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勇者様、装備のローンが残っていますが? 〜踏み倒そうとしたので、国中の店で取引停止にしました。素っ裸で魔王と戦ってください〜  作者: けーぷ
第一部第二章:ひのきの棒と勇者

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第14話

翌朝。


帝国最高級ホテル『インペリアル・クラウン』最上階のスイートルーム。そこには優雅な朝が訪れていた。


「会長。コーヒーです」

「ああ、ありがとう」


窓から差し込む柔らかな朝日の中で、ワイズはミナが淹れたコーヒーを受け取った。しばらくの間、ワイズは静かに食後のコーヒーを楽しむ。


芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。一口含めば、深みのある苦味と微かな酸味が体に染み渡り、昨日までの移動の疲れを洗い流していくようだった。


王国での殺伐とした逃走劇が嘘のように、そこには静謐で文化的な時間が流れている。


「やはり、ベッドとコーヒーは上質なものに限るな」

「同感です。……さて会長、皆様お集まりです」


ワイズがコーヒーを飲み終えたタイミングで、ミナがいつものように落ち着いた声音で告げた。


彼女が目配せした先、広々としたリビングの隣室には、すでに支店長たちが勢揃いしていた。


・ ・ ・


昨日までのリラックスした雰囲気はない。


全員がフォーマルなスーツを着こなし、手元には分厚い資料を広げている。獲物を前にした狩人の目だ。


ワイズは部下たちと挨拶を交わしながら、ゆっくりと円卓の主席についた。


王国統括支店長、ヘンドリック・ゾラ

王国海運部門統括マネージャー、ベルタ・カスティロ

王国鉱山都市支店長、ギガル・ヴァーガン

王国商業都市支店長、シェリー・ル・フィーナ

帝国統括支店長、ソフィア・ランバート

帝国交易都市支店長、ベルナルド・ロッソ


そして、コールマン商会 商会長 ワイズ・コールマン。


大陸にその名を轟かせる、七名の商人《化け物》たちがその円卓には揃っていた。


「では、会議を始めようか」


空気が引き締まる。最初に口を開いたのは、ワイズだった。


「まずは資産の保全だ。ヘンドリック、昨夜のうちに仕分けは済んでいるな?」

「ええ、完璧に」


王国統括支店長ヘンドリックが、一枚の書類をワイズに手渡す。


「今回、王国から引き揚げた資産、および人材。これらの半数を、即座に共和国にある『本店』へと移送します。すでに輸送馬車団の再編成は完了しており、昼前には出発可能です」

「帝国に残すのは半分でいいのか?」


ワイズの質問に対し、ヘンドリックは肩をすくめながら答える。


「卵を一つのカゴに盛るな、というのは投資の基本ですからね。帝国は現状、我々にとって優良なパートナーですが、いつ王国のように裏切らないとも限りません。現在の情勢では資産は安全側で扱った方が良いと判断しました」


ヘンドリックの言葉に、その場にいた全員が納得の表情で頷く。彼らは身を持って国の裏切りを体験したばかりだ。用心しすぎるということはない。


「いいだろう。この件は引き続きヘンドリックに任せる。輸送部隊は予定通り共和国へ。……さて、ここからが本題だ」


ワイズは組んだ手の指を軽く叩き、邪悪な微笑みを浮かべた。


「損害の補填と、利益の創出。……王国に対する制裁の具体的なプランについて話し合おう」

「お待ちしておりましたわ」


商業部門のシェリーが、艶然と微笑みながら扇子を開く。


「結論から申し上げますと、王国の経済構造は極めて歪。崩すのは積み木崩しより簡単ですわよ」

「詳しく説明してくれ」

「はい。ここ数年、王国の主な収入源は『税収』ではありません。『支援金』ですわ」


シェリーは、円卓に広げられていた地図の上にコインを積み上げた。


「『魔王軍の脅威から人類を守る防波堤』。このお題目を掲げることで、王国は帝国や共和国、聖教国などの人類同盟参加国から莫大な軍事支援金を引き出しています。ですが、ここにおかしな事実があります」


彼女は冷ややかな目で、ワイズを見た。


「これほど莫大な資金が投入されているにも関わらず、戦線は一向に押し戻せていない。それどころか、多くの軍団の装備の更新すら滞っている。……消えたお金はどこへ行ったのでしょう?」

「決まっている。王侯貴族と、勇者一行の懐だ」


鉱山部門のギガルが、忌々しげに吐き捨てた。


「あいつらは戦争を終わらせる気なんてねえんだよ。戦争が長引けば長引くほど、『かわいそうな被害者』として他国から金を恵んでもらえる。いわば『戦争ビジネス』だ」

「その通り」


ワイズが頷く。王国にとって魔王軍は倒すべき敵ではなく、金を産むための舞台装置に過ぎない。


適度に負け、適度に被害を出し、助けてくれと泣きつく。


そうすれば他国から金が入る。その金で贅沢三昧をし、また適当に戦うフリをする。


勇者アレクが魔王討伐を焦らず、遊び歩いていたのもそのためだ。倒してしまえば、自分たちの特権と収入源が消えてしまうのだから。


「腐りきっていますね」


ワイズの背後に控えていたミナが、思わずといった様子で軽蔑の色を隠そうともせずに呟く。


「ああ。だが、そんなふざけたビジネスモデルも今回で終わりだ」


ワイズは地図上の王国の場所に、無造作に×印をつけた。


「我々の目的はシンプルだ。帝国から王国側に圧力をかけ、王国への物と金の流れを完全に遮断する」


ワイズの低い声に、支店長たちが一斉に呼応する。


「海運部門にお任せを。裏ルートも含め、王国へ向かう全ての商船を拿捕、あるいは買収してUターンさせます。穀物一粒たりとも港には入れさせない」


ベルタが拳を鳴らす。


「商業部門は、帝国内の貴族たちにロビー活動を仕掛けますわ。『沈みゆく泥船に金を貸すのはドブに捨てるようなもの』と、優雅に囁いて回ります」


シェリーが妖艶に笑う。


「鉱山部門は魔石の輸出をストップだ。魔石がなけりゃ、魔導兵器も結界も動かねえ。せいぜい粗悪品で戦ってもらおうか」


ギガルが獰猛な笑みを浮かべる。


「そして私とヘンドリックは、それらの効果が出るタイミングを見計らって、帝国政府をはじめとした各国政府に働きかけます。王国との同盟見直しをね」


ソフィアが眼鏡の奥を光らせた。


全てが有機的に連動した、完璧な包囲網。武力など使わずとも、国一つを窒息させるための準備が円卓で淡々と整えられていく。


「よし。では作戦開始だ。……精々、後悔してもらうとしよう。商人を敵に回した代償をな」


・ ・ ・


一方その頃。


帝国の優雅な朝とは対照的に、どんよりとした曇天の下、泥と血の臭いが充満する場所があった。


王国最南端、対魔王軍絶対防衛線『嘆きの砦』。 魔王領と国境を接するこの最前線基地に、重苦しい空気が漂っている。


「くそっ……なんだこの鎧は! 重すぎるぞ!」


苛立ちを露わにしてテント内の簡素な椅子を蹴り飛ばしたのは、勇者アレクだった。

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