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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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14/24

借りと貸し


 朝、仕事に出て、昼に一旦家に戻り、ゆあちゃんと一緒にご飯を食べる。


 夕方過ぎに帰宅し、彼女と穏やかな時間を過ごす。


 そんな日々が続き、俺の生活に静かなリズムが刻まれ始めていた。


 ゆあちゃんを引き取ってから、彼女の小さな存在が俺の日常に溶け込みつつある。


 毎朝、俺が仕事に出る前、ゆあちゃんはソファに座って膝を抱え、テレビの音を小さく流している。


 彼女に渡したミントグリーンのスマホは、テーブルの上に置かれ、時折彼女が手に取って何かを見ている姿が目に入る。


 最初は無表情だった彼女が、少しずつ家の中で落ち着いているように見える。

昼に戻ると、冷蔵庫から適当に食材を出して簡単なご飯を作る。


 ゆあちゃんは黙って隣に座り、小さなスプーンでスープをすする。

その静かな時間が、俺にとって何とも言えない安らぎだった。



 ◇


 そんなある日、事務所でいつものように同僚たちと雑談していると、別室に呼ばれた。


「新規のお客が来てるから対応してくれ」と。ドアを開けると、そこにいたのは…同級生の秋野莉乃葉だった。


秋野あきのさん…」

「…山坂くん…」


 秋野莉乃葉。


 俺が通っていた宮川高校で3年間同じクラスだったクラスメイトだ。


 男グループと女グループで一緒に遊ぶ時、たまに言葉を交わす程度の仲だった。


 彼女は少し大人びた雰囲気になりつつも、昔の変わらず金髪で可愛さがそのまま残っている。


 長い髪が肩に落ち、透き通った瞳が少し疲れた色を帯びていた。


 学生時代、人気者で1ヶ月に何人もから告白されていたと噂だったが、誰とも付き合わず、俺の周りの男子も友達止まりで、それ以上の関係にはならなかった。

少し変わった可愛い子、それが俺の印象だった。


 でも、まさか彼女がうちにお金を借りに来るなんて…。


 俺は向かいの席に座り、「…久しぶり」と声をかける。


 部屋は狭く、窓から漏れる春の光が机に淡い影を落とす。


 闇金で働く男と、闇金に金を借りに来る女。


 こんな再会に喜びはなく、気まずい沈黙が流れる。

もしかしたら俺のことなんて覚えてないかもと思っていたが、彼女が口を開く。


「…久しぶり、山坂くん…。噂では聞いていたけど…本当に闇金で働いてたんだ」


 彼女の声は小さく、どこか遠慮がちだ。

俺は軽く頷き、話を進める。


「…まぁね。…それで? いくら借りたいの?」

「…50万円」


 50万か。いきなりその額を貸すのはうちのルールじゃ無理だ。

優良顧客の紹介があれば別だが、初見の彼女には最高30万。


 それも、女性なら提携風俗店で働く条件付きで100万まで可能で、利息もトヨン(10日で4割)からトニ(10日で2割)に下げられる特典付きだ。


 でも、彼女みたいな美人なら、こんなところに頼らずとも風俗やキャバクラで稼げるはずだ。


 既にそういう仕事で首が回らなくなったのか? いや、50万という額なら、その可能性も薄い。 


 そんな金銭感覚なら50万じゃ何の足しにもならない。


 つまり、風俗はやりたくないけどお金が必要…ってことか。

5年この仕事をしていれば、大体の事情は見えてくる。


「…悪いけど紹介なしの初見のお客さん相手に出せるMAXは30万なんだよね。…言いたくなければいいけど…どうしてお金が必要なの?」


 彼女は一瞬目を伏せ、唇を軽く噛む。


 しばらくの沈黙の後、絞り出すように話し始めた。


「…元カレに…別れ際に無理やり犯されて…少しして検査キット使ったけど…その時は妊娠してないって出たけど…最近体調おかしくてもしかしたらって思ったら…妊娠してて…その中絶のお金が必要なの」

「その彼氏は今どこに?」


 彼女は無言で首を振る。

視線が床に落ち、指先が微かに震えている。


 その話を聞いて、真っ先にゆあちゃんの顔が浮かんだ。


 彼女も望まれない子だった。

そして、今、秋野のお腹にいる子もまた望まれていない。


 この仕事で、そんな子供たちの未来を何度も見てきた。

親に捨てられ、虐げられ、それでも生きていくしかない子たち。

ゆあちゃんの小さな背中が頭に浮かび、胸の奥が締め付けられる。


「そういう事情なら国から支援金が出るはずだけど…申請から給付まで時間がかかるから…今お金が欲しいってことだよね? クレジットカードとかのカードローンは? あと、合法の消費者金融…ってそれができないからうちに来てるわけだもんね」

