第三巻:それでも、頭皮は愛を選ぶ
プロローグ:失ったものほど、軽くはない
人は、
失って初めて気づく。
それがどれだけ、
生活の隙間に入り込んでいたかを。
朝、
目が覚める。
連絡を確認しない。
理由がないからだ。
スマートフォンは、
ただの板切れに戻った。
世界は静かで、
僕の頭皮は、
やけに寒かった。
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第一章:変わるということは、裏切ることだ
僕は、
帽子を被らなくなった。
理由は簡単だ。
守るものが、
なくなったから。
電車の窓に映る自分は、
相変わらず、
つるっぱげだった。
でも、
前よりも少しだけ、
立っていられた。
「……別に、
死ぬわけじゃない」
声に出してみる。
頭皮は、
世界に晒されて、
黙っていた。
それは、
肯定だった。
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第二章:見られることと、見捨てられることは違う
久しぶりに、
面接を受けた。
同じ質問、
同じ視線。
でも。
僕は、
目を逸らさなかった。
頭を、
隠さなかった。
「個性的ですね」
そう言われて、
僕は答えた。
「ええ。
でも、
仕事は平均以上にします」
面接官が、
少し笑った。
その笑顔は、
初めて、
条件反射じゃなかった。
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第三章:好きは、過去形にできない
街で、
彼女を見かけた。
偶然だった。
それが、
救いだった。
月島澄は、
前より少し、
大人になっていた。
でも、
目は変わらなかった。
「……真壁くん」
名前を呼ばれる。
それだけで、
心臓が、
昔の癖を思い出す。
「元気?」
「まあ」
嘘じゃなかった。
「帽子、
被らないんだね」
「うん」
沈黙。
逃げない。
「……似合ってるよ」
その一言で、
報われた気がした。
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第四章:謝罪は、勇気の形をしている
「ごめんなさい」
彼女は、
そう言った。
「私、
あなたを
信じきれなかった」
僕は、
首を振った。
「僕もだよ」
守られるのが怖くて、
愛されるのが怖くて。
「自分を嫌いなまま、
誰かと一緒にいようとした」
それは、
暴力だ。
「……もう一度」
彼女が、
言いかける。
僕は、
遮った。
「今度は、
隠さない」
頭も、
心も。
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第五章:触れることは、選ぶことだ
彼女が、
手を伸ばした。
指先が、
僕の頭皮に触れる。
逃げなかった。
その感触は、
前よりも、
ずっと暖かかった。
「……大丈夫?」
「大丈夫」
嘘じゃない。
頭皮は、
まだ無防備だけど。
心は、
もう裸じゃなかった。
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第六章:世界は、相変わらず厳しい
通行人の視線。
冗談みたいな広告。
全部、
消えない。
でも。
「それが、どうした」
そう思えるようになった。
世界は、
変わらない。
変わったのは、
僕の立ち方だ。
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終章:転生したら、つるっぱげ
結婚式の日。
鏡の前で、
僕は帽子を持っていた。
被らなかった。
月島澄は、
ドレス姿で、
笑っていた。
「似合ってるよ」
今度は、
彼女が言う。
誓いの言葉。
「健やかなときも、
そうでないときも」
頭皮が、
冷える日も。
笑われる日も。
全部、
一緒に引き受ける。
キスの瞬間、
光が反射した。
それは、
祝福だった。
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エピローグ:髪の毛がなくても、物語は終わらない
転生して、
ハゲだった。
悲しくて、
惨めで、
情けなかった。
でも。
愛は、
毛根じゃなく、
選択に宿る。
僕は今日も、
帽子を被らない。
世界に、
頭皮を向けて、
ちゃんと立っている。
――ハッピーエンドは、
髪の毛より、
ずっと確かだった。




