蒼眼の魔法師
この世界には魔法師がいる。
しかし、魔法師といっても何でも出来るわけではなく、自然界に存在する物質、つまり火や水を操る一般魔法を駆使する魔法師がほとんどであった。
その中の一部は、一般魔法に加え、固有魔法と呼ばれる、結界を張ったり人体を回復したりといった超常的な魔法を扱う者もいた。
そんな中、五十二年前に日本で魔法師と非魔法師の争いが起きる。
魔法師は主に一般魔法を駆使し、非魔法師は銃や戦車といった兵器を扱った。
内戦は二年に渡り続き、お互い疲弊し切った所にノヴァル王国が和解と移住の提案をする。
日本人達はその提案に乗り、ノヴァル王国へ移住していった。
これはそんな五十年後の日本人達の生活の一部である。
◇◇◇
「ふぅ…」
と、今まで見た書類をトントンとまとめ、橘遥花は席を立った。
「氷見君、千秋君、この辺りでちょっと休憩しよう」
「うああ疲れたー。やっぱりずっと椅子に座っていると肩が凝るねえ」
片手を上げ、伸びをしながらそう言ったのは氷見奏音。
オレンジ寄りの赤い髪をポニーテールにした少女で、氷魔法と精神魔法の使い手である。
「けど先生達も薄情だよねー。生徒会をこんな場所に追いやるなんて。元日本人ばかりで気に食わないからといって、一般の生徒が相談に来にくいんじゃ本末転倒じゃない。そこんとこどう思う、千秋君?」
と奏音が愚痴る。
「うーん…そうなんですかね?むしろ俺たちが落ち着いて仕事をしやすいような配慮だと思いますけど。俺たちも魔法師として爵位があるとはいえ、それを良く思わない人たちもいる訳ですし」
千秋と呼ばれた金髪に白いブラウスを着た男子は首を傾げながらそう応える。
棗千秋。
時間停止魔法の名家である棗家の出身で、棗家の例に漏れず固有魔法として時間停止魔法を持っていた。
ちなみに一般魔法は火魔法である。
生徒会室があるのは学園の別館であった。
教室がある本館と違い、コンクリート製の建物で少し寒々しい感じがある。
「ええと、紅茶のティーバッグの場所は、と…」
「あ、橘先輩、俺場所分かってるんで探しますよ」
千秋がそう言って席を立つと、遥花はポットの方へ目線を向けた。
「そうか、ありがとう。それなら私はお湯の用意をしよう」
「じゃあ私はティーカップ出しまーす!」
奏音が元気に手を挙げて言い、お茶の準備が進められていく。
10分後。
それぞれの席に紅茶が置かれ、時間がゆったりとした流れに変わる。
奏音は紅茶に口をつけ、
「うーん、やっぱりウェール地方産の紅茶は美味しいですねえ」
「ああ、今回はポットのお湯にティーバッグを浸しただけだが、機会があればきちんとした淹れ方で淹れるのも良いかもな」
そう遥花が言うと、千秋が遠慮がちにこう言った。
「ここでは良いですけど…この淹れ方、ノヴァルの貴族の人達が見たら卒倒しそうですね」
違いない、と全員で苦笑いし、穏やかな時間が過ぎていった。