「…全部…元カレに使われてて…」


 彼女の体が小刻みに震えているのが目に入る。話を聞いて分かった。

彼女もDVを受けていたんだ。


 ゆあちゃんの父親と同じような男に、彼女も縛られていた。


「仕事はしてるの?」

「…コンビニでアルバイトしてる…」


 コンビニのバイトじゃ、国からの支援金が出ても、うちの利息を払うだけで精一杯だ。 


 他社の借金もあるなら完済は夢のまた夢。


「他からはいくら借りてるの?」

「…50万を2社から…」

「そっか…なるほどね」


 状況は把握した。もう救いようがない。


 風俗をやりたくない理由は妊娠もあるが、男への恐怖もあるんだろう。


 でも、このままじゃいずれ体を売るか、首を吊るしかない。

彼女の震える手を見ながら、俺の中で何かが引っかかる。


 ゆあちゃんの一件で120万ほど使ったが、俺の貯金はまだ2000万ある。


 闇金で稼いだ金を趣味もなく貯めてきたのが、ここで役に立つ。

個人で貸すこともできるが…さて、どうするか。


 顧客を逃すことになるが、この会話は誰にも聞かれてない。

利息を聞いて断られたことにすれば済む。


「悪いけどやっぱりうちからは30万しか貸せない」

「…うん。わかった…じゃあ…」


 彼女が立ち上がろうとした瞬間、俺は言葉を続ける。


「けど、俺個人としてなら150万は貸せる。そのお金で中絶の費用と他社の借金に充てな。俺への返済は無利子で返済期間も設けない。返せるときに少しずつでいいよ」


 その言葉に、彼女の動きが止まる。

ゆっくり顔を上げ、俺を見つめる。

彼女の目に一瞬、光のようなものが宿った。


「なんで…」


 確かに、なんでか。

俺には一つだけ答えがある。


「ほら、高校の時…覚えてる? 俺が財布を忘れて購買でうろうろしてた時、500円貸してくれたでしょ? その時、秋野さんは俺から利息なんか取らなかったし、返済期限も設けなかった。だから俺も同じことをしてるだけ」


 彼女の目に涙が溢れ出す。

きっと、自分の未来を薄々察していたんだろう。

ここで借りれば返せず、いつか体を売るか命を絶つしかないって。

彼女の手が机に触れ、震えが止まらない。


「ありがとう…っ。私にできることがあったら…なんでもッ!するからッ!」


 土下座しようとする彼女に「ちょ、俺は借りを返しただけだから。顔を上げて」と言うと、何度も「ありがとう」と頭を下げる。


 涙が床にぽたりと落ちる音が、静かな部屋に響く。


「そうだな…。今度、総一と三人でミニ同窓会でも開きたいな」


 彼女はボロボロ涙を流しながら頷いてくれた。


 その後、彼女と少し話をした。


 高校時代の思い出がぽつぽつと蘇る。

総一と一緒に校庭でふざけていた時、秋野さんが遠くから笑って見ていたこと。


 購買での500円の出来事は、俺にとって些細な記憶だったが、彼女には何か特別な意味があったのかもしれない。


 彼女は涙を拭いながら、「あの時は…山坂くんが困ってるのを見て、放っておけなかっただけだよ。だって…」と呟いた。



◇(後日)


 朝の空気が部屋に漂っていた。


 窓の外では桜がほぼ散り、緑の芽が顔を覗かせている。


 後日、秋野さんにお金を渡した。

事務所で彼女と会った後、銀行で150万を引き出し、近くの喫茶店で手渡した。


 木製のテーブルにコーヒーの香りが漂い、窓から見える街路樹が春の終わりを告げている。


「…ありがとう、山坂くん。本当に…助かったよ」


 彼女の手が封筒を受け取り、少し震えていた。

改めてお礼を言われ、彼女から二つの質問を受けた。


「…あのさ…山坂くんって…もしかして奥さんとかいたりする?」

「え? いないよ。なんで?」

「いや…なんとなく。余裕があるっていうか…優しい雰囲気になったな~って思って。そっか…彼女は?」


 ゆあちゃんと暮らしてるからかな?


「いないよ。けど…まぁ、いろいろあって親戚の子供を家で預かってるからそのせいかもな」

「…そうなんだ。そっか…そのせいかな? …それともう一つ…。卒業アルバムってまだ持ってる?」

「卒アル? あぁ…あるけど、卒業してから一回も見てないな。この仕事始めてから友達も離れていったし、見る機会なんてなかったからな。なんで?」

「いや…別にいいの。それじゃあ…3人での同窓会…絶対しようね? 私はいつでもいいから」

「うん。じゃあね」


 そうして、彼女と別れた。

喫茶店を出ると、遠くの街並みが柔らかな光に包まれていた。


 その夜、家に帰ると、ゆあちゃんがソファに座ってテレビを見ていた。

彼女は俺の足音に気づき、振り返る。


「…おかえり」


 小さな声が部屋に響く。

俺はカバンを置き、彼女の隣に座る。


「ただいま。今日、どうだった?」

「…テレビ見てた。…お菓子、食べた」

「そっか」


 彼女の手元には、俺が買っておいたクッキーの袋が開いたまま置かれている。

少しずつ、彼女がこの家で自分らしく過ごせるようになっている気がする。


「なぁ、ゆあちゃん。友達欲しくない?」


 突然の質問に、彼女は少し首を傾げる。


「…分からないです。…学校とか、あんまり行ってなかったから」

「そっか…。俺もさ、昔の友達と久しぶりに会ったんだ。なんか、懐かしくてさ」

「…」

「ほら、学校以外にも小さい子たちが集まるコミュニティとかあるし」と言いかけたところで、ポツリとつぶやく。


「...そういうのはいらないです」


 彼女は無言で頷き、テレビに目を戻す。

でも、その小さな横顔に、微かな変化を感じた。  

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