大学生になったゆあちゃん
◇
朝、窓から差し込む光がカーテンを揺らし、部屋に柔らかな明るさを運んでくる。
ソファに座っていると、ゆあちゃんが寝室から出てきた。
少しはだけた薄手のシャツに、ショートパンツというラフな姿で、髪は寝癖で少し跳ねている。
彼女は大人の女性らしい雰囲気で、俺の横に腰を下ろすと、からかうような笑みを浮かべて言った。
「ねぇ〜、寝起きだからってぼーっとしちゃってない?起きてるのはそこだけ?」
その言葉に目を丸くすると、彼女はくすっと笑ってさらに近づいてきた。
「…ちょっ!?// なんつー格好してんの!?//」
俺が慌てて声を上げると、彼女は肩をすくめて平然と答えた。
「なんつーって…昨日初めてお酒飲んでそのまま寝ちゃったんだから、仕方ないでしょ。ね?昨日みたいなこと…しよ?」
「いやいや!しないから!しないからね!」
「…昨日はあんなにしたのに?なんで?まさか私に飽きちゃったとか…?」
そう言うと、ゆあちゃんは俺の手をそっと握り、そのまま自分の胸の方へ導いた。
柔らかくて温かい感触が手に広がり、一瞬頭が真っ白になる。
「違う!俺はその…昔の…俺であって!俺が知ってるのは10歳くらいのゆあちゃんで!//」
慌てて手を引っ込めると、彼女は少し首をかしげて俺を見た。
「何言って…って、前にも同じようなこと言ってた気がする。…寝ぼけてるわけじゃないの?」
「違う!断じて違う!昨日もゆあちゃんは初めて秋野さんと出会って、めっちゃ睨んでたから!覚えてない!?」
「…秋野…秋野莉乃葉さんね。あー…ふーん。そんなこともあったっけ。まぁ、その初心な反応を見るに本当ってことなんだろうね。分かった。久しぶりに初心な唯斗を見れただけでよしとしようかな。それじゃあ、着替えるからリビングで待ってて」
そう言って、ゆあちゃんは軽やかに立ち上がり、寝室へ戻っていった。
全く…会うたびにどんどん魅力的な女性になっていくゆあちゃん。
10年後の俺は、きっと彼女にメロメロなんだろうな。
そんなことをぼんやり考えながらリビングへ向かうと、またしても家の様子が変わっていた。
以前のボロボロだった家とは打って変わって、今度は普通のマンションらしい部屋だった。
白い壁にシンプルな家具、窓際に置かれた観葉植物が初夏の陽光を受けて生き生きと輝いている。
なんでこんな頻繁に引っ越してるんだろう?
興味本位で部屋を見回し、ふと棚に目をやると、引き出しが少し開いているのが見えた。
中を覗くと、一枚の写真が目に飛び込んできた。
手に取ろうとした瞬間、ズキンと鋭い頭痛が走る。
視界がフラフラと揺れ、何とかソファに倒れ込むように座った。
そこへ、着替えを終えたゆあちゃんが戻ってきた。
「大丈夫? なんか辛そうだけど」
「…写真を見ようとしたらすげー頭痛がして…」
「あー…なるほど。そういうことになるんだ」
「どういう意味?」
「タイムパラドックス…と言ってもこの場合は過去じゃなくて未来だけど。まだ体験していない未来のことを知ろうとしたからじゃないかな。ここで未来を知ると、今後の唯斗の行動が変わっちゃうでしょ。それって未来が変わるのと一緒だから。とりあえず、今日は大人しく家でゆっくりしてな。私も今日は大学休みだし、たくさんいちゃイチャできるし」
そう言うと、ゆあちゃんは俺の横にぴったりと座り、腕に抱きついてきた。
彼女の髪から漂う甘いシャンプーの香り、柔らかい肌の感触、近くで見る整った顔立ち…全てが心をざわつかせる。
や、やばい…。こんなタイプの女の子と毎日一緒にいたら、そりゃ過ちだって起こるよな…。
「なんかドギマギしてて可愛い。10年も前だもんねー。てことは…唯斗はまだ23か。今の私とほぼ同じ歳みたいなものだもんねー。ふふふ。最初にしたときのこと思い出すなー。唯斗、めっちゃおっかなびっくりしながら私を抱いてくれたんだよねー」
まだ体験していない、めちゃくちゃ恥ずかしい話を平然と言われて、俺は顔を赤くした。
「…やめてくれ。恥ずかしい…」
「えー?嫌だよー。唯斗をいじるの楽しいし?ね?今の私を見てどう思う?可愛い? どう?」
「…まぁ…可愛いと思うけど…」
「けど? けど何?」
「いや…すごい変わりようだなって…」
「そうかな~?割と早い段階で堕ちてたと思うけど。今の段階でおっぱい触ってみ?きっと喜ぶと思うよ~?」
「11歳の女の子のおっぱいを触るかよ…」
すると、ゆあちゃんはくすっと笑いながら立ち上がり、お尻を突き出して軽いダンスを始めた。
動きに合わせて髪が揺れ、初夏の風が彼女のシャツの裾をそっと持ち上げる。
「…ちょっ…何してるの…?」
「ん?これすると唯斗、めっちゃ興奮してくれたから。10年前の唯斗にはどうかな~って」
「…いや…そりゃあ…興奮するけど…」
「えぇ!!いつもだったらお尻にちゅーちゅーしてくるのに!!」
10年後の俺よ…もう少し理性を持てよ…。
内心で突っ込みながら苦笑いしていると、突然インターホンが鳴った。
「…ん?誰だ?」
「はいはい、ちょっと待ってね。私が出るから」
ゆあちゃんがドアモニターに向かい、誰かと会話を始めた。
「はーいって…なんで来たの?…え?…あぁ…そういう感じなんだ。えっとねぇ…ちょっと今の唯斗はいつもと違くて…その…うん…わかった」
少し疲れたような表情で戻ってきた彼女に、俺は尋ねた。
「…どうしたの?誰?」
「会えばわかると思う…」
玄関の扉が開く音が響き、足音が近づいてくる。
現れたのは…眼鏡をかけた、めちゃくちゃ賢そうで落ち着いた雰囲気の総一だった。
「やぁ、久しぶりだね…唯斗。半年ぶりくらいかな」
「…おう…」
「おいおい、まさか親友の顔を忘れちゃったのかい?がっかりだな…」
ちらっとゆあちゃんを見ると、彼女は申し訳なさそうな顔で小さく頷いていた。
あの能天気で無邪気な総一が、10年でこんなインテリ風に…?
何があったんだよ。
「…まさかぁ…忘れてないよ」
俺はぎこちなく笑いながら誤魔化した。
「はい、これはゆあちゃんに。駅前に最近できたお店のプリンでね。結構人気らしいよ」
「あ、ありがとうございます、畦倉さん」
「総一でいいって言ってるのに。…それで少し話があるんだけど…良かったらドライブに行かない?」
頭がまた少しズキズキしてきた。
外に出たら、さらにいろんな情報が頭に流れ込んでくるかもしれない。
「…いや…今日は悪いがあんまり体調が優れなくてな…ドライブと話はまた後日でもいいか?」
「…仕方ないね。それじゃあ、今日は普通に家で遊ぶとしよう」
喋り方までまるで別人だ…。
そう思っていると、急に強烈な眠気が襲ってきた。また…これか。
視界がぼやけ、意識が遠のいていく…。




