近疲れてるだろうし、今日はゆっくりと…」
「僕が行きたいんです!」
アイラが手を挙げて割り込み、ようやく本音を吐く。
ゆあちゃんが小さくため息をつくのが聞こえた。
「…はぁ…分かった。借りがあるからな。ゆあちゃんはどうする?家で休みたかったら大丈夫だよ?」
「…私も行きます」
ゆあちゃんが静かに答えると、アイラが目を輝かせた。
「よーし、みんなで行きましょう〜!最近できた遊園地があるんですよ〜!ちょっと遠いっすけど!」
アイラが勢いよく立ち上がり、部屋に置いてあったバッグを肩に引っ掛ける。
ゆあちゃんは無言で靴を履き始め、俺は仕方なく鍵を手に持った。
そうして、3人で遊園地に行くことになった。




